今日、女子高生の私は、親しくもない同級生のメガネ男から、いきなりキスをされました。マジで、なんなの!?

大濠泉

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今日、女子高生の私は、親しくもない同級生のメガネ男から、いきなりキスをされました。マジで、なんなの!?

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◆1

 今日、高校ガッコウでいきなりキスされた。
 隣の席の男の子だった。

 メガネをかけた、真面目な感じの子で、特に意識したこともなかった。
 突然の出来事だった。

「ちょっと、ごめん」

 と声をかけられ、

「なに?」

 と振り向いたら、いきなりキスをされた。

「ふ……ふざけないでよ!
 ワタシにとって、アンタは隣の席に座ってるだけのヒト。
 恋とかラブとか、そーいったの、ないから!」

 ワタシは自分の顔が真っ赤になってることを、頬の熱量で感じていた。
 が、そんなワタシと違って、相手の男は平然としている。

「僕もだよ。キミは本来、僕の隣に座ってるだけのモブだった」

「モブ」ーー〈その他大勢〉ってこと!?
 とんでもなく失礼なことを言われた気がする。

「じゃあ、なんで!?」

「キミの『初めて』を奪いたかったから。
 キミ、初めてだったんだろ?」

 呆気に取られる。
 このとき、隣のメガネ男は、うっすらと笑みを浮かべていた。

「キミ、初めてだったんだろ?」

 そう言われて、実際にファースト・キスを奪われたと、ワタシは実感した。
 じわりと両目に涙があふれた。

「なんでよ?」

 メガネ男は顔を寄せてきて、ワタシの耳元でささやいた。

「キミ、近々、タカシとキスしようと思ってたろ?
 だから、先に頂いた」

 ビックリ。
 ワタシは両目を見開き、改めて、目の前で笑みを浮かべる男の顔を見た。
 男は笑みを消し、仏頂面になっていた。

「僕はアイツに負けるわけにはいかない。
 たとえ恋人との初めてのキスであろうと、あいつに先んじなければならない」

「なに、それ。どうしてなの?」

「先祖からの因縁なんだ」

「バッカみたい!」

 ワタシは大声を上げ、教室から飛び出した。
 その時は昼休みだったけど、ワタシは学校を早退した。

◆2

 その日の夕方ーー。

 近所の公園で落ち合って、タカシに事情を話した。

「なんだよ。それ? ふざけんなよ!」

 タカシも驚いて、しかも怒ってくれた。
 ワタシを優しく抱き締める。

「俺は気にしないよ。そんな変なヤツ、事故に遭っただけだ。
 俺たちで、新たに塗り替えてやろうぜ」

「うん。ありがと」

 キスする。
 タカシの手がスカートへ、そして下着の中にまで伸びる。
 いつになく、タカシは積極的だった。
 でも、ワタシもできるだけ応じるつもりでいた。
 覚悟を決めてきたから。

 隣の席に座ってただけの、気持ちの悪いメガネ男に初めてを奪われた。
 タカシが言うように、ワタシも上書きしたい気持ちでいっぱいだった。
 タカシは濃厚に舌をからめてから、ニッコリ微笑んだ。

「今晩、俺の親、いないんだ。俺ん家、来ない?」

 タカシからのはじめての家誘いだった。

◇◇◇

 翌日、私はタカシの部屋で目覚めた。

 タカシはもうすでに起きているらしく、洗面所の向こうから、シャワーの音が聴こえる。

 タカシの部屋には、小さなテレビが置いてあった。
 テレビをつけてみると、いきなり、あの男の顔が画面に映っていた。
 ワタシのファースト・キスを奪った、あのメガネの地味男だ。

 朝のニュースで、彼の死が報じられていた。
 彼の実の父親が殺したという。

 目を皿のようにして画面を見入っていると、後ろからタカシが抱きついてきた。

「おはよう。
 ほら、復讐は果たしたよ。
 簡単なもんさ。
 ちょっとあおってやっただけでーーまさか殺すとはねえ」

 ワタシは思わずタカシから身を離した。

「何なの、それ? タカシ、アイツのこと、知ってるの?」

「あぁ。アイツも言ってたろ。先祖からの因縁なんだよ。それだけ」

 タカシは白い歯を見せる。
 その笑顔が、隣のメガネ男に、ほんとうにそっくりだった。

(了)
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