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1.義母様に家を追い出されました
しおりを挟む隣国ザルトル国に移住してから一ヶ月後の夕方。
最愛の婚約者サイラス様のお母様が突然家にやってきて、私に言い放った。
「シエリさん。あなたとサイラスの婚約は認められないわ・・・!すぐに荷物をまとめてここから出ていって頂戴!」
「え・・・と・・・。」
引きこもりを経て、少しは気が強くなったと思っていたけれど・・・気のせいだったみたいだ。上手く言葉が出てこない。私は義母様を見つめて、呆然とその場に立ちすくんでいた。サイラス様がいてくれたら・・・そう思うけれど、彼は今、行方不明のフォックス王子を探して、昨夜から家を留守にしている。
私の名前はシエリ・ウォルターン。17歳。
実は私は一ヶ月前まで、隣国デンバー国王子ウルブスの婚約者だった。だが、このウルブスが最低な男で・・・堂々と愛人と浮気をするし、私の嘘の噂を流すし・・・。抵抗のために引きこもっていたら、最終的にウルブスに殺されかけてしまった。
そんな私を救ってくれた恩人が、サイラス・リングイット様。リングイット公爵家の長男であるサイラス様は、ザルトル国第二王子フォックス様の最側近騎士。
”僕は、君が好きだ。
僕と一緒にザルトル国に来てくれますか?”
ウルブスから私を救った後のサイラスの言葉だ。
なぜ彼が私を好きになってくれたのかは正直よくわかっていない。だけど私は優しくて穏やかなサイラス様が大好きだった。二つ返事で了承し、彼と婚約することを決めた。
それから一ヶ月、平穏な日々が続いていたのだが・・・。
サイラスのお母様とは一度挨拶をしただけで、これまで親しく話したことはない。良い距離感をもって見守ってくれているのだと思っていたのだが・・・サイラス様が家を留守にするタイミングを待っていただけだったようだ。
「わかったかしら?!ほら、早く荷物をまとめて出ていって頂戴!」
義母様に詰め寄られて、思わずうなずきそうになってしまう。
「な・・・なぜですか・・・?」
両手をぎゅっと握り締めて、義母様に尋ねた。
この家はサイラス様と私が二人で暮らしている家。義母様が私を追い出す権利はないはずだ。
「貴方が書いたエッセイを読んだわ!」
義母様は鋭い口調で言った。
「あ・・・ありがとうございます・・・。」
そんな状況ではないとわかっているけれども、なんと言ったらいいかわからず、お礼を言った。
”婚約者シエリの引きこもりライフ”
それは私が婚約者ウルブスの浮気と非道な行為について書き記した暴露エッセイである。デンバー国で爆発的な大ヒットとなっていたのだが・・・まさか義母様のところまで届いてしまうなんて思わなかった。
「読み物としては・・・面白かった。」
「よかった・・です・・。」
「でも・・・サイラスの婚約者が書いた内容としてはふさわしくない。わかるでしょ?」
心がずきずきと痛む。義母様が言いたいことはよくわかる・・・。隣国の王子について暴露本を書いた女が、突然息子の婚約者になったのだ。しかもサイラス様はかつて結婚詐欺師に騙されて、財産を持ち逃げされた過去がある。お母さまとしては心配でしょうがないだろう。
「リングイット家は側近として代々ザルトル王家を支えてきたのよ。貴方のようなスキャンダラスな子をお嫁さんにするわけにはいかないの!!婚約破棄は決定事項です!」
「もう二度と・・・エッセイは書きませんから・・・。」
お母さまに必死で訴えるが、彼女は聞き入れようとはしない。
「そんなの口ではいくらでも言えるわ!」
「サイラス様といると・・・幸せなのです・・・。サイラス様も・・・そうおっしゃってくれています。」
何とか言い返す。この方はサイラス様のお母様。できるならば嫌われたくはないし、信じてほしいけれど・・・。
「ふん!あの子に女を見る目はないわ!サイラスには私が選んだ由緒正しいザルトル国の令嬢と婚約してもらいます!いい?シエリさん。サイラスにとってあなたと結婚することは悪影響なのよ。」
「・・・そんな・・・。」
サイラスのお母さまは私にザルトル国のお金を手渡した。
「これは帰りの旅費よ。サイラスが帰ってくる前に、自分の国に戻って頂戴!」
押し付けられたお金をぼんやりと見つめる。
「せめてサイラス様が帰ってくるまで、待ってもらえませんか・・・?」
「いいえ!あなたがいる限りサイラスは目を覚まさない。貴方がこの国を出ていけば、あの子は幸せになれるの!!」
無茶苦茶だ・・・。なぜ義母に私とサイラス様の婚約破棄を一方的に決められなくちゃいけないの?
愕然として私は義母様を眺めた。
「シエリさんをこの家から連れ出しなさい!!」
義母様は傍に控えていた護衛にそう命じると、無理やり私を部屋から追い出した。
ガチャン!!
内側から家に鍵をかける音が聞こえる。なぜ義母様が鍵をもっているの?
「どうしよう・・・。」
家の前の玄関に座り込み、閉じられたドアを呆然と見つめた。なぜこんなことになってしまったんだろう。昨日の夜までは平穏な暮らしだったのに・・・。
私はその場に座り込んで昨晩のことを思い出していた。
◇◇◇
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