37 / 80
36.正妃様と家族
しおりを挟む『今から、3か月間だけ……俺と結婚してくれないか』
ルーカスの言葉に、アリスは呆然と立ち尽くす。
ーーーールーカスは何を言っているの?
アリスの頭の中は疑問でいっぱいだった。
なぜ今になって改まって結婚を申し込んだのだろう?ルーカスが結婚に三か月の期限を付けた理由もわからない。それになぜ自分に求婚したのか。ルーカスにとってアリスは、川で拾った得体のしれない女なのに。
「アリス………。」
黙り込んでしまったアリスをルーカスが優しく呼ぶ。ルーカスの声で、鼓動が早まる。
ルーカスに求婚されたことで、アリスは戸惑いながらも喜びを感じていた。彼が自分に好意を持ち、結婚を望んでくれた。それは確実に、アリスの心をときめかせていた。
ーーーーだめよ……何を考えているの……。
アリスは生涯、二度と結婚するつもりはない。レオナルドとの約束を守れなかった自分が、他の誰かと夫婦になれるとは思えなかった。すぐに求婚を断るつもりなのに、言葉が出てこない。その理由は、きっと、ルーカスの気持ちを傷つけたくないからだけじゃない。アリスは……単純に求婚を断ることを躊躇っていた。
「なぜ……?」
絞り出すような声で、アリスはルーカスに尋ねた。
「3か月後……俺はこの村を離れてある役目を果たすことになったんだ。」
ーーーーある役目?
「危険な役目なの?」
「いや。村長に支援してもらって、本格的に食堂を作ることになったんだ。もっといい場所で大きな食堂を作るのさ。」
「あら……。素敵ね。」
それが本当であれば、とても嬉しいことだ。ルーカスの夢がまた一つ叶うのだ。
でも、ルーカスが本当のことを言っているとは思えなかった。
フルート村の人々は日々の暮らしに困窮している。それなのに、フルート村の村長が新しい食堂づくりに協力なんてできるのだろうか。しかも、3か月後に、フルート村から離れた場所に作るなんて、考えられなかった。
ーーーールーカスはきっと嘘をついている。
直感的にそう思った。ルーカスは村長の家で”ある役目”をうけおった。だけどその内容をアリスに聞かせたくないのだろう。なんだか嫌な予感がする。その役目が良いものだとは思えない。
「でもそれならなぜ、私と結婚したいの……?」
「アリスと……家族になりたいと思ったから。」
ルーカスは穏やかな声でアリスに言った。
「家族……?」
「俺は……アリスに惹かれてる。こんなにも守りたいと思うのはアリスだけだ。」
ルーカスの言葉の一つ一つが、まっすぐにアリスの心に届く。心臓がドクリドクリと音を立てる。彼の想いを嬉しいと感じているのに、同時に何かが怖くなる。
ーーーールーカスの気持ちを変えたのは何?ある役目ってなに?
「3か月間だけ?」
「ああ。」
「それって、変よ。」
「わかってる。」
何かがおかしい。いつも通りのはずのルーカスの雰囲気が少し違う。だが何が違うのか明確にわからない。
「3か月後に、何があるの?本当のことを教えて?」
「言った通りさ。新しい食堂を作るんだよ。アリスと結婚して、一緒に夢を叶えたいんだ。俺たちは同じ夢を持っているだろう?」
誰もがお腹いっぱいご飯を食べられる夢の食堂。アリスが旅人さんから受け継いだ夢。その夢をルーカスはだれから受け継いだのだろう?その答えにアリスはうすうす気が付いている。だからこそ、アリスは混乱していた。
「もし、結婚したとして、3か月たったらどうするの?」
「……どうしようかな。よく考えていなかった。」
ルーカスは微笑んだ。
「正直なところ、アリスが俺の求婚を受けてくれるわけがないってわかってる。だけど、家の前でアリスが待っている姿があまりにも美しくて……愛おしくて……。」
「……。」
「考えるより先に、つい結婚してほしいと言っていた。馬鹿だろ?」
「……ええ。」
「さぁ、アリス。俺の質問の答えを教えてくれ。俺と……3か月間、結婚してくれるか?」
真っ暗い空の下。
短い沈黙の後、アリスははっきりとした声で言った。
「その提案は受け入れられないわ。」
ルーカスはにっこりと笑った。
「そりゃあ、そうだよな。驚かせて、ごめんな。家に帰ろう。」
何事もなかったかのように、ルーカスは家の中に入っていく。そんな彼の後ろ姿を見て、ちくりと胸が痛んだ。
ーーーーどんな返事を私は期待していたんだろう?何を言われたって、彼の言葉に応えることはできないのに。
◇◇◇
30
あなたにおすすめの小説
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【1月18日完結】捨てたものに用なんかないでしょう?
風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。
戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。
愛人はリミアリアの姉のフラワ。
フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。
「俺にはフラワがいる。お前などいらん」
フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。
捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。
「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります
恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」
「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」
十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。
再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、
その瞬間に決意した。
「ええ、喜んで差し上げますわ」
将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。
跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、
王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。
「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」
聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。
藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。
学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。
そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。
それなら、婚約を解消いたしましょう。
そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる