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6.はじめから間違っていたのかな
しおりを挟むココが秘密の部屋を出て少ししてから、第二王子ステフも自分の部屋に向かう。
ミラント国本宮殿の二階の大きな部屋がステフの部屋。
ドアを開けると、そこにいたのは金髪に碧眼の美女。彼女の名前はアリア・ボスオール。ボスオール伯爵家の令嬢で、ステフとココの幼馴染。ココとステフが婚約していることを知る数少ない人物の一人だった。
「ココに婚約破棄するって伝えたの?」
アリアは目を輝かせて、ステフに尋ねる。アリアは昔からステフのことを深く愛していた。それ故に、ステフとココが地下の部屋でこっそり会っていることに気が付いたのだった。
会話を盗み聞きし続け、二人が婚約していると知った時、アリアは怒り狂った。そして絶対に二人の婚約破棄を成立させてやると誓っていたのである。
「ああ。」
もちろんステフは、そのことを知らない。アリアはステフの良き相談相手のようにふるまっていた。彼女の言葉にはいくつもの嘘が隠されている。
「そう・・・頑張ったわね!でもきっとこれがココのためになるわ。あの子は優しい子だから、本当は好きな人がいるって言えなかったのよ。そうでしょ?」
”ココに好きな人がいる”
つい一ヶ月ほど前、アリアはステフにそんな嘘の情報を伝えた。二人のうちのどちらかに好きな人ができることが、婚約破棄の条件であるとアリアは理解している。
「アリアの言うとおりだった。好きな人がいると・・・ここは今までに見たことがない、優しい笑顔で言っていた。」
ステフはココの言葉を聞いて、ショックを受けている。10年の歳月の中で・・・ステフははっきりとココへの愛を自覚していた。だが彼は・・・アリアの嘘に騙され、ココの本当の気持ちに気が付いていなかった。
「・・・そんなに悲しい顔しないで。ステフ。」
アリアがステフを後ろから抱きしめたが、ステフはその手をそっとほどいた。
「・・・僕は・・・ココをずっと縛っていたけれど・・・ずっとココとの日々が続いてほしいってどこかで思っていたんだ。」
ステフは寂しそうにつぶやいた。
彼は未だに、ココに対して非常に強い負い目を感じている。ココの傷を見るたびにステフは自分自身を責めるのだ。
「・・・ステフ。」
アリアに背を向けるステフは、アリアが恐ろしい顔をしていることを知らない。ステフは心情の吐露をやめられなかった。婚約破棄をしてしまった。もう元には戻れない。自分で言い出したにも関わらず、彼はひどく後悔していた。
「正直・・・動揺した。ココに本当に好きな人がいると聞いて。こんな気持ちになるなら、最初から思いを伝えていればよかったのかな?」
アリアは焦る心を押し殺す。
「いいえ。これでよかったのよ。」
ココさえいなくなれば、ステフは自分に振り向いてくれるに違いないとアリアは10年間信じてきた。だから、ステフの傍で、”良い子”を演じ続けている。
「そう・・・だよな。」
「二人が幸せになるには、婚約破棄が最善の選択だったの!!あのルカという男も言っていたでしょう!」
アリアの言葉で、ステフは昨夜の出来事を思い出す。
ココが好きな男に会わせてあげる。アリアの誘いに乗ってレストランに行くと、長髪で黒髪の男が挨拶をしてきた。
ルカ・ザイラス。彼がミラント医学学院に通う生徒で、ココの男友達だということをステフは知っていた。
”初めまして。ステフ王子様”
青い瞳に整った顔。ルカを見ていると、腹の底から嫉妬心が沸き上がってきた。
”君は・・・ココが好きなのか?”
ステフの愚直な質問にルカは少し戸惑ったようだったが、すぐにすました顔で言った。
”ココの傍にいて、彼女を好きにならないなんて・・・・できません。俺はココを愛していますよ”
ルカの言葉を聞いて、ステフは自分がこれ以上ココの傍にいるべきではないと悟った。彼女をできるだけ早く解放しなければ。そんな思いで、彼は婚約破棄を切り出したのだった。
ぼんやりと昨夜のルカとの会話を思い出していたステフは、ようやくアリアが怒っていることに気が付く。質の悪いことに、ステフはアリアの恋心に全く気が付いていなかった。彼にとってアリアは、秘密を共有する友達に過ぎない。
「・・・どうした・・・?アリア。」
アリアは乱暴に部屋のドアを開け、ステフに背を向けた。
「少しココと話をしてくるわ。」
自分の気持ちを伝えられてしまうのではないか。焦ったステフはアリアを呼び止める。
「今言ったことは・・・!」
アリアは振り向かずに首を振る。
「もちろんココには言わない。わかっているわよ。」
そう言って部屋を出たアリアは、次に何をするべきか考えていた。
◇◇◇
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