【完結】妊娠した愛妾の暗殺を疑われたのは、心優しき正妃様でした。〜さよなら陛下。貴方の事を愛していた私はもういないの〜

五月ふう

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14.正妃様の夢

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 アリスは夢を見ていた。8年前、誘拐されたアリスを助けてくれた旅人さんと、数日間ともに暮らしていた時の夢だ。

 ぼろぼろの小屋の中。

『ふんふんふん~♪』

 旅人さんの鼻歌が聞こえる。

 熱を出したアリスは小さなベッドに横たわっていた。そんなアリスのために、旅人さんが台所でおかゆを作っている。金髪に黒い瞳の旅人さんは、おそらく40歳前後で、父親と同じくらいの歳だろう。旅人さんは慣れた手つきでおかゆに塩をかけた。

 『アリス。おかゆができたんだが、食べられそうか?』

 『ええ!ありがとう、旅人さん!』

 アリスは明るい笑みを浮かべ、急いで体を起こした。旅人さんに助けられてから数日。初めは熱で動けなかったが、少しずつ体調は回復している。

『旅人さんのご飯は本当に美味しいわ……。本当にありがとう。』

 アリスは感謝の言葉を口にしながら、次々におかゆを口に運んだ。おかゆの温かさと優しい味わいがアリスの心を癒していく。

 旅人はアリスの様子を見ながら、嬉しそうに笑う。

『元気そうでよかったよ。この調子だと、明日にはスウェルド城に向かえそうだな。』

 この村はスウェルド城から少し離れた場所にある。盗賊に誘拐されたせいで、城から離れてしまった。旅人さんは、熱を出したアリスを気遣って、この場所に留まってくれていた。

『そうね……。』
 
 アリスは、昨日、旅人に自分が皇太子レオナルドの婚約者だと打ち明けていた。盗賊から命がけでアリスを救ってくれた旅人さん。彼ならきっと、アリスの秘密を守ってくれるだろう。

『なぁ、アリスは夢を持ってるか?』

 唐突に旅人さんはいたずらっぽく笑って、アリスに尋ねた。

 ーーーー夢?

 アリスは少し驚いた表情を浮かべながら、考え込む。夢と言われても、アリスには明確な答えが見つからなかった。

『夢は……考えたことがないけれど……使命はあると思っていたわ。』

『使命?』

『ええ。私は……スウェルド国とレオナルドを支えることが使命だと思っていた。正妃として、彼の子供を産み、王家の繁栄を続けることだけ……。でも今は、どうしたらいいかわからないの。このままじゃダメな気がして……。』

 アリスは城の世界の人々が貧困で苦しんでいると初めて知り、混乱していた。自分の存在意義が、わからなくなっている。

 ーーーー私が本当にするべきことは……、もっと他にあるんじゃないかしら……。

 思い悩んだ表情を浮かべるアリスの肩を、旅人さんは優しく叩いた。

 『アリスは偉いな。ちゃんと考えて、変えようとしてる。もしかしたらアリスなら、この国を変えられるのかもしれないな。』

 アリスは旅人さんの言葉を受け止めながら、考え込んだ表情を浮かべる。

 ーーーー私がスウェルド国を変える……。

 旅人さんの言葉を心の中で反芻する。その言葉の重さに、アリスは打ちのめされそうだ。

『な、アリス。俺には夢があるんだ。』

『旅人さんの夢?』

『ああ。俺はいつか子供たちが腹いっぱい旨い飯を食える食堂を開きたいんだ。腹が減っていたら、夢も見られねえだろ?』

 旅人さんは真剣な表情で言った。彼の目はキラキラと輝いている。

 ーーーー旅人さんの食堂はきっとみんなを幸せにできるわ。 

 旅人さんは料理人。彼の作った料理を食べると、みんなが笑顔になる。彼が言う通り、食事に困っている子供たちを助けられたら、どんなに素晴らしいだろう。

『私も、いつか旅人さんの夢を手伝いたいわ。みんながお腹いっぱいになれる食堂づくり……私にも手伝わせて!』

 アリスはまっすぐに旅人さんを見つめた。アリスに国を変える力はない。だが、旅人さんの力を借りれば、一歩踏み出せる気がしていた。

『おう、未来の正妃様にそう言ってもらえると、頼もしいぜ。一緒に夢を叶えような!』

 旅人さんが差し出した手を、アリスは強く握った。

 ーーーー皆がお腹いっぱいご飯を食べられる夢の食堂‥‥‥!

 その時、旅人さんの夢はアリスの夢となった。

 『またな、アリス!』

 『ええ!旅人さん本当にありがとう!』

 後日、アリスは旅人さんに見送られ、スウェルド城に帰った。またすぐに、旅人に再会できるだろうとアリスは思っていたのだが、運命は残酷だった。

『アリスの誘拐に関わったものを全員処罰しろ!』

 アリスが城にもどった後のレオナルドの怒りはすさまじかった。彼の怒りの矛先は、アリスを誘拐した盗賊だけでなく、アリスを助けた旅人にも向かう。

『旅人さんは、悪い人じゃないわ!彼は私を助けてくれたの!』

『うるさい!そいつも誘拐犯の一味に決まっているだろう!』

 旅人さんは、アリスを誘拐した一味の一人として国を追われ、ついには命を落としてしまったらしい。

『旅人さん‥‥‥どうして‥‥‥。』

 旅人さんの死を受け入れることはアリスにとって、簡単ではない。

 だからアリスは、誰に反対されようとも孤児院への支援を続け、料理を必死で練習してきた。

 ーーーー旅人さんの夢を、終わらせるわけにはいかない‥‥‥。だって彼は、私のせいで死んでしまったんだもの。



  ◇◇◇
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