女神がアホの子じゃだめですか? ~転生した適当女神はトラブルメーカー~

ぶらっくまる。

文字の大きさ
12 / 53
第一章 領地でぬくぬく編

第11話 女神、お披露目会に参加する

しおりを挟む
 デミウルゴス神歴八四一年、二月二二日、維持――ローラの曜日。
 一か月が過ぎるのは、あっという間だった。今日は、待ちに待ったローラの七歳の誕生日。

 本日の最優先事項は、お昼過ぎに開かれるローラのお披露目会なのだが、ローラは目下ある者たちから逃げ延びなければならなかった。

 そろりそろりと壁伝いに背をつけ、廊下の先を窺う。

「あっ……やばっ!」

 ローラを追ってくる猛禽類のようにキランと茶色の瞳を輝かせたモンスターの一人と目が合ってしまった。

「セナ様見つけましたわっ」

 セナに報告したのは、メイド長のマリナである。

「早く取り押さえなさい、マリナ!」

 セナも碧眼をぎらつかせ、すかさず指示を飛ばす。

 しかし、そう簡単に捕まってやる気もないローラが悲鳴を上げながら逃げる。

「うぎゃぁああー!」

 数日前、お披露目会の衣装合わせを口実に、二人はローラのことを着せ替え人形のようにして楽しんでいたのである。ローラにとっては、それはもう二度と味わいたくないほどの苦痛だったのだ。

「ああ、その流れるような金髪、まるで妖精のようですわ」
「でも、ツーサイドアップにした方が時折揺れる様が可愛らしいのじゃないかしらっ」
「それもいいですわね、セナ様」

 セリフだけ聞くとまともな内容だが、

「その目が怖いのよぉー!」

 と脚に速度上昇の身体強化魔法、アクセラレータを掛けてローラが死に物狂いで逃げる。

 が、

 突然、ローラの目の前にマリナが姿を現した。

「むぎゅっ」
「捕まえましたわっ!」

 ローラは、あっけなくマリナに取り押さえられてしまった。

(苦しぃー助けてぇー)

 マリナの胸に抱きとめられる感じで捕まえられたため、マリナの大量破壊兵器のような胸に顔が埋もれ、ローラは呼吸が出来ないでいた。一度捕まってしまうと、七歳の子供が大人に勝てる訳もなく、素直に連行されるしかない。メイド長のマリナは、セナの侍女でもあり、一通りの身体強化魔法が使えるのだ。この二年間の訓練で大分力がついてきたローラでも、まだまだのようだった。

 案の定、数日前と同様に着せ替え人形のように遊ばれ、

「お披露目会まで体力がもつかしら?」

 と考えながら早くその時間が来ることを願うローラであった。


――――――


 数時間が経ち、お昼を回ったころ。
 お披露目の会場であるサロンは、既に招待客で埋め尽くされていた。

 そのうちの一人、ヴェールターが周囲を見渡す。招待客同士、互いにある話題で持ちきりでがやがやと騒がしい。当然、その話題というのは、ローラのことだった。

 七歳のお披露目会を機に社交界デビューとなるのが慣例ではあるものの、ふつうはその前にも他の貴族たちの集まりに連れて行ったりする。それにも拘らず、ことローラに関して言うとダリルはそういった活動を一切してこなかった。そのような催しの際は、もっぱらモーラやテイラーを連れており、ローラは必ず留守番で、未だヴェールターは彼女に会ったことがない。

 それなのに、ダリルやセナが話す内容が、

「ローラには魔法の才能がある」

 だとか、

「目に入れても痛くない可愛さだ」

 と、いった親バカ全開の発言をするものだから、よっぽど可愛いのだろうと噂ばかりが先行しているのだ。

 そして、今回のお披露目会の招待状に、「進学前の子供がいる家は、必ずその子供を連れてくるように」などと招待状に書かれていれば、嫌でも期待をしてしまう。その招待状には、子供と書かれていただけで子息とは一切書いていない。それでも、大人たちは遠回しの表現と受け取り、男子の子供がいる親は張り切って参加している。

 結果、騎士爵の次女のお披露目会にしては、婚約者探しの噂が相まって異例の数の上級貴族・・・・が参加することとなった。

 フォックスマン家は、騎士爵で貴族の最下位・・・である。それでも、ダリルの功績により騎士爵にしては異例の領地持ち。しかも、帝国近衛騎士団の団長という要職を務めたこともあるダリルは、個人的に皇帝陛下の話し相手をするほど、皇帝アイトルに気に入られている。公式な場では、互いにその素振りを見せない。それでも、それは周知の事実であり、それなりに発言権が高いことも知られている。

 詰まる所、政治利用のための駒として、格上の貴族にとってフォックスマン家との婚姻は強力なカードとなる。そんな打算的な思惑をもって上級貴族たちが参加しているとは、ダリルも全くの予想外だろう。

