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石の守護者
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『やっぱり来て良かったな。僕はカナメの護り石だから』
お昼休みになるまでの間に朝のことをリオくんに聞いたら、そんな言葉を返された。
リオくんはあの悪魔みたいな影が出てきても動じることなく冷静だったし、なにか知ってるんじゃないかと思って聞いてみたの。
そうしたら、あの悪魔みたいな影が投げつけて来た黒い嫌なものを弾いたのは自分だって話してくれたんだ。
ずっと明護の女の子を守ってきたっていう黒水晶のリオくんだけど、まさかあんな力があるなんて初めて知ったよ。
『でもなにが起こったのかまではよく分からない。アレが何なのかとか、どうしてアレがカナメを攻撃してきたのかとか』
真剣な声で話すリオくんは何かを考えているようにも感じた。
だから私も問い返さないで、やっぱり永遠くんに話しを聞くしかないかぁって思う。
するとオウちゃんがくやしそうにプリプリ怒りながら声を上げた。
『むー! わたしだってカナメちゃんを助けたいのにー!』
リオくんが私をしっかり守ってくれて安心したけど、自分も守りたかったってちょっとふてくされてる。
「そう思ってくれただけでも嬉しいよ」
そう伝えてトパーズをなでたら嬉しそうに『ふふっ』って笑ってた。
なんかオウちゃんってかわいいな。
少し甘えん坊みたいなオウちゃんにほっこりする。
とりあえず攻撃が弾かれた理由を知って、一つ謎が解けた。
後は永遠くんに聞くしかないよね、って結論づけたところで昼休みになった。
***
「要芽、明日のことなんだけど」
「あ、ごめん! ちょっと永遠くんと話があって。後でね!」
給食を食べ終えて急いで片づけを終えたら柚乃に声をかけられちゃった。
でも永遠くんに朝のことを早く聞きたかった私は、断って朝と同じ場所に急いだ。
朝よりは人が通るかもしれないけれど、少ないのは変わりないから。
「遅かったな」
「ごめん、ちょっと呼び止められちゃって」
すっかり気安い口調になっちゃった永遠くんは、涼しげな顔をして階段の手すりに背中をあずけて立っていた。
その立ち姿だけなら本当にクールイケメンって感じなんだけど、今朝の様子を振り返るとそこまでクールって感じじゃないなって思う。
「まあいいや、さっそく本題。ディコルの攻撃をどうして防げたんだ? 要芽は一般人だろ?」
「いやそれ本題っていうか、永遠くんが聞きたいことでしょ?」
っていうか、それ以前にちゃんとした説明もまだなんだけど!?
「てかもう私も永遠って呼び捨てでいいよね? いつの間にか私のこと呼び捨てにしてるし!」
なんだか不公平な気がしてそう宣言したら、キョトンとしてから苦笑いされた。
「あ、悪い。なんかそう呼んでた。……いいぜ、これから一緒にシゴトするパートナーだもんな。お互いに呼び捨ての方がやりやすいし」
「ちょーっと待ったぁ!」
思わずさけんじゃったよ。
なんで一緒にシゴトするってもう決まっちゃってるの!?
「私そのシゴトとやらをするなんて言ってないよ!? だいたいそのシゴトってなんなの!?」
「あれ? 話してなかったっけ?」
またキョトンとした顔をされる。
その顔はちょっとかわいいけど、ほだされたりしないんだから!
「聞いてないよ! ……あの悪魔みたいなのとか、わけわかんないことばっかりだよ」
石の声が聞こえるようになったのが、やっぱり昨日永遠の水晶をさわったからだってことしか分かってない。
私はちゃんと説明して! ってにらんだ。
「わ、悪かったよ。ちゃんと話すから」
永遠は「どこから話そうか……」って少し考えてから真面目な顔になって口を開いた。
「まずはシゴトのことかな? 俺のシゴトは、朝やったことそのまんまって感じだよ」
そう説明しはじめた永遠は、ジェスチャーを交えながら説明してくれる。
「石にかけられた呪い――ディコルを祓い清めるのが俺のシゴトなんだ。あ、ディコルってのは悪魔の心って意味の【ディアブリ・コル】を略した言葉な」
「ディコル……」
「ディコルは人の悪い感情を吸い取るんだ。それだけなら問題ないどころか人のためになっているんだけど……」
神妙な顔で一点を見つめる永遠は一度言葉を切る。
私は今朝の香ちゃんを思い出しながら永遠の話しを待った。
香ちゃんから出てきた黒いモヤ……アレが悪い感情だったのいかな?
