3 / 5
俺はこの国一番の商人の息子だぞ! Side パウロ
しおりを挟む
Side パウロ
ある日、モアが王都の祝宴に招かれた。どうやら隣国の王子がこの国に来るらしい。
俺も当然、妻のモアをエスコートして出席する。
豪奢なシャンデリアの下、音楽と笑い声が渦巻く大広間で、俺はいつものように女友達に囲まれて談笑していた。
その隣で、モアは――冴えない田舎娘そのものだった。
そばかすだらけの顔、もじゃもじゃの髪を不格好にまとめ、分厚い眼鏡の奥で所在なげに笑っている。
――やはり場違い。俺の妻にしては冴えない。みっともない。
ところが。
「失礼します」と言ってモアは席を外した。
用でも足しに行ったのだろうと、俺は気にも留めなかった。
……だが、数分後。
広間に戻ってきたモアを見て、思わず息が止まった。
さっきの冴えない娘はどこへ行った?
澄んだ青い瞳、滑らかな髪、化粧ひとつなくとも輝く白い肌。
人々の視線を集める美貌の女が、そこにいた。
「お……おい、モア?」
思わず手を伸ばす。
ぱしん!
冷たくも鋭い音が広間に響いた。
俺の手は、モアの細い指先で思い切りはじかれていた。
ぞっとするほど冷たい瞳が、俺を見下ろしている。
「……っ」
息を呑む俺を一瞥すると、モアは踵を返した。
そのまま迷いなく広間の中央を歩き、大勢の視線を引き寄せながら壇上へと進んでいく。
ドレスの裾が月光のように揺れ、まるで最初からそこに立つべき人物だったかのように――。
◇
「本日、皆さまにお目にかけたい品がございます」
モアが壇上に立ち、両手で抱えた小箱を開く。
そこに納められていたのは、見覚えのありすぎる宝石の首飾り――。
それはモアの“家宝”とされ、父がモアの家から奪い取ったものだった。
「これは、私の家で代々受け継がれた家宝ですが、ある悪徳商人に奪われたものです。今日こうして、隣国の皆さまのご厚意により、私のもとへ戻ってまいりました」
――ご厚意? 誰のことだ?
ざわめきの中、モアの隣に一人の青年が歩み寄る。
輝く金髪、整った顔立ち、誰もが一目でわかる。
隣国の王子――!
人々が息を呑み、囁きが広がる。
「やはり奪ったのは商人の家だったのか」
「嫁いできた令嬢が暴いたのだ」
「隣国の王子まで味方につけて……」
ざわめきの中、さらに堂々とした声が響きわたった。
「その通りだ」
人々の間が割れ、白銀の鎧をまとった男が進み出る。
冠を戴き、鋭い青い瞳がまっすぐにこちらを射抜く。
「第二王子、クレイ殿下……!」
クレイは壇上に上がり、モアの隣に立った。
その瞳は冷たく、まっすぐに俺を睨みつける。
「パウロ・ゼフ。お前とその父ゼフは、貴族の家から財を奪い、娘をも不正に縛ろうとした。加えて、この宝を隣国から密かに持ち去り、己の物としていた罪――断じて許されぬ」
「な……!」
思わず口を開くが、声は震えていた。
「本日、この場にて証人が揃った。もはや言い逃れはできぬ」
クレイは一歩前に進み出て、冷然と告げる。
「パウロ。お前の罪は、すべて公の場で裁かれるだろう」
人々の視線が一斉に俺に注がれる。
背筋を冷たい汗が伝い、足元が揺れる。
「な……何を、勝手なことを……!」
必死に声を張り上げるが、皆が俺から離れていく。
「な……何をしている!」
思わず声を荒げる俺に、モアは涼やかに微笑んだ。
「騙されていたのは、あなたですよ」
「誰だ、その男はっ!」
怒声を張り上げる俺を尻目に、モアは隣国の王子と視線を交わし、指先を絡める。
その仕草のなんと自然で、なんと親密なことか。
俺の鼓動が荒れ狂い、血の気が引いていく。
まさか、ずっと――。
「ふふ……そうね」
モアは軽やかに笑った。
「あなたが言うところの……私の“トモダチ”ですよ?」
その言葉に、大広間がどっと笑いに包まれた。
一方の俺は顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らす。
「なぜだ! どうしてだ! 俺はこの国一番の商人の息子だぞ! なぜこんな仕打ちを――!!」
必死に足掻いたが、すでに遅かった。
王の命を受けた兵士たちが近づき、俺の腕を掴む。
「ゼフ家による宝の不法占有、ならびに数々の不正の嫌疑により、拘束する!」
「待て! 俺は何も悪くない! 父が、父がやったことだ! 俺は知らない、知らなかったんだああああ!」
情けない叫びは、大広間の笑いと囁きにかき消される。
愛人たちも、顔をそむけて俺から距離をとった。
俺の妻――いや、もう妻と呼ぶこともできぬその女だけが、冷ややかな瞳でこちらを見つめていた。
◇
その後、パウロは余罪を追及され、財を巻き上げた証拠が次々と明るみに出た。
父の代からの悪事も暴かれ、パウロは牢に放り込まれた。
石の床で何年も腐るように過ごし、やがて「国を追放」との宣告を受ける。
「なぜだ……なぜ俺が……!」
パウロの叫びは虚しく夜の空に消えていったのだった。
ある日、モアが王都の祝宴に招かれた。どうやら隣国の王子がこの国に来るらしい。
俺も当然、妻のモアをエスコートして出席する。
豪奢なシャンデリアの下、音楽と笑い声が渦巻く大広間で、俺はいつものように女友達に囲まれて談笑していた。
その隣で、モアは――冴えない田舎娘そのものだった。
そばかすだらけの顔、もじゃもじゃの髪を不格好にまとめ、分厚い眼鏡の奥で所在なげに笑っている。
――やはり場違い。俺の妻にしては冴えない。みっともない。
ところが。
「失礼します」と言ってモアは席を外した。
用でも足しに行ったのだろうと、俺は気にも留めなかった。
……だが、数分後。
広間に戻ってきたモアを見て、思わず息が止まった。
さっきの冴えない娘はどこへ行った?
澄んだ青い瞳、滑らかな髪、化粧ひとつなくとも輝く白い肌。
人々の視線を集める美貌の女が、そこにいた。
「お……おい、モア?」
思わず手を伸ばす。
ぱしん!
冷たくも鋭い音が広間に響いた。
俺の手は、モアの細い指先で思い切りはじかれていた。
ぞっとするほど冷たい瞳が、俺を見下ろしている。
「……っ」
息を呑む俺を一瞥すると、モアは踵を返した。
そのまま迷いなく広間の中央を歩き、大勢の視線を引き寄せながら壇上へと進んでいく。
ドレスの裾が月光のように揺れ、まるで最初からそこに立つべき人物だったかのように――。
◇
「本日、皆さまにお目にかけたい品がございます」
モアが壇上に立ち、両手で抱えた小箱を開く。
そこに納められていたのは、見覚えのありすぎる宝石の首飾り――。
それはモアの“家宝”とされ、父がモアの家から奪い取ったものだった。
「これは、私の家で代々受け継がれた家宝ですが、ある悪徳商人に奪われたものです。今日こうして、隣国の皆さまのご厚意により、私のもとへ戻ってまいりました」
――ご厚意? 誰のことだ?
ざわめきの中、モアの隣に一人の青年が歩み寄る。
輝く金髪、整った顔立ち、誰もが一目でわかる。
隣国の王子――!
