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皓也のいない二日間①
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日が落ちてきて、水色だった空が少しずつ橙色に変わっていくのを遠くに見ながら、わたしは帰り道を一人で歩いていた。
てくてくと、ただ足を動かすだけ。
そうしていると少しは落ち着いて考えられる様になってきた。
色々あったことを少し整理してみる。
皓也が狼に変身してしまったこと。
皓也がヴァンパイアだったこと。
淳先輩達がハンターだったこと。
……そして、わたしの手のケガが治っていたこと。
忍野君と昇降口に戻り靴を履き替えていたときに気づいた。
血が流れて、絆創膏もはがれてしまって……皓也に舐められた手の傷。
いつの間にか痛みを感じなくなったと思っていたら、傷痕のようなものはあったけれど完全に塞がっていたんだ。
……治っていたのって、皓也に舐められたからだよね?
舐めただけで傷が塞がるなんて信じられないけれど、他に理由が見当たらない。
これも皓也がヴァンパイアだから?
自問して、そうなんだろうなって納得する。
皓也が狼に変身したことは安藤先生たちも分からないって言っていた。
わたしからすれば狼男なんじゃないの? と思うんだけれど、二人が言うにはヴァンパイアであることは確からしい。
まあ、血を飲んでいたからそれでも納得は出来るけれど……。
それ以上は考えても分からなくて、次の疑問に移ってみる。
淳先輩達がハンターだって事。
最初は何の冗談?って思った。
でも皓也がヴァンパイアだって理解してからはむしろ腑に落ちる事が多い。
思えば淳先輩も安藤先生も、変な時期にこの学校に来た。
淳先輩は四月も半分くらいたってから。
安藤先生は九月に産休予定だった先生が急遽入院することになったから来た代わりの先生。
今年度初めからの転入が引っ越しかなんかのために遅れただとか、妊娠中の先生が急遽入院になったりだとか、一見納得できる理由があるけどよく考えてみたらおかしすぎる。
元々決まってた転入ならあの加野さんが事前に知らなかったなんてありえないと思うし。
つわりも大したことないって言っていたらしい三波先生が突然入院なんて……。
妊娠中のことは詳しくないから絶対にありえないとは言えないけど、何だか都合が良すぎる。
ハンターって人達がどれくらいいて、どんな組織なのか分からないけど、何らかの作為を感じた。
そして皓也がヴァンパイアだったって事は……。
オルガさん、知ってたんだよね?
やっぱり、もしかして……オルガさんもヴァンパイアって事なのかな?
皓也のお母さんだし、そう考えるのが普通だよね。
でもそれ、叔父さんは知っていて再婚したのかな?
それも、聞いてみないことには分からない事だった。
思わず眉間にシワを寄せる。
整理してみようと考えたけど、疑問が増えるだけだしなんだかモヤモヤした気分になった。
もう考えないようにしよう!
そうは思ってもやっぱり今日のことを考えてしまう。
何で皓也と同じ家に住んでるって事を知っているのか、淳先輩に聞こうとしただけだったはずなのに……。
淳先輩達がハンターで皓也がヴァンパイアだって知らされて。
皓也に血を舐められて……それから……っ!
順番に思い出していったら、手を舐められた事とかその後の事とかも思い出してしまった。
恥ずかしい!
恥ずかし過ぎる‼
だってあれ、キス……される所だったんだよね……?
恥ずかし過ぎて立っていられなくて、思わずしゃがみ込んでしまった。
ほっぺにとかじゃなくて、くっ口にっ!
しかもわたし、目つむって待ちの態勢してなかった⁉
うっうああああぁぁぁーーーー!
しゃがんでうずくまって声も出してはいなかったけど、わたしの頭の中は恥ずかしさで絶叫していて大変だった。
そのとき、聞きなれた声が掛けられる。
「……そうび? どうしたんだ、しゃがみ込んで」
顔を上げると、見慣れた顔が心配そうにわたしに向けられていた。
「……お父さん」
「どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
「え? ううん。大丈夫、何でもないよ!」
心配させたくないのと、恥ずかしいことを考えていたことを気取られたくないのとでわたしはすくっと立ち上がる。
「それよりお父さん、今日は早いね」
今はまだ六時半を少し過ぎたくらいだろう。
お父さんはいつも七時は確実に過ぎるから、ちょっと早いお帰りだ。
「ああ、ちょっと早く仕事が終わってな。それに皓也くんのお母さんがケガをしたそうじゃないか。皓也くんはそっちに向かったらしいが、詳しい話はお母さんが聞いてるみたいだから早く帰って聞いとこうと思ってな」
お父さんの話に驚いた。
そんなことになってるなんて。
オルガさんがケガした?
たまたま重なった?
それとも、皓也がいなくなる理由を作るための嘘?
お父さんはお母さんからのメールで知ったらしい。
わたしもどういうことになってるのか詳しく聞きたくて、「早く行こう」と足を速めた。
「そうびは遅いんだな? いつもこの時間なのか?」
スタスタ二人で歩きながら、お父さんが何気なく質問して来る。
一瞬ギクリとして足を止めそうになったけど、誤魔化すための言い訳を考えるために「うーん」と曖昧な返事をしておく。
それで考えたけど、良い言い訳なんて出てくるはずもなく。
「ちょっと、部活の後話し込んじゃって……」
正確ではないけれど、間違ってもいない回答をした。
「そうか、でもあんまり遅くなるとお母さんも心配するから気をつけろよ?」
お父さんは深く突っ込む気は無いようで、注意だけして会話を終わらせる。
わたしは「はーい」と返事をしつつ、詳しく聞かれなくて良かったと安堵していた。
そうやって家に帰ると、少し心配していたお母さんにグチグチとお叱りを受けてしまった。
心配してくれるのはありがたい事なんだろうけど、そんな愚痴っぽく延々と言わなくったっていいじゃない。
おかげでオルガさんの事を聞き出すのが夕飯後になってしまった。
夕食中も「話し込むのもほどほどにしなさい」だとか、「心配するでしょう」とか叱られ続けてオルガさんの事を詳しく聞けなかった。
ついでに言うと、皓也がしばらくこの家に帰って来ないと聞かされたらしい松葉もうるさかった。
「皓也兄ちゃんと遊びたいー」
なんてずっと言っているから、お母さんに「そうびと遊べばいいでしょ」とそっけなく言われていた。
とんだとばっちりだと思ったけど、松葉に「姉ちゃんはゲームあんましやんないし、文句ばっかなんだもん」と拒否られてしまう。
ムカついたけど事実なので、「はいはい、松葉は皓也にいちゃんが良いんだもんねー」と嫌味ったらしく言ったのに「とーぜん!」と返されてしまった。
……コノヤロウ。
そんな感じで、やっとオルガさんの事を聞けたのは夕飯の後。
お父さんが「オルガさんの容体はどうなんだ?」と聞いてくれてからだった。
「今は意識もあるし、命に別状はないらしいわ」
お皿を洗い終わった手を拭きながらそう言ったお母さんの言葉にギョッとした。
その言い方だとかなりのケガだったみたいに聞こえる。
「何かショックな話を聞いて、動揺しちゃったらしいのね。それで運転中に事故ってしまったみたい」
ドクドクと心臓が嫌な感じに早鐘を打つ。
そのショックなことって、もしかして皓也が狼になっちゃったこと?
じゃあ、オルガさんのケガって作り話じゃなくて本当のことだったのかな?
