異世界に行こうとやる事は変わらない

しののめ あき

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新しい客人

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午後のユルデ村。素材屋ラミナ堂の前に、一風変わった馬車が止まっていた。

 表面に獣の骨や羽、謎の紋章が装飾されたそれは、普通の交易商とは一線を画している。村の子どもたちが興味津々で覗き込んでいた。

「おーい! そこの素材屋さん、ちょっと珍しいモン仕入れてるんだけど、見てかない?」

 陽気な声とともに馬車から降りてきたのは――大柄な男だった。年は三十半ば、色黒で長髪を後ろで束ね、肩からいくつものポーチや袋をぶら下げている。

「おや……あんたが、噂の観察屋さんかい? 名前は確か……トーヤだっけ?」

「そうだけど……そっちは?」

「オレはグレイグ。流れの素材売りだ。東の大陸から西回りで旅しててね。この辺じゃ見かけないもんもいろいろあるぜ?」

「東の……!?」

 トーヤの目が輝いた。

 この異世界で彼が今まで観察・採取してきたのは、ユルデ村とその周辺だけ。つまり、素材の世界は――まだほんの一部に過ぎない。

「ちょっと、その袋の中……見せてもらっていい?」

「もちろん! ただし見るだけってのはナシだぜ?」

 グレイグがごそごそと取り出した袋から、見たこともない素材が現れる。

 一つ目は、淡く光る金属片。《ミリオ鉱》という名前で、月の出ている夜にしか発光しない希少鉱石。

 二つ目は、燃やしても灰が出ない草の束。《ノボシ草》という、乾燥しても炎で蒸発するように消える不思議な植物。

 そして三つ目は――奇妙な卵の殻。色は黒紫で、触るとほんのり熱い。

「これは……?」

「それは《ツツラドラゴ》の抜け殻さ。西の火山地帯に巣を作る、小型の火竜が脱皮した皮なんだとさ。こっちじゃまず手に入らないぜ?」

 トーヤの好奇心が一気に爆発する。

(これ……実際に火山地帯で採れるのか? どんな環境で、どんな食性で?)

 ぐつぐつと脳内に問いが湧いて止まらない。

「なあグレイグ、もしよければ詳しくその辺の話、聞かせてもらえないか? 素材の記録も取りたいし……いずれは、自分の目で見に行きたい」

「ハハッ、いいねえ。こういう反応を待ってたんだよ!」



 その日の夜、ラミナ堂の一角でトーヤとグレイグは素材を広げながら対話を重ねた。

「で、こいつはな、夜にしか見えねぇんだけど、洞窟の中で光るモンをエサにしてんだ。鉱石なのに生き物っぽい、っていうか……」

「へぇ……それ、共生関係に近いのかも。発光菌と連動してるなら、外気に反応してる可能性もある」

「おうおう、理屈で語れるやつがいて助かるぜ。大体の村じゃ“魔法的な何か”って一言で片付けられるからなあ」

 トーヤはメモ帳を走らせる。

(知識ってのは、世界の輪郭を描く線みたいなものだ。俺は、もっと描きたい。もっと広く、正確に)

 そのとき、ユーリがトレーにお茶を運んできた。

「ふたりとも、熱くなりすぎて火の精霊がやきもち焼きますよ」

「ああ、ごめんごめん。……でも、ユーリ。今度の素材、君も気になるだろ?」

「もちろんです! わたし、いつか“世界中の素材を集めた図鑑”を作るのが夢なんですから!」

 グレイグが目を細めた。

「いい弟子を持ったな、トーヤ」

「うん……ホントにそう思うよ」



 数日後。
 グレイグは次の町へと旅立った。

 去り際、彼はトーヤに小さな布袋を手渡した。

「これ、お前さんならうまく使えるかもしれん。中身は《ノボシ草》の芽。育てるのは難しいが、観察と工夫次第だ」

「……ありがとう。必ず成果出してみせるよ」

 馬車の車輪が遠ざかる中、トーヤは静かに、布袋を握りしめた。

(この世界の素材は、まだまだ広い。そして、俺は――きっと、もっと遠くまで行ける)
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