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第五章 宿命【英雄への道編】
第03話 戻らないミラ
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ダンジョンの一五階層。暗闇の中、僕たち四人の魔導カンテラの光がミラを照らす。
赤みを帯びた金髪は煌めき、白い頬が土汚れているものの、エルサがミラの顔を水魔法で濡らした布で拭う。エヴァが教えてくれた通り、特に外傷はないようだ。むしろ、エルサの膝に頭を乗せて目を瞑っているミラの表情は、まるで眠っているかのように穏やかだった。
エルサがその布を魔法のポーチにしまってから僕を見上げる。
おそらく、あとはよろしく、ということだろう。
僕は、エルサに向かい合うように屈み、左膝と左手を地面に突いて右手をミラの右頬に添える。
僕が意識を魔力放出へと集中させると、淡く光る青白い粒子が舞った。
「よし、目を覚ますんだ、ミラ」
僕は、ミラの中へ魔力の粒子が流れ込むのを確認して集中するために目を瞑る。
が、空気を読まない声に遮られた。
「ミラちゃんの性格だと甘い感じかしらね。うーん、それか……ただ泣かれて終わり、かな?」
エヴァの茶々に邪魔され、嘆息してから僕は目を開ける。
「なにが、『かな?』だよ。てか、フラグを立てるようなこと言わないでよ」
肩越しに振り向いた僕は、ジト目を向けて文句を漏らす。けれども、僕の視線がまったく気にならないのだろう。さっきまで恥じらいを見せていたエヴァはどこへやら、両腕を組んだエヴァは不敵な笑みを浮かべて普段通りに戻っていた。
はたまたそれは、照れ隠しかもしれないけど、僕としてはエヴァとどうこうなるつもりはない。むしろ、エヴァも同じだろうから忘れてくれた方が正直助かる。
口移しでエナジーポーションを飲ませてくれたらしいけど、人工呼吸がキスにカウントされないのと同じだ。
僕が必死に言い訳をしていると、エヴァはべつのことが気になったようだ。
「フラグを立てる? 何よそれ」
日本であれば適切な僕の突っ込みは、この異世界では通用しない。このような遣り取りは過去にも何度か経験しており、僕は決まり文句を言った。
「あ、ごめん。僕が生まれた世界の言葉だから気にしないで……」
僕は首を軽く振ってからミラに向き直り、再び瞼を閉じる。いまは、エヴァの対応よりミラの回復に集中したい。
「ふーん、気になるけど、ミラちゃんが泣き止んだら教えてね」
「はいはい、てか、泣かれる確定なの!」
反射的に僕が振り向きざまにツッコミを入れる。いたずらっ子のような笑みを浮かべたエヴァは楽しそうだ。
僕の言葉が気になるのもわからなくはない。それよりも他の話が先ではないだろうか。
僕たちは、アースドラゴンについての説明を未だ聞けずにいる。エヴァは、全員が目を覚ましたらという条件を付けた。
その説明を早く聞きたい僕は、ミラの回復を急ぐべく集中する。
五分ほど経過しても、一番簡単だと思っていたミラはなかなか目を覚まさない。エルサとイルマのときは、感覚的にそれぞれの最大魔力量の一〇パーセントほどを注ぎ込んだら目を覚ましてくれた。
それにもかかわらず、エルサ以上と言うか、イルマに注いだときよりも長い時間ミラへと魔力を注入している。
「ねえ、何パーセントくらい残ってる?」
残量が気になった僕は、目の前のエルサを見て尋ねる。
「あと五〇もないかも……」
「嘘っ!」
残量を知った僕は、予想以上に魔力を注いでいたため供給を咄嗟に止める。
「ほんとうだよぉー」
疑われたとでも思ったのか、エルサは口を尖らせながら困ったような顔をする。
「いや、信じてるって。ただ、ここに下りてくる前は、七〇〇位って言ってたよね?」
「あー、うん。大体そんな感じだったかな」
僕とエルサの記憶が同じことを確認し、うーん、と唸ってから、僕はミラが目を覚まさない原因を口にしようとした。
「もしかして、魔力が漏れ――」
「それはないと思う」
エルサが即座に否定する。ミラへ放出している魔力が上手く取り込まれずに漏れ出してしまったのではないかと疑ったけど、確かに魔力の粒子が流れ込んでいるのは確認済みだ。
ともなると、原因はなんだろう?
「でもさ。ちゃんと吸収されてるならイルマの最大量より多くミラに注いだことになるよ。時間的に言うと倍近く注いでるかもだし……それでも起きないのは、どういうこと?」
そう言いながら僕はみんなの顔を見渡す。三人とも首を傾げる。
「まあ、そうだよね。あの事故がなければ――」
「それじゃ!」
イルマが何かに気付いたようだ。
「何かわかったの?」
「覚えておらんのか? ミラが元は無尽蔵な魔力を持っていたと言っていたではないか!」
その話は僕も覚えている。ミラは、千発魔法を撃っても魔力切れにならないと言っていたのだ。
「それにじゃ、ニンナに任せたのに、目を覚ますまで数日掛かったじゃろっ」
「あ……そうだった」
ミラとの出会いは、魔力切れで倒れていたところを保護したという経緯がある。その原因は、僕にあると精霊王から言われていたのだ。
僕は大気中の魔力を吸収していただけなのに、なぜか遠く離れた戦闘中のミラの魔力まで奪ってしまい、それをゼロにしてしまったのだとか。だから、僕はそれを事故と表現した。
当時、精霊王が治療を行ったにもかかわらず、魔力生成の機能を回復させることが叶わなかった。しかも、意識を取り戻すのに四日も掛かったのである。
とどのつまり、ミラの魔力を生成する臓器がダメージを負ってしまい、僕と同じように自力で魔力を生み出せなくなってしまったのだ。
「なるほど……マジックポーションで魔力を回復できるか実験したときに言っていたのは、こういうことだったのか……」
僕は、実験と称して白猫亭の部屋でミラの魔力が回復可能なのか試したときのミラの言葉を思い出した。
『体内に流れ込んできて溜められていく感じがすると共に、ストンっと奥に消えていくんですよ』
確か、ミラはそう言っていた。
ミラは、自分の魔力として認知できないけど、ストックとしてはあるのかもしれない。
「うーん、どうしよう。このまま与えたとして、結局目覚めなかったら結構危険だと思うんだけど……どうかな?」
僕が魔力ゼロになったら、昔の僕に戻って役立たずになってしまう。
ゼロの騎士と呼ばれていたときより、素の強さは確実に向上している。それでも、魔法を使えるのと使えないのとでは、剣の柄の先に刀身があるのとないのと同じほど隔絶した差がある。
結局のところ、ゼロの騎士に逆戻りである。
「あたしは、ミラちゃんを背負って帰還する方がいいと思うわ。前衛のあたしが言うのも申し訳ないけど、あたしだけじゃ前線を支えられないわ」
「うむ、そうじゃの。わしもエヴァと同意見じゃな。ミラには悪いんじゃが、見たところ安定していそうじゃしの」
僕もエヴァとイルマに同意見だ。
でも、エルサだけは納得していない様子だった。
「どうなんだろ?」
そう言て首を傾げたエルサは、右手をミラの頭に添えて覗き込む。それから、顔を上げたエルサは、難しい顔をして僕を見た。
「わたしが見た限りだと、いつ目覚めてもおかしくないんだよねー」
エルサは、魔法眼持ち故にミラの魔力が十分なのが見えているのだろう。それでも、ミラの本来の最大量が不明な上に、目を覚まさないのもまた事実。
こればかりは、どうしようもできない。
「そうなんだ。でも、起きないものは仕方がないよ」
「まあ、そうなんだけどね。ただ、魔力の色がコロコロ変わるから――」
エルサが何か言いかけたときだった。
パチッと目を開いたミラが徐に上半身を起こした。
「あっ、起きた」
僕は、突然のことでつい間の抜けた声を出してしまう。
「ふふ、この漲る感じ……いい感じじゃないか」
「え、なに?」
ぼそりと呟いたミラの言葉を聞き取れず、僕が顔を近付ける。
「あ、な、なんでもないです。それより、ほらっ」
小さなミラの手が目の前に差し出され、僕の身体が強張った。
油断していた。
三度目のアレが来たと思った僕は身構える……けれども、そのときは一向に訪れない。
「もっと、近くに」
「ああ、ごめん」
もしかしたら恥ずかしいのかもしれない、と僕は明後日の方向に勘違いをしながらミラに手を差し伸べる。
すると、僕の手を取ったミラはすっと立ち上がり、ペコリと頭を下げて微笑んだだけだった。
「ありがとうございます」
「ど、どういたしまして」
どうやらフラグを回避できたようだ。
が、エヴァに笑われてしまった。
「そ、そうきたかー。いや、傑作だね、これは……くふふっ……」
「なんだよ」
エヴァに笑われた理由は百も承知だ。けれども、僕は不満顔をエヴァに向ける。
「いやぁ、あたしは何もコウヘイが残念そうにしてるなんて言ってないわよ」
「言っているじゃないか。って、べつに期待してた訳じゃ――」
「はいはい、わかったから。これ以上言い訳されると余計にそう思えるから止めて」
エヴァは失礼にも暫く腹を抱えて笑いっぱなしだった。
その様子に物凄く腹が立った。それでも、エヴァの指摘はあながち間違いでもない。
正直、僕はミラからも抱擁を求められると考えており、どんな言葉を掛けながら抱きしめたらよいかとも、脳内演習を済ませていたのだ。
そんな妄想をするなんて僕はどうかしているよ。
赤面した顔を隠すべく、僕は地面を見つめながら思った。
やはり、ダンジョンは人の思考をおかしくさせるのかもしれない。いや、女性に囲まれた生活に慣れてしまい、僕は知らず知らずのうちに自惚れていたのだ。
恋心とは違うと理解しているけど、多かれ少なかれ四人から好意を寄せられている……と、思う。
僕は、身勝手な行動のせいでエルサたちに迷惑を掛け、いかに心配を掛けたのか理解した半面、その分僕が愛されていると実感した。
特にミラは、僕をお兄ちゃんと呼ぶのが気に入った様子だったし。
僕の中では、ミラを可愛い後輩位の感覚になっていた訳で、それが数時間前に妹に変化したのだ。
期待して何が悪い!
ただそれも、エヴァには見透かされていたのだ。
ただただ僕は、エヴァから笑われたまま耐えるしかなく、なかなか顔を上げられずにいるのだった。
赤みを帯びた金髪は煌めき、白い頬が土汚れているものの、エルサがミラの顔を水魔法で濡らした布で拭う。エヴァが教えてくれた通り、特に外傷はないようだ。むしろ、エルサの膝に頭を乗せて目を瞑っているミラの表情は、まるで眠っているかのように穏やかだった。
エルサがその布を魔法のポーチにしまってから僕を見上げる。
おそらく、あとはよろしく、ということだろう。
僕は、エルサに向かい合うように屈み、左膝と左手を地面に突いて右手をミラの右頬に添える。
僕が意識を魔力放出へと集中させると、淡く光る青白い粒子が舞った。
「よし、目を覚ますんだ、ミラ」
僕は、ミラの中へ魔力の粒子が流れ込むのを確認して集中するために目を瞑る。
が、空気を読まない声に遮られた。
「ミラちゃんの性格だと甘い感じかしらね。うーん、それか……ただ泣かれて終わり、かな?」
エヴァの茶々に邪魔され、嘆息してから僕は目を開ける。
「なにが、『かな?』だよ。てか、フラグを立てるようなこと言わないでよ」
肩越しに振り向いた僕は、ジト目を向けて文句を漏らす。けれども、僕の視線がまったく気にならないのだろう。さっきまで恥じらいを見せていたエヴァはどこへやら、両腕を組んだエヴァは不敵な笑みを浮かべて普段通りに戻っていた。
はたまたそれは、照れ隠しかもしれないけど、僕としてはエヴァとどうこうなるつもりはない。むしろ、エヴァも同じだろうから忘れてくれた方が正直助かる。
口移しでエナジーポーションを飲ませてくれたらしいけど、人工呼吸がキスにカウントされないのと同じだ。
僕が必死に言い訳をしていると、エヴァはべつのことが気になったようだ。
「フラグを立てる? 何よそれ」
日本であれば適切な僕の突っ込みは、この異世界では通用しない。このような遣り取りは過去にも何度か経験しており、僕は決まり文句を言った。
「あ、ごめん。僕が生まれた世界の言葉だから気にしないで……」