「ふむ、年頃の息子がいないのは残念だが、果たしてダリル卿は一体どういうつもりなのだろうか……」

 人知れず呟いて、胸ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認する。もう間もなくだ。


――――――


 実際、サロンの扉の隙間からその中を覗き込んでいるダリルは、

「どうしよう、セナっ。ガイスト辺境伯は、村が所属している派閥だから良いとして。なぜ宰相のクニーゼル侯爵閣下がいらしてるのだ! うわっ、北方のベルマン伯爵もいるじゃないか……」

 とセナに泣きつきそうな勢いであった。

 そのセナは、ダリルの説明を聞きながら相槌を打つことしかできない。

「あれが、ベルマン伯爵? 熊の獣人なんてはじめて見たわ」

 といった感じだ。

 貴族社会のお披露目会では、来る来ない関係なく招待状を全貴族に送る義務のような仕来りがある。そのため、ダリルとセナがサロンの扉の隙間から参加者を確認をして、思いもよらない人たちの参加に驚いているというのが、今の構図だ。

 そこへ、今回の主役であるローラが近付く。

(全く落ち着きがないわね……それにしても、子供たちは集まったのかしら)

 少し離れた位置にいても、ダリルたちの会話が聞こえていた。ただ、家名を聞いたところでローラには状況が全くわからない。

「どうしたのお父様? あまり子供が集まらなかったの?」

 ローラの不安そうな声音にダリルが振り向き、今の状況を教えてくれた。 

「いや、凄い人数が集まっているよ。ただ、離れた領地からの参加も多いから、ローラの騎士団に入ってくれるかは話次第になってしまうだろう」
「そうなんですね。わかりました、お父様」

 とローラは表面上では簡単に返事を済ませるだけに止める。

(なーんだ。そればかりは、仕方ないわ。今後も考えているから、領地関係なくじっくり見させてもらうから)

 ある程度予想がついていたローラは、それほど深刻に思っていない。

(それにしても、参加者の事前確認位しっかりしなさいよっ! そんな当たり前のことができないなんてダメダメのダメね)

 再び扉の隙間から覗き込んでいるダリルへと、ローラが呆れた視線を向けて嘆息する。

 それから数分後、開始時間になり扉が開かれた。いままで騒がしかった会場は、それを手始めに少しずつ静まっていく。

 先ずは、透き通るような碧眼と同じような水色のドレス姿のセナと、軍服にも似た詰襟つめえりの黒を基調にした貴族服のテイラーが腕を組んで先に入って行く。扉から真っすぐ進むと、サロンの一画に一段高くなった壇が設けられており、そこに椅子が四脚並べられている。そこまで進んだセナとテイラーは、両端に別れ来賓の方へ向き直る。

 それを見届け、ローラの番となった。

 ダリルの腕を掴んで並び、ローラが静々と会場の中へと入って行く。

「「「「「「おおぉー……」」」」」」

 ローラの姿を確認した参加者から、次々にため息にも似た驚き声が聞こえてくる。

 ローラは、セナと同じような水色のドレス姿なのだが、所々金糸で刺繍が施されており、胸元には帝国カラーである真っ赤な魔法石とミスリルの台座であしらえられたペンダントが輝いていた。

「あれは、ダリル卿が自慢するのも頷けるな」
「そうですな。あの輝く金髪に透き通るような碧眼は、ドリーセン伯爵のセナ嬢譲りだな。美しい」
「いや、あの凛々しい顔立ちはダリル卿に似ている。七歳とは思えぬ美貌だ」

 そんな感じで、ローラに対する賞賛しょうさんの声がサロン中から聞こえてくる。

(あらあら、そんなにまじまじと見られたら恥ずかしいじゃない)

 当のローラはまんざらでもない。自分に向けられる賛美さんびする声に、ローラは柄にもなく壇上で頬が熱くなるのを感じて俯く。その初々しいローラの姿に、またもや感嘆の声が発生する。が、ローラにとっては戦場のつもりで挑んでいる。

 さあ、いよいよね、とローラが気を引き締める。

(せっかく良い子を見つけても、わたしとじゃ無理と言われたら嫌だもん)

 挨拶の内容は、色々と考えた。子供らしさを残しつつ、でも真剣に伝える。

「あー、良い子がいると良いな」

 と誰の耳にも届かない程度の呟きと供に、参加者の顔を女神の祝福の笑みで見渡すローラであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

子ドラゴンとゆく、異世界スキル獲得記! ~転生幼女、最強スキルでバッドエンドを破壊する~

九條葉月
ファンタジー
第6回HJ小説大賞におきまして、こちらの作品が受賞・書籍化決定しました! ありがとうございます! 七歳の少女リーナは突如として前世の記憶を思い出した。 しかし、戸惑う暇もなく『銀髪が不気味』という理由で別邸に軟禁されてしまう。 食事の量も減らされたリーナは生き延びるために別邸を探索し――地下室で、ドラゴンの卵を発見したのだった。 孵化したドラゴンと共に地下ダンジョンに潜るリーナ。すべては、軟禁下でも生き延びるために……。 これは、前を向き続けた少女が聖女となり、邪竜を倒し、いずれは魔王となって平和に暮らす物語……。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...