で、呪いであるあの悪魔みたいなモノ――ディコルがそれを吸い取った、と。
思い返しながら整理していると、永遠が続きを口にした。
「悪い感情をたくさん食べて強くなったディコルは、今度は人が悪い感情を持つように誘導するんだ」
「ゆうどう?」
すぐにピンとこない私に、永遠は真っ直ぐ視線を向けてハッキリと言う。
「普通に楽しく過ごしていた人が、他人を恨んだりおとしめたりする人になるよう仕向けるってことだよ」
「なっ!? なによそれ……そんなの、まさしく【呪われた宝石】じゃない!」
昔からたくさんの人を魅了してきた宝石たち。
その中には、多くの人を不幸にしてきた宝石もある。
そんな石たちは【呪われた宝石】って呼ばれて今でも怖がられてるんだ。
「そうだな、まさしく【呪われた宝石】だよ。昔からある【呪われた宝石】にもディコルが憑いていたんだから」
「……」
まさかの真実に開いた口が塞がらない。
あまりの壮大さに永遠がウソをついてるんじゃないかとも思ったけれど、ディコルが香ちゃんの悪い感情を吸い取るのを私はちゃんと見てしまってる。
あれが全部作り物だとも思えなかった。
驚く私に、永遠はもう一度自分のシゴトを説明する。
「だからそうなる前にディコルを水晶のナイフで倒して浄化するのが俺のシゴトってわけ」
「……そっか」
納得した私に、永遠は首の後ろに手を当てながらゆっくりと次の話をした。
「それでさ。そのディコルは石に憑いてるから、それを見つけるために石の声が聞こえる人をパートナーにしなきゃないんだ」
「つまり永遠は聞こえないってこと? でも今朝は石の声とか関係なかったような……?」
別に私がなにかしなくても、香ちゃんのローズクォーツからディコルが出て来てた。
パートナーって本当に必要なの?
「あ……それは」
とたんに気まずそうな顔になる永遠。
イヤな予感がしたけど、聞かないわけにもいかないから黙って言葉を待った。
「その、俺たち【石の守護者】は浄化がメインだから、石の声は聞こえないんだ。だから石の声が聞こえるパートナーに協力してもらって石の情報を集め、その情報をたよりにディコルが憑いている石を見つけるんだ」
ディコルは普段は隠れてるから、だって。
じゃあなんで今朝は勝手に出てきたのかな? って思っていたら、永遠はあからさまに視線を揺らして続けた。
「それで……そうやって自分を見つけてしまう相手だからなのかな? ディコルは石の声を聞く人を排除しようとするんだ」
「へ?」
「つまりその……要芽はディコルに狙われてるってこと」
「……はぁ!? なにそれ、つまり石の声が聞こえるようになった代わりにあの悪魔みたいなやつ――ディコル? に狙われるようになっちゃったってこと!?」
だから今朝も一番に私を攻撃してきたの!?
「うん、まあ……そういうこと。だからパートナーには守りの強化が必要なんだ……でも今朝は要芽ディコルの攻撃ふせいでたよな? 守りの強化なんてしてないのに、なんであんなことできたんだ?」
「それは……」
まだまだ文句は言いたかったけど、そっちの説明もしなきゃないよね。
私は本当にリオくんを持ってきて良かったって思いながら右ポケットから黒水晶を取り出した。
『まったく、案の定面倒なことになったな』
リオくんの、ため息まで聞こえてきそうな声に苦笑いするしかない。
確かに面倒だよねって思うもん。
「今朝はね、リオくん……この黒水晶が守ってくれたみたいなんだ」
「これは?」
「おばあちゃんから貰ったんだけど、明護の女の子をずっと守ってきた護り石なんだって」
「へぇ、そういうの持ってたのか」
『じろじろ見るな』
興味深そうにまじまじと見る永遠に、リオくんは嫌そうな声を隠しもしない。
まあ、私にしか聞こえないんだろうけど。
「あんまり見るなって言ってるよ?」
「え? あ、悪い。まあでもそういう石を持ってるなら話は早いな。明日俺んち来いよ」
「は? なんで?」
「守りの強化が必要だって言っただろ? 今朝は弱いディコルだったから弾けたかもしれないけど、もっと悪意をため込んだやつだったら守り切れないだろ?」
「そうなの?」