僕は首を軽く振ってからミラに向き直り、再び瞼を閉じる。いまは、エヴァの対応よりミラの回復に集中したい。
「ふーん、気になるけど、ミラちゃんが泣き止んだら教えてね」
「はいはい、てか、泣かれる確定なの!」
反射的に僕が振り向きざまにツッコミを入れる。いたずらっ子のような笑みを浮かべたエヴァは楽しそうだ。
僕の言葉が気になるのもわからなくはない。それよりも他の話が先ではないだろうか。
僕たちは、アースドラゴンについての説明を未だ聞けずにいる。エヴァは、全員が目を覚ましたらという条件を付けた。
その説明を早く聞きたい僕は、ミラの回復を急ぐべく集中する。
五分ほど経過しても、一番簡単だと思っていたミラはなかなか目を覚まさない。エルサとイルマのときは、感覚的にそれぞれの最大魔力量の一〇パーセントほどを注ぎ込んだら目を覚ましてくれた。
それにもかかわらず、エルサ以上と言うか、イルマに注いだときよりも長い時間ミラへと魔力を注入している。
「ねえ、何パーセントくらい残ってる?」
残量が気になった僕は、目の前のエルサを見て尋ねる。
「あと五〇もないかも……」
「嘘っ!」
残量を知った僕は、予想以上に魔力を注いでいたため供給を咄嗟に止める。
「ほんとうだよぉー」
疑われたとでも思ったのか、エルサは口を尖らせながら困ったような顔をする。
「いや、信じてるって。ただ、ここに下りてくる前は、七〇〇位って言ってたよね?」
「あー、うん。大体そんな感じだったかな」
僕とエルサの記憶が同じことを確認し、うーん、と唸ってから、僕はミラが目を覚まさない原因を口にしようとした。
「もしかして、魔力が漏れ――」
「それはないと思う」
エルサが即座に否定する。ミラへ放出している魔力が上手く取り込まれずに漏れ出してしまったのではないかと疑ったけど、確かに魔力の粒子が流れ込んでいるのは確認済みだ。
ともなると、原因はなんだろう?
「でもさ。ちゃんと吸収されてるならイルマの最大量より多くミラに注いだことになるよ。時間的に言うと倍近く注いでるかもだし……それでも起きないのは、どういうこと?」
そう言いながら僕はみんなの顔を見渡す。三人とも首を傾げる。
「まあ、そうだよね。あの事故がなければ――」
「それじゃ!」
イルマが何かに気付いたようだ。
「何かわかったの?」
「覚えておらんのか? ミラが元は無尽蔵な魔力を持っていたと言っていたではないか!」
その話は僕も覚えている。ミラは、千発魔法を撃っても魔力切れにならないと言っていたのだ。
「それにじゃ、ニンナに任せたのに、目を覚ますまで数日掛かったじゃろっ」
「あ……そうだった」
ミラとの出会いは、魔力切れで倒れていたところを保護したという経緯がある。その原因は、僕にあると精霊王から言われていたのだ。
僕は大気中の魔力を吸収していただけなのに、なぜか遠く離れた戦闘中のミラの魔力まで奪ってしまい、それをゼロにしてしまったのだとか。だから、僕はそれを事故と表現した。
当時、精霊王が治療を行ったにもかかわらず、魔力生成の機能を回復させることが叶わなかった。しかも、意識を取り戻すのに四日も掛かったのである。
とどのつまり、ミラの魔力を生成する臓器がダメージを負ってしまい、僕と同じように自力で魔力を生み出せなくなってしまったのだ。
「なるほど……マジックポーションで魔力を回復できるか実験したときに言っていたのは、こういうことだったのか……」
僕は、実験と称して白猫亭の部屋でミラの魔力が回復可能なのか試したときのミラの言葉を思い出した。
『体内に流れ込んできて溜められていく感じがすると共に、ストンっと奥に消えていくんですよ』
確か、ミラはそう言っていた。
ミラは、自分の魔力として認知できないけど、ストックとしてはあるのかもしれない。
「うーん、どうしよう。このまま与えたとして、結局目覚めなかったら結構危険だと思うんだけど……どうかな?」
僕が魔力ゼロになったら、昔の僕に戻って役立たずになってしまう。
