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1.星彩学園
月の女神【雄翔side】前編
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「あーもうこんな時間かよ。門限まで三十分もねぇじゃんか」
車から降りたとたんスマホで時間を確認した陽向が文句を口にした。
まあでも言いたくなる気持ちはわかる。
今日の昼ころ、急に事務所から呼び出しがあったんだ。
何でも社長から話があるんだとか。
で、放課後むかえの車にメンバー全員で乗って事務所に向かった。
そして開口一番に忠告されたんだ。
「雄翔と陽向はチーム作るでしょう? その中に女の子は入れちゃダメよ?」
社長いわく、アイドルに女の影は不要だからだそうだ。
それに俺たちじゃなくても、チームの中で男女の関係が発展すれば泥沼展開になるからとかすごいグチられた。
社長がそういうので昔苦労したからだとか言ってたけど、中学生になったばかりの俺らに言うことじゃないだろ!って何度叫びたくなったことやら。
まあ、その後入学祝いだって夕飯ごちそうしてくれたのは良かったけど……。
でもやっぱり話のメインは女の子がらみなのか食事中も言われたなぁ。
「ったく……ごちそうはありがたかったけど、話が一々説教臭いんだよな」
「ははっ。まあ、それは否定出来ねぇな」
不満の言葉を重ねる陽向に大地先輩が苦笑いしながら同意する。
そんな二人を穏やかにたしなめたのは翼先輩だ。
「社長は俺たちのことを心配してくれてるからあんなこと言ったんだろう? あんまり文句ばっかりだと罰が当たるよ?」
「うっ……でもさぁ、本気で好きな子出来たときは報告しろとか……過保護すぎじゃないっすか?」
翼先輩の言葉にたじろぎつつ、陽向はまだ不満をこぼす。
でもそれには俺も同意で、思わず口を開いた。
「好きな子が出来るかは置いといて……それを社長に伝えなきゃならないって、なんかおかしいって思うんですけど……」
恋愛は当人同士でするものなんじゃないのか?
なのに親でもない相手に話すとか……親にだってそんな簡単に話したくないのに。
でもそんな俺たちの不満はまた翼先輩にたしなめられた。
「まあ、普通なら他人にわざわざ言うことじゃないよな。……でも俺たちはアイドルだ、ファンがいるからやっていける」
「それは……はい」
「女の子がらみは特にファンが減る原因になる。だから社長はちゃんと話せって――相談しろって言ってくれてるんだよ」
「うっ……分かってはいるんっすけど」
翼先輩が言ってることは分かる。
それがありがたいことなんだってことも。
でもやっぱり他人にそこまで報告するってのは……。
「……」
「……」
陽向と二人、押し黙ってしまった俺たちに大地先輩がフォローの声を上げた。
「話せって言ってくれるだけいいじゃんか。あきらめろとは言われてねぇんだから」
続けて、ちょっとからかいの含んだ声になる。
表情もニヤァッと意地の悪いものになっていた。
「で? お前ら今好きな子とかいんの?」
「は? いるわけないじゃないっすか⁉」
「……」
すぐに否定した陽向。
でも俺はすぐに同じ言葉が出なかった。
だって、どうしてかある女の子の顔が浮かんだから。
うさ耳付きの帽子で顔をかくして、でも歌声はとても綺麗で……。
多分、今一番気になってる女の子。
でも、恋とかの好きじゃないはずだ。
綺麗な歌声が気に入ってるし、大きな帽子が気になってるだけ。
……なのに、何で今流歌の顔を思い出してしまったんだ?
自分で不思議に思ってると、翼先輩が軽く驚く声を上げた。
「え? 雄翔は好きな子いるのか?」
「え⁉」
黙ってしまったことで肯定したって思われちゃったのか⁉
「ち、違いますよ! あいつのことはただ、気になってるってだけで!」
「へぇ、『あいつ』なぁ……気になってる子はいるのか」
つい正直に話してしまって、大地先輩が完全にからかいモードに入る。
墓穴を掘ったと思ってどう誤魔化そうか考えていると、どこからか歌声が聞こえてきた。
「ん? なんだ? 歌声?」
「こんな時間に誰か外で歌ってるのか?」
陽向と大地先輩も気づいて周りを見回す。
俺も声のもとを探した。
この歌声は聞き覚えがある。
優しく澄んだ歌声。
ちょっとだけだったけど、昨日聞いたばかりだ。忘れるわけがない。
流歌、もうすぐ門限だっていうのに外で何やってるんだ?
歌いたいなら自分の部屋で歌えばいいのに。
そんなことを考えていると、翼先輩が歌声の主を見つけたらしい。
「あ、あの子だね」
左腕を上げて花壇のある方を指差した。
その方向に目を向けた俺は、言葉を失う。
「っ!」
息をのんだのは、俺だったのか……それとも他の三人の誰かだったのか。
いや、もしかしたら四人全員かもしれない。
だって……花壇の中央で歌っている彼女の姿は、まるで月の女神みたいだったから。
プラチナブロンドの長い髪は、まるで月の光を吸い取ったみたいで。
長いまつげが縁取っているのは、宝石みたいに澄んだ青い目。
本当に流歌なのか?ってうたがいたくなるくらい綺麗な姿。
でも、その歌声はやっぱり聞き覚えのあるもの。
ほんの少ししか聞いていなかったけど、好きだなって思った歌声。
お世辞とかじゃなくて、本気でもっと聞いていたいって思った声。
だから、また聞けるように仲良くなりたいって思ったんだ。
ちょっと強引だったかもだけど、名前で呼び合えるようにしたり。
デモバトルでもいいとこ見せようと思ってメタモルフォーゼまでしたし。
そんな風に頑張って仲良くなって、いつでも聞かせてもらえるような関係になりたいと思った。
その歌声を俺が間違えるわけがない。
車から降りたとたんスマホで時間を確認した陽向が文句を口にした。
まあでも言いたくなる気持ちはわかる。
今日の昼ころ、急に事務所から呼び出しがあったんだ。
何でも社長から話があるんだとか。
で、放課後むかえの車にメンバー全員で乗って事務所に向かった。
そして開口一番に忠告されたんだ。
「雄翔と陽向はチーム作るでしょう? その中に女の子は入れちゃダメよ?」
社長いわく、アイドルに女の影は不要だからだそうだ。
それに俺たちじゃなくても、チームの中で男女の関係が発展すれば泥沼展開になるからとかすごいグチられた。
社長がそういうので昔苦労したからだとか言ってたけど、中学生になったばかりの俺らに言うことじゃないだろ!って何度叫びたくなったことやら。
まあ、その後入学祝いだって夕飯ごちそうしてくれたのは良かったけど……。
でもやっぱり話のメインは女の子がらみなのか食事中も言われたなぁ。
「ったく……ごちそうはありがたかったけど、話が一々説教臭いんだよな」
「ははっ。まあ、それは否定出来ねぇな」
不満の言葉を重ねる陽向に大地先輩が苦笑いしながら同意する。
そんな二人を穏やかにたしなめたのは翼先輩だ。
「社長は俺たちのことを心配してくれてるからあんなこと言ったんだろう? あんまり文句ばっかりだと罰が当たるよ?」
「うっ……でもさぁ、本気で好きな子出来たときは報告しろとか……過保護すぎじゃないっすか?」
翼先輩の言葉にたじろぎつつ、陽向はまだ不満をこぼす。
でもそれには俺も同意で、思わず口を開いた。
「好きな子が出来るかは置いといて……それを社長に伝えなきゃならないって、なんかおかしいって思うんですけど……」
恋愛は当人同士でするものなんじゃないのか?
なのに親でもない相手に話すとか……親にだってそんな簡単に話したくないのに。
でもそんな俺たちの不満はまた翼先輩にたしなめられた。
「まあ、普通なら他人にわざわざ言うことじゃないよな。……でも俺たちはアイドルだ、ファンがいるからやっていける」
「それは……はい」
「女の子がらみは特にファンが減る原因になる。だから社長はちゃんと話せって――相談しろって言ってくれてるんだよ」
「うっ……分かってはいるんっすけど」
翼先輩が言ってることは分かる。
それがありがたいことなんだってことも。
でもやっぱり他人にそこまで報告するってのは……。
「……」
「……」
陽向と二人、押し黙ってしまった俺たちに大地先輩がフォローの声を上げた。
「話せって言ってくれるだけいいじゃんか。あきらめろとは言われてねぇんだから」
続けて、ちょっとからかいの含んだ声になる。
表情もニヤァッと意地の悪いものになっていた。
「で? お前ら今好きな子とかいんの?」
「は? いるわけないじゃないっすか⁉」
「……」
すぐに否定した陽向。
でも俺はすぐに同じ言葉が出なかった。
だって、どうしてかある女の子の顔が浮かんだから。
うさ耳付きの帽子で顔をかくして、でも歌声はとても綺麗で……。
多分、今一番気になってる女の子。
でも、恋とかの好きじゃないはずだ。
綺麗な歌声が気に入ってるし、大きな帽子が気になってるだけ。
……なのに、何で今流歌の顔を思い出してしまったんだ?
自分で不思議に思ってると、翼先輩が軽く驚く声を上げた。
「え? 雄翔は好きな子いるのか?」
「え⁉」
黙ってしまったことで肯定したって思われちゃったのか⁉
「ち、違いますよ! あいつのことはただ、気になってるってだけで!」
「へぇ、『あいつ』なぁ……気になってる子はいるのか」
つい正直に話してしまって、大地先輩が完全にからかいモードに入る。
墓穴を掘ったと思ってどう誤魔化そうか考えていると、どこからか歌声が聞こえてきた。
「ん? なんだ? 歌声?」
「こんな時間に誰か外で歌ってるのか?」
陽向と大地先輩も気づいて周りを見回す。
俺も声のもとを探した。
この歌声は聞き覚えがある。
優しく澄んだ歌声。
ちょっとだけだったけど、昨日聞いたばかりだ。忘れるわけがない。
流歌、もうすぐ門限だっていうのに外で何やってるんだ?
歌いたいなら自分の部屋で歌えばいいのに。
そんなことを考えていると、翼先輩が歌声の主を見つけたらしい。
「あ、あの子だね」
左腕を上げて花壇のある方を指差した。
その方向に目を向けた俺は、言葉を失う。
「っ!」
息をのんだのは、俺だったのか……それとも他の三人の誰かだったのか。
いや、もしかしたら四人全員かもしれない。
だって……花壇の中央で歌っている彼女の姿は、まるで月の女神みたいだったから。
プラチナブロンドの長い髪は、まるで月の光を吸い取ったみたいで。
長いまつげが縁取っているのは、宝石みたいに澄んだ青い目。
本当に流歌なのか?ってうたがいたくなるくらい綺麗な姿。
でも、その歌声はやっぱり聞き覚えのあるもの。
ほんの少ししか聞いていなかったけど、好きだなって思った歌声。
お世辞とかじゃなくて、本気でもっと聞いていたいって思った声。
だから、また聞けるように仲良くなりたいって思ったんだ。
ちょっと強引だったかもだけど、名前で呼び合えるようにしたり。
デモバトルでもいいとこ見せようと思ってメタモルフォーゼまでしたし。
そんな風に頑張って仲良くなって、いつでも聞かせてもらえるような関係になりたいと思った。
その歌声を俺が間違えるわけがない。
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