女神がアホの子じゃだめですか? ~転生した適当女神はトラブルメーカー~

ぶらっくまる。

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第一章 領地でぬくぬく編

プロローグ

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 神の一柱である、「愛と戦の女神ローラ」の領域――

 見渡す限りの真っ白な空間にポツンと、不自然に同じく真っ白なソファーベッドが一つ。
 純白のワンピースドレスに羽衣を纏った神秘。白で支配された無機質な世界を、異質なほど美しい金髪が煌めいて染め上げる。横を向いている素顔は、色に覆われて隠れている。

 そう、女神ローラは、ぐでーっと力なくうつ伏せに寝そべっているのだ。

 そこへ、異次元転移発生のアラームが鳴る。次元の歪を感知したようである。

 途端、パチリとローラが瞼を開くと、輝く髪の隙間から透き通った海を思わせる碧眼が露になる。女神と呼ばれるにふさわしい美女だが、ガバっと顔を上げた様は、どこか間抜けにもみえる。

 アラームに釣られたのか、ローラがけだるそうに右腕を横に伸ばして指を鳴らすと、数メートルの輪っかがベッドの脇にどこからともなく現れた。それは、地上を除くための窓であり、通称――神の窓。もそもそと這いつくばって移動したローラが、ベッドの縁を両手で掴み、頭だけを出して覗きはじめる。 

 どこかの王城らしき豪奢な広間が、映し出されている。おそらく、異世界召喚魔法が行使されでもしたのだろう。

「なんで、わざわざ苦労してまで召喚なんてするのかしらねー」

 女神の声音は、さして興味があるというわけではなく、かったるそうだった。きっと、掲げられている旗の紋章に見覚えがなく、自分を信仰している国ではないと気付いたのかもしれない。

 一先ず、声を掛けることにしよう。

「ローラ様、いきなりどうしたんですか?」


――――――


 地上の窓を窺うように覗き込んでいたローラは、いきなり声を掛けられ、ドキッとした。

 訝しむ表情と共に女神の名を呼んだ人物は、白い布を巻き付けただけの服装。背中から純白の毛羽立つ翼を生やしており、プラチナブロンドの癖毛の上には、淡い黄色に光る円盤が浮かんでいる。ローラ専属の天使だ。

(あれ? いつの間に? てか、誰だったかしら……確か、アイツ……だったかしら? てへっ、ど忘れしたわ)

 誰に言うわけでもなく、ローラがそんなことを思いつつ地上の変化に声を出す。

「ほら、言わんこっちゃないわ。異世界召喚なんて大魔法を無理して使うから、今にも魔力切れで失神しそうじゃないの。ねえ、そこのあなたもそう思うでしょ?」

 早速、近くにいる天使に同意を求める。

「僕に言われても困りますよ……テイラー様に確認したらいかがですか?」

 本当に困ったのだろう。天使が眉根を顰めて自分の意見は言わず、他の神の名を出した。

 テイラーは、英雄神と呼ばれており、ローラと同じく下界を管理する神々の一柱である。天使がその神の名を出したのは、彼こそがヒューマンたちに勇者召喚の魔法を伝授した張本人だからである。つまりは、上位者の考えなど知ったこっちゃない天使は、ローラの上司にあたる英雄神の名前をあげて提案するよりほかないのだろう。

 が、

「それは嫌っ! 絶対に嫌だわ」

 何がそんなに嫌なのかはローラ自身も不明だ。何となく好きになれないのである。実際、ローラは他の神々と関りを持つことを避けている。

「それにしても二千年もの間のぞき続けているのに、いまさらその感想ですか……」

(へーそんなに経ってるんだ……この世界を担当し始めたのがつい最近のように感じるわ)

 ローラが天使の指摘に心の中で適当に言い訳をしてから、口にも出す。

「あら、わたしが担当してからもう二千年も経ったのね。それは物忘れが激しくなるわけだわ」
「何をおっしゃるのですか! 年がら年中眠っているローラ様に時間の経過なんて関係ないでしょうに。相変わらず適当ですね」

(そうだった、関係なかった。最後に失礼なことを言われたけど、あー聞こえない)

 ローラは神の中でも戦闘が得意である。それが、神々の大戦が終結した今となっては、ほとんどやることがないのだ。結果、自堕落な生活? を送っているのであった。

「ああ、それと全部独り言だから反応しなくていいわよ」
「えぇぇえーっ!」

 ローラが、天使の驚きの声に眉根をひそめる。

(何よ? わたし、何か変なこと言ったかしら……それにしても面倒だと思うの。えっ、何がだって?)

 天使の訝しむような視線に応えるべくローラが、内心で呟く。

(何か理由があった気がするのだけれど、どの世界も人類が発展して人口が増えると、必ず魔王が現れて人間と戦争を起こすのよねー。特に、ここの世界は、魔人だってヒューマンと大差ないのに、なぜ争いばかり引き起こすのかしら? ただ、他の世界と違いを上げるとすれば、『この世界の魔王は一度も勇者に倒されたことがない』と、言ったところかしら……)

 反応しなくていいと言われても、やはり気になるのだろう。ローラの声を聞こうとしているのか、天使がベッドに近付いて来る。

(わたしとしてはどうでも良いのだけれど、それをお気に召さない上司が、人間にこっそりと異世界召喚の魔法を教えて魔王に対抗する方法を与えたのよね。あとは、異世界召喚できるだけの魔力がないときは、仕方がないので上司が異世界の魂を連れてきて、こっちに転生させるときもあったりする)

「あのー、ローラ様?」

 ローラの隣までやって来た天使が、声を掛けてくるが反応しない。話の最中なのだから最後まで聞いてほしいものだ。
 
(これがまた面倒なのよね。やれ魔法が使えるのか、チート能力はあるのかと、いちいちうるさいと思うの。それがあるとわかると、嬉々として転生していく……頭おかしいとしか思えないわ。だって魔王よ! 何で倒せると思うのよ!)

 地上の様子などどうでもよくなったローラが徐に顔を上げると、翼をはためかせて宙に浮き、離れていく天使の後ろ姿があった。

「……って、聞いてるの? そこのあなた!」
「ひっ! 今度は何か……」

 振り向いた天使が、なにやら怯えた様子で居住まいを正してローラの方へ身体を向ける。

「なによ、その反応……失礼しちゃうわ。うーん、いや、何でもないわ」
「え、えぇー……」

 何故か天使が、ガックシと肩を落とす。

 一方、「あっ、わたしの考えを読む力は無かったわね」と思い出したローラは、興味を失い、また一人考え込む。

「……そうよ! なぜ今まで思いつかなかったのかしら。わたしが下界に降りて魔王を倒せば良いじゃない! ああ、我ながら名案だわ」

 思い立ったら即行動を体現するように、下界に降りるべくローラが、転移魔法陣を展開させる。虹色に光る魔法陣から光柱が発生する。白の世界が、魔法陣から漏れ出る七色の光に彩られる。

「そういうことだから、わたしはこれから下界に降りるわ。じゃっ、あとは宜しくねー」
「え、何言ってるんですかっ、ここはどうするんですか!」

 天使が何か言っているが、ローラとしてはどうでもよいので気にしない。こうしてローラが、笑顔で手を振りながら光の柱に身体を躍り込ませ、神の領域から姿を消すのだった。
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