強いか弱いかなんてわからないし、リオくんに意見を聞くつもりで声を上げたけれど。
『は? 僕をなめないでほしいな』
と、リオくんは不機嫌そうな声を上げるだけだった。
そんなリオくんの声が聞こえない永遠は、気にすることなくそのまま説明をする。
「見た感じその黒水晶は結構強力っぽいけどさ、できればもっとパワーアップしておいた方が安心だろ? だから明日うちに来てくれ。もっと詳しい説明もできるからさ」
「うーん」
悩んでいると、ムスッとしたリオくんの声が聞こえた。
『しゃくだけど、行っておいた方がいいかもしれない。これからも今朝みたいなことが続くなら、得られる力は多い方がいいし』
「……そっか」
シゴトを手伝わないとしても、石の声が聞こえるようになっちゃったからディコルに狙われるのは変わらない。
だったら私の守りを強くするにこしたことはないって説明された。
本当に必要かなんて私にはわからないけど、今朝のディコルの姿を見て怖いって思った。
あのときみたいにまた身動きできなくなるんじゃないかって思うとなおさら怖い。
だったらリオくんも勧めてるし、永遠の家に行っておいた方がいいのかもしれない。
「うん、分かった」
「よし、じゃあ明日九時に図書館で待ち合わせな」
私が了解したからか、パッと笑顔になって「じゃあな」って教室に戻っていく永遠。
それを見送ってからハッとする。
「あ! 明日って柚乃と約束してた日!」
あんなに楽しみにしてたのに、今朝の出来事が衝撃的すぎて少し忘れてた。
「どうしよう……」
私は一人途方に暮れたようにつぶやいた。
***
どっちを断るべきか悩んだけれど、リオくんに『カナメの身の安全が優先』と言われて柚乃との約束を断ることにした。
せっかく準備してもらったのに断るのは億劫だなって思ったけれど、だからってドタキャンするわけにもいかないし……。
「柚乃……」
「あ、要芽。用事終わったの?」
教室に戻って話しかけると、柚乃は笑顔で迎えてくれた。
この笑顔をくもらせちゃうのかなって思うと言いづらい。
でも言わないわけにはいかないからね。
「じゃあ明日のことなんだけど」
「あ、あのね!」
うれしそうに話す柚乃の言葉をさえぎって、私は大きく声を上げた。
「悪いんだけど、明日の約束キャンセルしたいの」
「え?」
「ごめんね、どうしても外せない用事ができちゃって……明後日に、とかずらせる?」
手のひらを合わせて頭を下げる。
悪いなって思ってることがちゃんと伝わるように。
でも柚乃のお母さんのキラキラ宝石コレクションもやっぱり捨てがたくて、別の日にってお願いもつけ加えちゃった。
「どうしても外せない用事ってなに? お母さんにも準備してもらって……私だって要芽が家に来てくれるの楽しみにしてたんだよ?」
ちょっと声が震えてる気がする。
でも、理由を話しても分かってもらえるのかどうか……。
石にかけられた呪いのディコルってやつに狙われるようになっちゃったから、できるだけ早く守りの強化をしなきゃならない……なんて。
そんなこと言っても信じてもらえなさそうだしなぁ。
言葉にしようとしたらなおさらあり得ないって思ったもん。
「その、なんていうか……私の身の危険っていうか……それで対策うたなきゃないっていうか……」
本当のことを話せないからあいまいな言葉で伝えるしかない。
こんなんでちゃんと伝えられてるのかな?
せめて悪いって思ってることだけは伝われ! って思って、もう一度私は頭を下げた。
「ほんっとーに、ごめん!」
「……」
しばらくの沈黙。
気まずくて顔が上げられない。
でも、小さなため息と一緒に「……わかったよ」と、了解の言葉が聞こえて私はホッとして顔を上げた。
でも、柚乃はちょっと泣きそうな顔をしてて……。
「……わかったけど……なんか、悲しくてくやしいな……」
「柚乃?」
呼びかけると、柚乃はハッとしてムリヤリ笑顔を作る。
「あ、明後日にできるかどうかはお母さんに聞かなきゃ分からないから、後で連絡するよ」
「う、うん」
柚乃はそのまま次の授業の教科書を出し始める。
じっさいそろそろ長谷川先生も来ちゃうころだったし、私も自分の席に座って準備を始めた。
傷つけちゃった、のかな?
