14 / 30
新しい客人
しおりを挟む
午後のユルデ村。素材屋ラミナ堂の前に、一風変わった馬車が止まっていた。
表面に獣の骨や羽、謎の紋章が装飾されたそれは、普通の交易商とは一線を画している。村の子どもたちが興味津々で覗き込んでいた。
「おーい! そこの素材屋さん、ちょっと珍しいモン仕入れてるんだけど、見てかない?」
陽気な声とともに馬車から降りてきたのは――大柄な男だった。年は三十半ば、色黒で長髪を後ろで束ね、肩からいくつものポーチや袋をぶら下げている。
「おや……あんたが、噂の観察屋さんかい? 名前は確か……トーヤだっけ?」
「そうだけど……そっちは?」
「オレはグレイグ。流れの素材売りだ。東の大陸から西回りで旅しててね。この辺じゃ見かけないもんもいろいろあるぜ?」
「東の……!?」
トーヤの目が輝いた。
この異世界で彼が今まで観察・採取してきたのは、ユルデ村とその周辺だけ。つまり、素材の世界は――まだほんの一部に過ぎない。
「ちょっと、その袋の中……見せてもらっていい?」
「もちろん! ただし見るだけってのはナシだぜ?」
グレイグがごそごそと取り出した袋から、見たこともない素材が現れる。
一つ目は、淡く光る金属片。《ミリオ鉱》という名前で、月の出ている夜にしか発光しない希少鉱石。
二つ目は、燃やしても灰が出ない草の束。《ノボシ草》という、乾燥しても炎で蒸発するように消える不思議な植物。
そして三つ目は――奇妙な卵の殻。色は黒紫で、触るとほんのり熱い。
「これは……?」
「それは《ツツラドラゴ》の抜け殻さ。西の火山地帯に巣を作る、小型の火竜が脱皮した皮なんだとさ。こっちじゃまず手に入らないぜ?」
トーヤの好奇心が一気に爆発する。
(これ……実際に火山地帯で採れるのか? どんな環境で、どんな食性で?)
ぐつぐつと脳内に問いが湧いて止まらない。
「なあグレイグ、もしよければ詳しくその辺の話、聞かせてもらえないか? 素材の記録も取りたいし……いずれは、自分の目で見に行きたい」
「ハハッ、いいねえ。こういう反応を待ってたんだよ!」
⸻
その日の夜、ラミナ堂の一角でトーヤとグレイグは素材を広げながら対話を重ねた。
「で、こいつはな、夜にしか見えねぇんだけど、洞窟の中で光るモンをエサにしてんだ。鉱石なのに生き物っぽい、っていうか……」
「へぇ……それ、共生関係に近いのかも。発光菌と連動してるなら、外気に反応してる可能性もある」
「おうおう、理屈で語れるやつがいて助かるぜ。大体の村じゃ“魔法的な何か”って一言で片付けられるからなあ」
トーヤはメモ帳を走らせる。
(知識ってのは、世界の輪郭を描く線みたいなものだ。俺は、もっと描きたい。もっと広く、正確に)
そのとき、ユーリがトレーにお茶を運んできた。
「ふたりとも、熱くなりすぎて火の精霊がやきもち焼きますよ」
「ああ、ごめんごめん。……でも、ユーリ。今度の素材、君も気になるだろ?」
「もちろんです! わたし、いつか“世界中の素材を集めた図鑑”を作るのが夢なんですから!」
グレイグが目を細めた。
「いい弟子を持ったな、トーヤ」
「うん……ホントにそう思うよ」
⸻
数日後。
グレイグは次の町へと旅立った。
去り際、彼はトーヤに小さな布袋を手渡した。
「これ、お前さんならうまく使えるかもしれん。中身は《ノボシ草》の芽。育てるのは難しいが、観察と工夫次第だ」
「……ありがとう。必ず成果出してみせるよ」
馬車の車輪が遠ざかる中、トーヤは静かに、布袋を握りしめた。
(この世界の素材は、まだまだ広い。そして、俺は――きっと、もっと遠くまで行ける)
表面に獣の骨や羽、謎の紋章が装飾されたそれは、普通の交易商とは一線を画している。村の子どもたちが興味津々で覗き込んでいた。
「おーい! そこの素材屋さん、ちょっと珍しいモン仕入れてるんだけど、見てかない?」
陽気な声とともに馬車から降りてきたのは――大柄な男だった。年は三十半ば、色黒で長髪を後ろで束ね、肩からいくつものポーチや袋をぶら下げている。
「おや……あんたが、噂の観察屋さんかい? 名前は確か……トーヤだっけ?」
「そうだけど……そっちは?」
「オレはグレイグ。流れの素材売りだ。東の大陸から西回りで旅しててね。この辺じゃ見かけないもんもいろいろあるぜ?」
「東の……!?」
トーヤの目が輝いた。
この異世界で彼が今まで観察・採取してきたのは、ユルデ村とその周辺だけ。つまり、素材の世界は――まだほんの一部に過ぎない。
「ちょっと、その袋の中……見せてもらっていい?」
「もちろん! ただし見るだけってのはナシだぜ?」
グレイグがごそごそと取り出した袋から、見たこともない素材が現れる。
一つ目は、淡く光る金属片。《ミリオ鉱》という名前で、月の出ている夜にしか発光しない希少鉱石。
二つ目は、燃やしても灰が出ない草の束。《ノボシ草》という、乾燥しても炎で蒸発するように消える不思議な植物。
そして三つ目は――奇妙な卵の殻。色は黒紫で、触るとほんのり熱い。
「これは……?」
「それは《ツツラドラゴ》の抜け殻さ。西の火山地帯に巣を作る、小型の火竜が脱皮した皮なんだとさ。こっちじゃまず手に入らないぜ?」
トーヤの好奇心が一気に爆発する。
(これ……実際に火山地帯で採れるのか? どんな環境で、どんな食性で?)
ぐつぐつと脳内に問いが湧いて止まらない。
「なあグレイグ、もしよければ詳しくその辺の話、聞かせてもらえないか? 素材の記録も取りたいし……いずれは、自分の目で見に行きたい」
「ハハッ、いいねえ。こういう反応を待ってたんだよ!」
⸻
その日の夜、ラミナ堂の一角でトーヤとグレイグは素材を広げながら対話を重ねた。
「で、こいつはな、夜にしか見えねぇんだけど、洞窟の中で光るモンをエサにしてんだ。鉱石なのに生き物っぽい、っていうか……」
「へぇ……それ、共生関係に近いのかも。発光菌と連動してるなら、外気に反応してる可能性もある」
「おうおう、理屈で語れるやつがいて助かるぜ。大体の村じゃ“魔法的な何か”って一言で片付けられるからなあ」
トーヤはメモ帳を走らせる。
(知識ってのは、世界の輪郭を描く線みたいなものだ。俺は、もっと描きたい。もっと広く、正確に)
そのとき、ユーリがトレーにお茶を運んできた。
「ふたりとも、熱くなりすぎて火の精霊がやきもち焼きますよ」
「ああ、ごめんごめん。……でも、ユーリ。今度の素材、君も気になるだろ?」
「もちろんです! わたし、いつか“世界中の素材を集めた図鑑”を作るのが夢なんですから!」
グレイグが目を細めた。
「いい弟子を持ったな、トーヤ」
「うん……ホントにそう思うよ」
⸻
数日後。
グレイグは次の町へと旅立った。
去り際、彼はトーヤに小さな布袋を手渡した。
「これ、お前さんならうまく使えるかもしれん。中身は《ノボシ草》の芽。育てるのは難しいが、観察と工夫次第だ」
「……ありがとう。必ず成果出してみせるよ」
馬車の車輪が遠ざかる中、トーヤは静かに、布袋を握りしめた。
(この世界の素材は、まだまだ広い。そして、俺は――きっと、もっと遠くまで行ける)
10
あなたにおすすめの小説
記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー
コーヒー微糖派
ファンタジー
勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"
その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。
そんなところに現れた一人の中年男性。
記憶もなく、魔力もゼロ。
自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。
記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。
その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。
◆◆◆
元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。
小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。
※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。
表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
イジメられっ子は悪役令嬢( ; ; )イジメっ子はヒロイン∑(゚Д゚)じゃあ仕方がないっ!性格が悪くても(⌒▽⌒)
音無砂月
ファンタジー
公爵令嬢として生まれたレイラ・カーティスには前世の記憶がある。
それは自分がとある人物を中心にイジメられていた暗黒時代。
加えて生まれ変わった世界は従妹が好きだった乙女ゲームと同じ世界。
しかも自分は悪役令嬢で前世で私をイジメていた女はヒロインとして生まれ変わっていた。
そりゃないよ、神様。・°°・(>_<)・°°・。
*内容の中に顔文字や絵文字が入っているので苦手な方はご遠慮ください。
尚、その件に関する苦情は一切受け付けませんので予めご了承ください。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる