【完結】貧乏令嬢、悪徳商人の息子に嫁ぎましたが――浮気と虐げの日々は終わりです

五月ふう

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俺はこの国一番の商人の息子だぞ! Side パウロ

Side パウロ

ある日、モアが王都の祝宴に招かれた。どうやら隣国の王子がこの国に来るらしい。

俺も当然、妻のモアをエスコートして出席する。
豪奢なシャンデリアの下、音楽と笑い声が渦巻く大広間で、俺はいつものように女友達に囲まれて談笑していた。

その隣で、モアは――冴えない田舎娘そのものだった。
そばかすだらけの顔、もじゃもじゃの髪を不格好にまとめ、分厚い眼鏡の奥で所在なげに笑っている。

――やはり場違い。俺の妻にしては冴えない。みっともない。

ところが。

「失礼します」と言ってモアは席を外した。
用でも足しに行ったのだろうと、俺は気にも留めなかった。

……だが、数分後。
広間に戻ってきたモアを見て、思わず息が止まった。

さっきの冴えない娘はどこへ行った?
澄んだ青い瞳、滑らかな髪、化粧ひとつなくとも輝く白い肌。
人々の視線を集める美貌の女が、そこにいた。

「お……おい、モア?」
思わず手を伸ばす。

ぱしん!

冷たくも鋭い音が広間に響いた。
俺の手は、モアの細い指先で思い切りはじかれていた。
ぞっとするほど冷たい瞳が、俺を見下ろしている。

「……っ」

息を呑む俺を一瞥すると、モアは踵を返した。
そのまま迷いなく広間の中央を歩き、大勢の視線を引き寄せながら壇上へと進んでいく。
ドレスの裾が月光のように揺れ、まるで最初からそこに立つべき人物だったかのように――。



「本日、皆さまにお目にかけたい品がございます」

モアが壇上に立ち、両手で抱えた小箱を開く。
そこに納められていたのは、見覚えのありすぎる宝石の首飾り――。
それはモアの“家宝”とされ、父がモアの家から奪い取ったものだった。

「これは、私の家で代々受け継がれた家宝ですが、ある悪徳商人に奪われたものです。今日こうして、隣国の皆さまのご厚意により、私のもとへ戻ってまいりました」

――ご厚意? 誰のことだ?

ざわめきの中、モアの隣に一人の青年が歩み寄る。
輝く金髪、整った顔立ち、誰もが一目でわかる。
隣国の王子――!

人々が息を呑み、囁きが広がる。
「やはり奪ったのは商人の家だったのか」
「嫁いできた令嬢が暴いたのだ」
「隣国の王子まで味方につけて……」

ざわめきの中、さらに堂々とした声が響きわたった。

「その通りだ」

人々の間が割れ、白銀の鎧をまとった男が進み出る。
冠を戴き、鋭い青い瞳がまっすぐにこちらを射抜く。

「第二王子、クレイ殿下……!」

クレイは壇上に上がり、モアの隣に立った。
その瞳は冷たく、まっすぐに俺を睨みつける。

「パウロ・ゼフ。お前とその父ゼフは、貴族の家から財を奪い、娘をも不正に縛ろうとした。加えて、この宝を隣国から密かに持ち去り、己の物としていた罪――断じて許されぬ」

「な……!」

思わず口を開くが、声は震えていた。

「本日、この場にて証人が揃った。もはや言い逃れはできぬ」

クレイは一歩前に進み出て、冷然と告げる。

「パウロ。お前の罪は、すべて公の場で裁かれるだろう」

人々の視線が一斉に俺に注がれる。
背筋を冷たい汗が伝い、足元が揺れる。

「な……何を、勝手なことを……!」

必死に声を張り上げるが、皆が俺から離れていく。

「な……何をしている!」

思わず声を荒げる俺に、モアは涼やかに微笑んだ。

「騙されていたのは、あなたですよ」

「誰だ、その男はっ!」

怒声を張り上げる俺を尻目に、モアは隣国の王子と視線を交わし、指先を絡める。
その仕草のなんと自然で、なんと親密なことか。

俺の鼓動が荒れ狂い、血の気が引いていく。
まさか、ずっと――。

「ふふ……そうね」

モアは軽やかに笑った。

「あなたが言うところの……私の“トモダチ”ですよ?」

その言葉に、大広間がどっと笑いに包まれた。
一方の俺は顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らす。

「なぜだ! どうしてだ! 俺はこの国一番の商人の息子だぞ! なぜこんな仕打ちを――!!」

必死に足掻いたが、すでに遅かった。
王の命を受けた兵士たちが近づき、俺の腕を掴む。

「ゼフ家による宝の不法占有、ならびに数々の不正の嫌疑により、拘束する!」

「待て! 俺は何も悪くない! 父が、父がやったことだ! 俺は知らない、知らなかったんだああああ!」

情けない叫びは、大広間の笑いと囁きにかき消される。
愛人たちも、顔をそむけて俺から距離をとった。
俺の妻――いや、もう妻と呼ぶこともできぬその女だけが、冷ややかな瞳でこちらを見つめていた。



その後、パウロは余罪を追及され、財を巻き上げた証拠が次々と明るみに出た。
父の代からの悪事も暴かれ、パウロは牢に放り込まれた。
石の床で何年も腐るように過ごし、やがて「国を追放」との宣告を受ける。

「なぜだ……なぜ俺が……!」

パウロの叫びは虚しく夜の空に消えていったのだった。



 

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