「そうか……じゃあ後は、変に後遺症とか残らなければいいな」
一先ず安心したという顔をしたお父さんがそう言うと、お母さんが「そうねぇ」と返していた。
その後わたしは、お風呂に入って自分の部屋に引きこもった。
悶々と答えの出ないことをずっと考えてしまう。
皓也の事。
淳先輩と安藤先生の事。
それにオルガさんの事も加わって。
考えて考えて、訳が分からなくなった頃には眠ってしまっていた。
てくてくと、ただ足を動かすだけ。
そうしていると少しは落ち着いて考えられる様になってきた。
色々あったことを少し整理してみる。
皓也が狼に変身してしまったこと。
皓也がヴァンパイアだったこと。
淳先輩達がハンターだったこと。
……そして、わたしの手のケガが治っていたこと。
忍野君と昇降口に戻り靴を履き替えていたときに気づいた。
血が流れて、絆創膏もはがれてしまって……皓也に舐められた手の傷。
いつの間にか痛みを感じなくなったと思っていたら、傷痕のようなものはあったけれど完全に塞がっていたんだ。
……治っていたのって、皓也に舐められたからだよね?
舐めただけで傷が塞がるなんて信じられないけれど、他に理由が見当たらない。
これも皓也がヴァンパイアだから?
自問して、そうなんだろうなって納得する。
皓也が狼に変身したことは安藤先生たちも分からないって言っていた。
わたしからすれば狼男なんじゃないの? と思うんだけれど、二人が言うにはヴァンパイアであることは確からしい。
まあ、血を飲んでいたからそれでも納得は出来るけれど……。
それ以上は考えても分からなくて、次の疑問に移ってみる。
淳先輩達がハンターだって事。
最初は何の冗談?って思った。
でも皓也がヴァンパイアだって理解してからはむしろ腑に落ちる事が多い。
思えば淳先輩も安藤先生も、変な時期にこの学校に来た。
淳先輩は四月も半分くらいたってから。
安藤先生は九月に産休予定だった先生が急遽入院することになったから来た代わりの先生。
今年度初めからの転入が引っ越しかなんかのために遅れただとか、妊娠中の先生が急遽入院になったりだとか、一見納得できる理由があるけどよく考えてみたらおかしすぎる。
元々決まってた転入ならあの加野さんが事前に知らなかったなんてありえないと思うし。
つわりも大したことないって言っていたらしい三波先生が突然入院なんて……。
妊娠中のことは詳しくないから絶対にありえないとは言えないけど、何だか都合が良すぎる。
ハンターって人達がどれくらいいて、どんな組織なのか分からないけど、何らかの作為を感じた。
そして皓也がヴァンパイアだったって事は……。
オルガさん、知ってたんだよね?
やっぱり、もしかして……オルガさんもヴァンパイアって事なのかな?
皓也のお母さんだし、そう考えるのが普通だよね。
でもそれ、叔父さんは知っていて再婚したのかな?
それも、聞いてみないことには分からない事だった。
思わず眉間にシワを寄せる。
整理してみようと考えたけど、疑問が増えるだけだしなんだかモヤモヤした気分になった。
もう考えないようにしよう!
そうは思ってもやっぱり今日のことを考えてしまう。
何で皓也と同じ家に住んでるって事を知っているのか、淳先輩に聞こうとしただけだったはずなのに……。
淳先輩達がハンターで皓也がヴァンパイアだって知らされて。
皓也に血を舐められて……それから……っ!
順番に思い出していったら、手を舐められた事とかその後の事とかも思い出してしまった。
恥ずかしい!
恥ずかし過ぎる‼
だってあれ、キス……される所だったんだよね……?
恥ずかし過ぎて立っていられなくて、思わずしゃがみ込んでしまった。
ほっぺにとかじゃなくて、くっ口にっ!
しかもわたし、目つむって待ちの態勢してなかった⁉
うっうああああぁぁぁーーーー!