人々が息を呑み、囁きが広がる。
「やはり奪ったのは商人の家だったのか」
「嫁いできた令嬢が暴いたのだ」
「隣国の王子まで味方につけて……」
ざわめきの中、さらに堂々とした声が響きわたった。
「その通りだ」
人々の間が割れ、白銀の鎧をまとった男が進み出る。
冠を戴き、鋭い青い瞳がまっすぐにこちらを射抜く。
「第二王子、クレイ殿下……!」
クレイは壇上に上がり、モアの隣に立った。
その瞳は冷たく、まっすぐに俺を睨みつける。
「パウロ・ゼフ。お前とその父ゼフは、貴族の家から財を奪い、娘をも不正に縛ろうとした。加えて、この宝を隣国から密かに持ち去り、己の物としていた罪――断じて許されぬ」
「な……!」
思わず口を開くが、声は震えていた。
「本日、この場にて証人が揃った。もはや言い逃れはできぬ」
クレイは一歩前に進み出て、冷然と告げる。
「パウロ。お前の罪は、すべて公の場で裁かれるだろう」
人々の視線が一斉に俺に注がれる。
背筋を冷たい汗が伝い、足元が揺れる。
「な……何を、勝手なことを……!」
必死に声を張り上げるが、皆が俺から離れていく。
「な……何をしている!」
思わず声を荒げる俺に、モアは涼やかに微笑んだ。
「騙されていたのは、あなたですよ」
「誰だ、その男はっ!」
怒声を張り上げる俺を尻目に、モアは隣国の王子と視線を交わし、指先を絡める。
その仕草のなんと自然で、なんと親密なことか。
俺の鼓動が荒れ狂い、血の気が引いていく。
まさか、ずっと――。
「ふふ……そうね」
モアは軽やかに笑った。
「あなたが言うところの……私の“トモダチ”ですよ?」
その言葉に、大広間がどっと笑いに包まれた。
一方の俺は顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らす。
「なぜだ! どうしてだ! 俺はこの国一番の商人の息子だぞ! なぜこんな仕打ちを――!!」
必死に足掻いたが、すでに遅かった。
王の命を受けた兵士たちが近づき、俺の腕を掴む。
「ゼフ家による宝の不法占有、ならびに数々の不正の嫌疑により、拘束する!」
「待て! 俺は何も悪くない! 父が、父がやったことだ! 俺は知らない、知らなかったんだああああ!」
情けない叫びは、大広間の笑いと囁きにかき消される。
愛人たちも、顔をそむけて俺から距離をとった。
俺の妻――いや、もう妻と呼ぶこともできぬその女だけが、冷ややかな瞳でこちらを見つめていた。
◇
その後、パウロは余罪を追及され、財を巻き上げた証拠が次々と明るみに出た。
父の代からの悪事も暴かれ、パウロは牢に放り込まれた。
石の床で何年も腐るように過ごし、やがて「国を追放」との宣告を受ける。
「なぜだ……なぜ俺が……!」
パウロの叫びは虚しく夜の空に消えていったのだった。
98
あなたにおすすめの小説
【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。
天音ねる(旧:えんとっぷ)
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】
アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。
愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。
何年間も耐えてきたのに__
「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」
アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。
愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。
誤字訂正ありがとうございました。4話の助詞を修正しました。
可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした
珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。
それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。
そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。
「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました
唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」
不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。
どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。
私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。
「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。
身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。
婚約破棄されたので、元婚約者の兄(無愛想な公爵様)と結婚します
ニャーゴ
恋愛
伯爵令嬢のエレナは、社交界で完璧な令嬢と評されるも、婚約者である王太子が突然**「君とは結婚できない。真実の愛を見つけた」**と婚約破棄を告げる。
王太子の隣には、彼の新しい恋人として庶民出身の美少女が。
「うわ、テンプレ展開すぎない?」とエレナは内心で呆れるが、王家の意向には逆らえず破談を受け入れるしかない。
しかしその直後、王太子の兄である公爵アルベルトが「俺と結婚しろ」と突如求婚。
無愛想で冷徹と噂されるアルベルトだったが、実はエレナにずっと想いを寄せていた。
婚約破棄されたことで彼女を手に入れるチャンスが巡ってきたとばかりに、強引に結婚へ持ち込もうとする。
「なんでこんな展開になるの!?』と戸惑うエレナだが、意外にもアルベルトは不器用ながらも優しく、次第に惹かれていく——
だが、その矢先、王太子が突然「やっぱり君が良かった」と復縁を申し出てきて……!?
妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付
唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
婚約破棄寸前、私に何をお望みですか?
みこと。
恋愛
男爵令嬢マチルダが現れてから、王子ベイジルとセシリアの仲はこじれるばかり。
婚約破棄も時間の問題かと危ぶまれる中、ある日王宮から、公爵家のセシリアに呼び出しがかかる。
なんとベイジルが王家の禁術を用い、過去の自分と精神を入れ替えたという。
(つまり今目の前にいる十八歳の王子の中身は、八歳の、私と仲が良かった頃の殿下?)
ベイジルの真意とは。そしてセシリアとの関係はどうなる?
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる