【完結】妊娠した愛妾の暗殺を疑われたのは、心優しき正妃様でした。〜さよなら陛下。貴方の事を愛していた私はもういないの〜

五月ふう

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36.正妃様と家族

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『今から、3か月間だけ……俺と結婚してくれないか』

 ルーカスの言葉に、アリスは呆然と立ち尽くす。

 ーーーールーカスは何を言っているの?

 アリスの頭の中は疑問でいっぱいだった。
  
 なぜ今になって改まって結婚を申し込んだのだろう?ルーカスが結婚に三か月の期限を付けた理由もわからない。それになぜ自分に求婚したのか。ルーカスにとってアリスは、川で拾った得体のしれない女なのに。

 「アリス………。」

 黙り込んでしまったアリスをルーカスが優しく呼ぶ。ルーカスの声で、鼓動が早まる。

 ルーカスに求婚されたことで、アリスは戸惑いながらも喜びを感じていた。彼が自分に好意を持ち、結婚を望んでくれた。それは確実に、アリスの心をときめかせていた。

 ーーーーだめよ……何を考えているの……。

 アリスは生涯、二度と結婚するつもりはない。レオナルドとの約束を守れなかった自分が、他の誰かと夫婦になれるとは思えなかった。すぐに求婚を断るつもりなのに、言葉が出てこない。その理由は、きっと、ルーカスの気持ちを傷つけたくないからだけじゃない。アリスは……単純に求婚を断ることを躊躇っていた。

「なぜ……?」

 絞り出すような声で、アリスはルーカスに尋ねた。

「3か月後……俺はこの村を離れてある役目を果たすことになったんだ。」

 ーーーーある役目?

「危険な役目なの?」

「いや。村長に支援してもらって、本格的に食堂を作ることになったんだ。もっといい場所で大きな食堂を作るのさ。」

「あら……。素敵ね。」

 それが本当であれば、とても嬉しいことだ。ルーカスの夢がまた一つ叶うのだ。

 でも、ルーカスが本当のことを言っているとは思えなかった。

 フルート村の人々は日々の暮らしに困窮している。それなのに、フルート村の村長が新しい食堂づくりに協力なんてできるのだろうか。しかも、3か月後に、フルート村から離れた場所に作るなんて、考えられなかった。

 ーーーールーカスはきっと嘘をついている。

 直感的にそう思った。ルーカスは村長の家で”ある役目”をうけおった。だけどその内容をアリスに聞かせたくないのだろう。なんだか嫌な予感がする。その役目が良いものだとは思えない。

「でもそれならなぜ、私と結婚したいの……?」

「アリスと……家族になりたいと思ったから。」

 ルーカスは穏やかな声でアリスに言った。

「家族……?」

「俺は……アリスに惹かれてる。こんなにも守りたいと思うのはアリスだけだ。」

 ルーカスの言葉の一つ一つが、まっすぐにアリスの心に届く。心臓がドクリドクリと音を立てる。彼の想いを嬉しいと感じているのに、同時に何かが怖くなる。

 ーーーールーカスの気持ちを変えたのは何?ある役目ってなに?

「3か月間だけ?」

「ああ。」

「それって、変よ。」

「わかってる。」

 何かがおかしい。いつも通りのはずのルーカスの雰囲気が少し違う。だが何が違うのか明確にわからない。

「3か月後に、何があるの?本当のことを教えて?」

「言った通りさ。新しい食堂を作るんだよ。アリスと結婚して、一緒に夢を叶えたいんだ。俺たちは同じ夢を持っているだろう?」

 誰もがお腹いっぱいご飯を食べられる夢の食堂。アリスが旅人さんから受け継いだ夢。その夢をルーカスはだれから受け継いだのだろう?その答えにアリスはうすうす気が付いている。だからこそ、アリスは混乱していた。

「もし、結婚したとして、3か月たったらどうするの?」

「……どうしようかな。よく考えていなかった。」

 ルーカスは微笑んだ。

「正直なところ、アリスが俺の求婚を受けてくれるわけがないってわかってる。だけど、家の前でアリスが待っている姿があまりにも美しくて……愛おしくて……。」

「……。」

「考えるより先に、つい結婚してほしいと言っていた。馬鹿だろ?」

「……ええ。」

「さぁ、アリス。俺の質問の答えを教えてくれ。俺と……3か月間、結婚してくれるか?」

 真っ暗い空の下。

 短い沈黙の後、アリスははっきりとした声で言った。

「その提案は受け入れられないわ。」

  ルーカスはにっこりと笑った。

「そりゃあ、そうだよな。驚かせて、ごめんな。家に帰ろう。」

 何事もなかったかのように、ルーカスは家の中に入っていく。そんな彼の後ろ姿を見て、ちくりと胸が痛んだ。

 ーーーーどんな返事を私は期待していたんだろう?何を言われたって、彼の言葉に応えることはできないのに。




   ◇◇◇
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