女神がアホの子じゃだめですか? ~転生した適当女神はトラブルメーカー~

ぶらっくまる。

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第一章 領地でぬくぬく編

第02話 女神、転生する

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 ファンタズム大陸の西に位置するサーデン帝国の南部。辺境ともい言えるテレサ地方。
 雪解け水が渇いた大地をうるおすころ。とある貧乏貴族の屋敷の一室に、赤ん坊の元気な産声が鳴り響く。

「オギャーオギャー」

(うわー、やってしまったー)

 ローラの後悔の叫びは、産声となった。

(なんとか死なずに済んだようね。でも、これは一体どういうことかしら?)

 落ち着くべくローラが、辺りを確認しようとするが、首を動かせず断念する。覚えている限りでは、盗賊に襲われている女性に憑依して助けようとした。それが気付いたら、こんなことになった。

(うーん、お腹の中の子に憑依してしまったのかしら? って……)

 憑依を解除しようとしてもできず、ローラが愕然とする。

(な、なんでぇええっー!)

 ローラの絶叫は、赤ん坊の泣き声でしかなく、彼女を抱えていた人物が微笑んだ。

「セナ様、元気な女の子ですよ」
「マリナ、顔を見せてくれないかしら」

 ローラが、現状に混乱していると、そんな会話が聞こえてきた。

 ローラを抱きかかえているのは、マリナというらしい。周りが見えないため、栗色の髪を押さえているカチューシャの形や服装から、メイドなのだろうと判断する。

 ベッドに横たわりながらローラを覗き込んでいる女性が、マリナが言っていたセナだろう。出産直後であるためか汗で金髪が濡れており、その碧眼は疲労から少しまどろんでいる。

「まあ、私の可愛いローラ。やっと会えたわね」

(ふむ、計らずもわたしの名前は、ローラなのね。この者たちは、『愛と戦の女神ローラ』と言われているわたしの信奉者なのかしら)

 その名を聞いては、そう思うのも当然だろう。


――――――


 ローラは耐えた。

 二年間ずーっと耐えた。

 最初の一年は、何をするにも自分で何かを出来るハズもなく、何もかもされるがままであった。ローラは、すべてを受け入れて無駄に寝て食べてを繰り返していた訳ではない。色々と聞き耳を立てて情報収集をしながら過ごしていたのだ。

 ローラが生まれたフォックスマン家は、代々優秀な騎士を排出している騎士爵で一応貴族らしい。現当主であるダリルは、近年稀に見る凄腕の騎士で皇帝の覚えも良く、国内で知らぬ者がいないほど有名人だそうだ。

 確かに、わたしの神眼で見たところ、人間にしてはかなり優秀なステータスだし、まだまだ成長の余地も残っているわね、とローラは父であるダリルの能力の高さに感心したりした。

「それにしても、これでよく貴族って言えるわね」

 覚束ない足取りながらも、ようやく歩けるようになったローラは、屋敷探索を日課にしていた。領主の家だけあってそれなりに広く、部屋数は二〇を下らないだろう。ただ、調度品類があまり飾られておらず、ローラが神界から暇つぶしで覗いていた貴族たちの屋敷とは大違いである。貴族であるにも拘わらず、なぜ質素な生活を送っているのかというと、周りに困っている人がいると自分の財産を分け与えてしまうほど、ダリルがお人好しだからである。

 その話を耳にしたローラは嬉しく思い、

「愛と戦の女神ことわたしを信奉しているだけあってさすがだわ」

 としきりに頷くのであった。

 ローラがそれを知るに及んだのは、本当に偶然だった。自分で歩けるようになり、今みたいに屋敷内をウロウロしていたとき。内政官のマチスが、帳簿を見ながら重く深いため息を漏らして嘆いていたのだ。

 受け身で寝ているだけでは、決して得られぬ情報である。ダリルがお人好しかどうかの情報が重要かと言われれば、そんなことはない。むしろ、無駄もいいところである。女神だったローラが数十年の単位で寝ていたことと比べると、そんな無駄も成長したと言っても良いかもしれない。

 トテトテと廊下を歩いていると、ローラの背後から何者かが近付いて来くる。ローラがその気配に気付いて立ち止まる。

「うひゃっ」

 突然、身体が宙に浮き、咄嗟に声が漏れた。

「ローラ様っ、こんなところにいらっしゃったのですね。一人で部屋の外へ出ては駄目ですよ。ほら、戻りましょうね」

 身体の向きを変えられ、目の前にマリナの顔が現れた。ローラはメイド長のマリナに抱きかかえられてしまったのだ。

「イヤ!」
「あらあら、駄々をこねても駄目ですよ」

 ローラが手足をジタバタさせたが、こうなっては為す術がない。全てを見通す神眼は使えるのだが、それ以外の能力は、どうやら二歳児の身体に完全に依存しているようなのだ。これも、完全な誤算である。一日中歩くのは二歳児の身体には負担が大きいため、フライの魔法を試みるも魔力が足りず、それすらできなかった。

 方法を知っているのにできない。

(あー、もどかしいわ。ヒューマンはなんて脆弱なのかしら)

 ローラは何かにつまずく度にそう思うのだった。

 神界からの接触は、今のところ無い。速やかに神に戻りたいローラであったが、連絡がないのではどうすることもできない。それまでは休暇だと思い、のんびりさせてもらうことにしたローラであったが、それは一体いつまで続くのだろうか。


――――――


 更に三年が過ぎた。

「なんで連絡がないのかしら?」

 待てど暮らせど、神界からの連絡は無い。窓辺の椅子に腰を掛けているローラが、窓越しに鳥たちが飛んでいるのを眺めながらそんなことを呟く。

(もしかして、そういうこと? 自業自得? もともと神自身が魔王を倒すとか余計な考えだったのよね。それをわたしったら思い付きで下界に降りたものだから……)

「はぁ……」

 盛大にため息を吐いたことで窓ガラスが白く曇る。

(子供のわたしが魔王を倒すのは、さすがに無理よね。だって、一般的な五歳児の能力しかないんだから。女神のころの能力があれば、生まれたてだろうが魔王を倒せたと思うの)

 ローラは魔王を倒すために下界へと降り立ったが、ヒューマンに転生してしまっては、そんなことが出来るハズもなかった。

 一先ず、神に戻る方法を探りながら神界からの連絡を待っているのだが……待てど暮らせど、神界からの連絡は無い。ローラは完全に放置されていたのだった。

 そこでローラは決心する。

「はあ、やるっきゃないのかしら」

 不幸中の幸いなのが、ローラが生まれたフォックスマン家は騎士家系である。

「わたしが戦闘訓練をしたいと言ってもおかしくない……と思う」

 自信なさげに独白するが、その不安は尤もなことだった。たかが五歳児の、しかも貴族の娘が、戦闘訓練をする必要など全くない。それでも、ローラの思考は独り歩きする。

「神眼を使えば潜在能力の高い人間を探すことができるし、その人間たちを仲間にして魔王討伐も悪くわなさそうね」

 神々がローラの存在を探せないだけで、そんな彼らの目に留まることをすれば、連絡が来ると考えた。

 つまり、魔王討伐――

「思い立ったら即行動よ!」

 ピョンと椅子から飛び降りたローラは、戦闘訓練の許可をもらうべく、この屋敷の最高権力者の執務室へと駆け出すのだった。
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