柚乃の様子を思い返すと、そんな感じな気がする。
仕方ないことだけど、たった一人の親友にあんな悲しそうな顔をさせてしまったことが悲しい。
ズシッと心に重石が乗った感じで、午後の授業はあまり身が入らなかった。
お昼休みになるまでの間に朝のことをリオくんに聞いたら、そんな言葉を返された。
リオくんはあの悪魔みたいな影が出てきても動じることなく冷静だったし、なにか知ってるんじゃないかと思って聞いてみたの。
そうしたら、あの悪魔みたいな影が投げつけて来た黒い嫌なものを弾いたのは自分だって話してくれたんだ。
ずっと明護の女の子を守ってきたっていう黒水晶のリオくんだけど、まさかあんな力があるなんて初めて知ったよ。
『でもなにが起こったのかまではよく分からない。アレが何なのかとか、どうしてアレがカナメを攻撃してきたのかとか』
真剣な声で話すリオくんは何かを考えているようにも感じた。
だから私も問い返さないで、やっぱり永遠くんに話しを聞くしかないかぁって思う。
するとオウちゃんがくやしそうにプリプリ怒りながら声を上げた。
『むー! わたしだってカナメちゃんを助けたいのにー!』
リオくんが私をしっかり守ってくれて安心したけど、自分も守りたかったってちょっとふてくされてる。
「そう思ってくれただけでも嬉しいよ」
そう伝えてトパーズをなでたら嬉しそうに『ふふっ』って笑ってた。
なんかオウちゃんってかわいいな。
少し甘えん坊みたいなオウちゃんにほっこりする。
とりあえず攻撃が弾かれた理由を知って、一つ謎が解けた。
後は永遠くんに聞くしかないよね、って結論づけたところで昼休みになった。
***
「要芽、明日のことなんだけど」
「あ、ごめん! ちょっと永遠くんと話があって。後でね!」
給食を食べ終えて急いで片づけを終えたら柚乃に声をかけられちゃった。
でも永遠くんに朝のことを早く聞きたかった私は、断って朝と同じ場所に急いだ。
朝よりは人が通るかもしれないけれど、少ないのは変わりないから。
「遅かったな」
「ごめん、ちょっと呼び止められちゃって」
すっかり気安い口調になっちゃった永遠くんは、涼しげな顔をして階段の手すりに背中をあずけて立っていた。
その立ち姿だけなら本当にクールイケメンって感じなんだけど、今朝の様子を振り返るとそこまでクールって感じじゃないなって思う。
「まあいいや、さっそく本題。ディコルの攻撃をどうして防げたんだ? 要芽は一般人だろ?」
「いやそれ本題っていうか、永遠くんが聞きたいことでしょ?」
っていうか、それ以前にちゃんとした説明もまだなんだけど!?
「てかもう私も永遠って呼び捨てでいいよね? いつの間にか私のこと呼び捨てにしてるし!」
なんだか不公平な気がしてそう宣言したら、キョトンとしてから苦笑いされた。
「あ、悪い。なんかそう呼んでた。……いいぜ、これから一緒にシゴトするパートナーだもんな。お互いに呼び捨ての方がやりやすいし」
「ちょーっと待ったぁ!」
思わずさけんじゃったよ。
なんで一緒にシゴトするってもう決まっちゃってるの!?
「私そのシゴトとやらをするなんて言ってないよ!? だいたいそのシゴトってなんなの!?」
「あれ? 話してなかったっけ?」
またキョトンとした顔をされる。
その顔はちょっとかわいいけど、ほだされたりしないんだから!
「聞いてないよ! ……あの悪魔みたいなのとか、わけわかんないことばっかりだよ」
石の声が聞こえるようになったのが、やっぱり昨日永遠の水晶をさわったからだってことしか分かってない。
私はちゃんと説明して! ってにらんだ。
「わ、悪かったよ。ちゃんと話すから」
永遠は「どこから話そうか……」って少し考えてから真面目な顔になって口を開いた。
「まずはシゴトのことかな? 俺のシゴトは、朝やったことそのまんまって感じだよ」
そう説明しはじめた永遠は、ジェスチャーを交えながら説明してくれる。
「石にかけられた呪い――ディコルを祓い清めるのが俺のシゴトなんだ。あ、ディコルってのは悪魔の心って意味の【ディアブリ・コル】を略した言葉な」
「ディコル……」
「ディコルは人の悪い感情を吸い取るんだ。それだけなら問題ないどころか人のためになっているんだけど……」
神妙な顔で一点を見つめる永遠は一度言葉を切る。
私は今朝の香ちゃんを思い出しながら永遠の話しを待った。
香ちゃんから出てきた黒いモヤ……アレが悪い感情だったのいかな?