しゃがんでうずくまって声も出してはいなかったけど、わたしの頭の中は恥ずかしさで絶叫していて大変だった。
そのとき、聞きなれた声が掛けられる。
「……そうび? どうしたんだ、しゃがみ込んで」
顔を上げると、見慣れた顔が心配そうにわたしに向けられていた。
「……お父さん」
「どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
「え? ううん。大丈夫、何でもないよ!」
心配させたくないのと、恥ずかしいことを考えていたことを気取られたくないのとでわたしはすくっと立ち上がる。
「それよりお父さん、今日は早いね」
今はまだ六時半を少し過ぎたくらいだろう。
お父さんはいつも七時は確実に過ぎるから、ちょっと早いお帰りだ。
「ああ、ちょっと早く仕事が終わってな。それに皓也くんのお母さんがケガをしたそうじゃないか。皓也くんはそっちに向かったらしいが、詳しい話はお母さんが聞いてるみたいだから早く帰って聞いとこうと思ってな」
お父さんの話に驚いた。
そんなことになってるなんて。
オルガさんがケガした?
たまたま重なった?
それとも、皓也がいなくなる理由を作るための嘘?
お父さんはお母さんからのメールで知ったらしい。
わたしもどういうことになってるのか詳しく聞きたくて、「早く行こう」と足を速めた。
「そうびは遅いんだな? いつもこの時間なのか?」
スタスタ二人で歩きながら、お父さんが何気なく質問して来る。
一瞬ギクリとして足を止めそうになったけど、誤魔化すための言い訳を考えるために「うーん」と曖昧な返事をしておく。
それで考えたけど、良い言い訳なんて出てくるはずもなく。
「ちょっと、部活の後話し込んじゃって……」
正確ではないけれど、間違ってもいない回答をした。
「そうか、でもあんまり遅くなるとお母さんも心配するから気をつけろよ?」
お父さんは深く突っ込む気は無いようで、注意だけして会話を終わらせる。
わたしは「はーい」と返事をしつつ、詳しく聞かれなくて良かったと安堵していた。
そうやって家に帰ると、少し心配していたお母さんにグチグチとお叱りを受けてしまった。
心配してくれるのはありがたい事なんだろうけど、そんな愚痴っぽく延々と言わなくったっていいじゃない。
おかげでオルガさんの事を聞き出すのが夕飯後になってしまった。
夕食中も「話し込むのもほどほどにしなさい」だとか、「心配するでしょう」とか叱られ続けてオルガさんの事を詳しく聞けなかった。
ついでに言うと、皓也がしばらくこの家に帰って来ないと聞かされたらしい松葉もうるさかった。
「皓也兄ちゃんと遊びたいー」
なんてずっと言っているから、お母さんに「そうびと遊べばいいでしょ」とそっけなく言われていた。
とんだとばっちりだと思ったけど、松葉に「姉ちゃんはゲームあんましやんないし、文句ばっかなんだもん」と拒否られてしまう。
ムカついたけど事実なので、「はいはい、松葉は皓也にいちゃんが良いんだもんねー」と嫌味ったらしく言ったのに「とーぜん!」と返されてしまった。
……コノヤロウ。
そんな感じで、やっとオルガさんの事を聞けたのは夕飯の後。
お父さんが「オルガさんの容体はどうなんだ?」と聞いてくれてからだった。
「今は意識もあるし、命に別状はないらしいわ」
お皿を洗い終わった手を拭きながらそう言ったお母さんの言葉にギョッとした。
その言い方だとかなりのケガだったみたいに聞こえる。
「何かショックな話を聞いて、動揺しちゃったらしいのね。それで運転中に事故ってしまったみたい」
ドクドクと心臓が嫌な感じに早鐘を打つ。
そのショックなことって、もしかして皓也が狼になっちゃったこと?
じゃあ、オルガさんのケガって作り話じゃなくて本当のことだったのかな?
「そうか……じゃあ後は、変に後遺症とか残らなければいいな」
一先ず安心したという顔をしたお父さんがそう言うと、お母さんが「そうねぇ」と返していた。
その後わたしは、お風呂に入って自分の部屋に引きこもった。
悶々と答えの出ないことをずっと考えてしまう。
皓也の事。
淳先輩と安藤先生の事。
それにオルガさんの事も加わって。
考えて考えて、訳が分からなくなった頃には眠ってしまっていた。
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