ゼロの騎士と呼ばれていたときより、素の強さは確実に向上している。それでも、魔法を使えるのと使えないのとでは、剣の柄の先に刀身があるのとないのと同じほど隔絶した差がある。
結局のところ、ゼロの騎士に逆戻りである。
「あたしは、ミラちゃんを背負って帰還する方がいいと思うわ。前衛のあたしが言うのも申し訳ないけど、あたしだけじゃ前線を支えられないわ」
「うむ、そうじゃの。わしもエヴァと同意見じゃな。ミラには悪いんじゃが、見たところ安定していそうじゃしの」
僕もエヴァとイルマに同意見だ。
でも、エルサだけは納得していない様子だった。
「どうなんだろ?」
そう言て首を傾げたエルサは、右手をミラの頭に添えて覗き込む。それから、顔を上げたエルサは、難しい顔をして僕を見た。
「わたしが見た限りだと、いつ目覚めてもおかしくないんだよねー」
エルサは、魔法眼持ち故にミラの魔力が十分なのが見えているのだろう。それでも、ミラの本来の最大量が不明な上に、目を覚まさないのもまた事実。
こればかりは、どうしようもできない。
「そうなんだ。でも、起きないものは仕方がないよ」
「まあ、そうなんだけどね。ただ、魔力の色がコロコロ変わるから――」
エルサが何か言いかけたときだった。
パチッと目を開いたミラが徐に上半身を起こした。
「あっ、起きた」
僕は、突然のことでつい間の抜けた声を出してしまう。
「ふふ、この漲る感じ……いい感じじゃないか」
「え、なに?」
ぼそりと呟いたミラの言葉を聞き取れず、僕が顔を近付ける。
「あ、な、なんでもないです。それより、ほらっ」
小さなミラの手が目の前に差し出され、僕の身体が強張った。
油断していた。
三度目のアレが来たと思った僕は身構える……けれども、そのときは一向に訪れない。
「もっと、近くに」
「ああ、ごめん」
もしかしたら恥ずかしいのかもしれない、と僕は明後日の方向に勘違いをしながらミラに手を差し伸べる。
すると、僕の手を取ったミラはすっと立ち上がり、ペコリと頭を下げて微笑んだだけだった。
「ありがとうございます」
「ど、どういたしまして」
どうやらフラグを回避できたようだ。
が、エヴァに笑われてしまった。
「そ、そうきたかー。いや、傑作だね、これは……くふふっ……」
「なんだよ」
エヴァに笑われた理由は百も承知だ。けれども、僕は不満顔をエヴァに向ける。
「いやぁ、あたしは何もコウヘイが残念そうにしてるなんて言ってないわよ」
「言っているじゃないか。って、べつに期待してた訳じゃ――」
「はいはい、わかったから。これ以上言い訳されると余計にそう思えるから止めて」
エヴァは失礼にも暫く腹を抱えて笑いっぱなしだった。
その様子に物凄く腹が立った。それでも、エヴァの指摘はあながち間違いでもない。
正直、僕はミラからも抱擁を求められると考えており、どんな言葉を掛けながら抱きしめたらよいかとも、脳内演習を済ませていたのだ。
そんな妄想をするなんて僕はどうかしているよ。
赤面した顔を隠すべく、僕は地面を見つめながら思った。
やはり、ダンジョンは人の思考をおかしくさせるのかもしれない。いや、女性に囲まれた生活に慣れてしまい、僕は知らず知らずのうちに自惚れていたのだ。
恋心とは違うと理解しているけど、多かれ少なかれ四人から好意を寄せられている……と、思う。
僕は、身勝手な行動のせいでエルサたちに迷惑を掛け、いかに心配を掛けたのか理解した半面、その分僕が愛されていると実感した。
特にミラは、僕をお兄ちゃんと呼ぶのが気に入った様子だったし。
僕の中では、ミラを可愛い後輩位の感覚になっていた訳で、それが数時間前に妹に変化したのだ。
期待して何が悪い!
ただそれも、エヴァには見透かされていたのだ。
ただただ僕は、エヴァから笑われたまま耐えるしかなく、なかなか顔を上げられずにいるのだった。
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