で、呪いであるあの悪魔みたいなモノ――ディコルがそれを吸い取った、と。
思い返しながら整理していると、永遠が続きを口にした。
「悪い感情をたくさん食べて強くなったディコルは、今度は人が悪い感情を持つように誘導するんだ」
「ゆうどう?」
すぐにピンとこない私に、永遠は真っ直ぐ視線を向けてハッキリと言う。
「普通に楽しく過ごしていた人が、他人を恨んだりおとしめたりする人になるよう仕向けるってことだよ」
「なっ!? なによそれ……そんなの、まさしく【呪われた宝石】じゃない!」
昔からたくさんの人を魅了してきた宝石たち。
その中には、多くの人を不幸にしてきた宝石もある。
そんな石たちは【呪われた宝石】って呼ばれて今でも怖がられてるんだ。
「そうだな、まさしく【呪われた宝石】だよ。昔からある【呪われた宝石】にもディコルが憑いていたんだから」
「……」
まさかの真実に開いた口が塞がらない。
あまりの壮大さに永遠がウソをついてるんじゃないかとも思ったけれど、ディコルが香ちゃんの悪い感情を吸い取るのを私はちゃんと見てしまってる。
あれが全部作り物だとも思えなかった。
驚く私に、永遠はもう一度自分のシゴトを説明する。
「だからそうなる前にディコルを水晶のナイフで倒して浄化するのが俺のシゴトってわけ」
「……そっか」
納得した私に、永遠は首の後ろに手を当てながらゆっくりと次の話をした。
「それでさ。そのディコルは石に憑いてるから、それを見つけるために石の声が聞こえる人をパートナーにしなきゃないんだ」
「つまり永遠は聞こえないってこと? でも今朝は石の声とか関係なかったような……?」
別に私がなにかしなくても、香ちゃんのローズクォーツからディコルが出て来てた。
パートナーって本当に必要なの?
「あ……それは」
とたんに気まずそうな顔になる永遠。
イヤな予感がしたけど、聞かないわけにもいかないから黙って言葉を待った。
「その、俺たち【石の守護者】は浄化がメインだから、石の声は聞こえないんだ。だから石の声が聞こえるパートナーに協力してもらって石の情報を集め、その情報をたよりにディコルが憑いている石を見つけるんだ」
ディコルは普段は隠れてるから、だって。
じゃあなんで今朝は勝手に出てきたのかな? って思っていたら、永遠はあからさまに視線を揺らして続けた。
「それで……そうやって自分を見つけてしまう相手だからなのかな? ディコルは石の声を聞く人を排除しようとするんだ」
「へ?」
「つまりその……要芽はディコルに狙われてるってこと」
「……はぁ!? なにそれ、つまり石の声が聞こえるようになった代わりにあの悪魔みたいなやつ――ディコル? に狙われるようになっちゃったってこと!?」
だから今朝も一番に私を攻撃してきたの!?
「うん、まあ……そういうこと。だからパートナーには守りの強化が必要なんだ……でも今朝は要芽ディコルの攻撃ふせいでたよな? 守りの強化なんてしてないのに、なんであんなことできたんだ?」
「それは……」
まだまだ文句は言いたかったけど、そっちの説明もしなきゃないよね。
私は本当にリオくんを持ってきて良かったって思いながら右ポケットから黒水晶を取り出した。
『まったく、案の定面倒なことになったな』
リオくんの、ため息まで聞こえてきそうな声に苦笑いするしかない。
確かに面倒だよねって思うもん。
「今朝はね、リオくん……この黒水晶が守ってくれたみたいなんだ」
「これは?」
「おばあちゃんから貰ったんだけど、明護の女の子をずっと守ってきた護り石なんだって」
「へぇ、そういうの持ってたのか」
『じろじろ見るな』
興味深そうにまじまじと見る永遠に、リオくんは嫌そうな声を隠しもしない。
まあ、私にしか聞こえないんだろうけど。
「あんまり見るなって言ってるよ?」
「え? あ、悪い。まあでもそういう石を持ってるなら話は早いな。明日俺んち来いよ」
「は? なんで?」
「守りの強化が必要だって言っただろ? 今朝は弱いディコルだったから弾けたかもしれないけど、もっと悪意をため込んだやつだったら守り切れないだろ?」
「そうなの?」
強いか弱いかなんてわからないし、リオくんに意見を聞くつもりで声を上げたけれど。
『は? 僕をなめないでほしいな』
と、リオくんは不機嫌そうな声を上げるだけだった。
そんなリオくんの声が聞こえない永遠は、気にすることなくそのまま説明をする。
「見た感じその黒水晶は結構強力っぽいけどさ、できればもっとパワーアップしておいた方が安心だろ? だから明日うちに来てくれ。もっと詳しい説明もできるからさ」
「うーん」
悩んでいると、ムスッとしたリオくんの声が聞こえた。
『しゃくだけど、行っておいた方がいいかもしれない。これからも今朝みたいなことが続くなら、得られる力は多い方がいいし』
「……そっか」
シゴトを手伝わないとしても、石の声が聞こえるようになっちゃったからディコルに狙われるのは変わらない。
だったら私の守りを強くするにこしたことはないって説明された。
本当に必要かなんて私にはわからないけど、今朝のディコルの姿を見て怖いって思った。
あのときみたいにまた身動きできなくなるんじゃないかって思うとなおさら怖い。
だったらリオくんも勧めてるし、永遠の家に行っておいた方がいいのかもしれない。
「うん、分かった」
「よし、じゃあ明日九時に図書館で待ち合わせな」
私が了解したからか、パッと笑顔になって「じゃあな」って教室に戻っていく永遠。
それを見送ってからハッとする。
「あ! 明日って柚乃と約束してた日!」
あんなに楽しみにしてたのに、今朝の出来事が衝撃的すぎて少し忘れてた。
「どうしよう……」
私は一人途方に暮れたようにつぶやいた。
***
どっちを断るべきか悩んだけれど、リオくんに『カナメの身の安全が優先』と言われて柚乃との約束を断ることにした。
せっかく準備してもらったのに断るのは億劫だなって思ったけれど、だからってドタキャンするわけにもいかないし……。
「柚乃……」
「あ、要芽。用事終わったの?」
教室に戻って話しかけると、柚乃は笑顔で迎えてくれた。
この笑顔をくもらせちゃうのかなって思うと言いづらい。
でも言わないわけにはいかないからね。
「じゃあ明日のことなんだけど」
「あ、あのね!」
うれしそうに話す柚乃の言葉をさえぎって、私は大きく声を上げた。
「悪いんだけど、明日の約束キャンセルしたいの」
「え?」
「ごめんね、どうしても外せない用事ができちゃって……明後日に、とかずらせる?」
手のひらを合わせて頭を下げる。
悪いなって思ってることがちゃんと伝わるように。
でも柚乃のお母さんのキラキラ宝石コレクションもやっぱり捨てがたくて、別の日にってお願いもつけ加えちゃった。
「どうしても外せない用事ってなに? お母さんにも準備してもらって……私だって要芽が家に来てくれるの楽しみにしてたんだよ?」
ちょっと声が震えてる気がする。
でも、理由を話しても分かってもらえるのかどうか……。
石にかけられた呪いのディコルってやつに狙われるようになっちゃったから、できるだけ早く守りの強化をしなきゃならない……なんて。
そんなこと言っても信じてもらえなさそうだしなぁ。
言葉にしようとしたらなおさらあり得ないって思ったもん。
「その、なんていうか……私の身の危険っていうか……それで対策うたなきゃないっていうか……」
本当のことを話せないからあいまいな言葉で伝えるしかない。
こんなんでちゃんと伝えられてるのかな?
せめて悪いって思ってることだけは伝われ! って思って、もう一度私は頭を下げた。
「ほんっとーに、ごめん!」
「……」
しばらくの沈黙。
気まずくて顔が上げられない。
でも、小さなため息と一緒に「……わかったよ」と、了解の言葉が聞こえて私はホッとして顔を上げた。
でも、柚乃はちょっと泣きそうな顔をしてて……。
「……わかったけど……なんか、悲しくてくやしいな……」
「柚乃?」
呼びかけると、柚乃はハッとしてムリヤリ笑顔を作る。
「あ、明後日にできるかどうかはお母さんに聞かなきゃ分からないから、後で連絡するよ」
「う、うん」
柚乃はそのまま次の授業の教科書を出し始める。
じっさいそろそろ長谷川先生も来ちゃうころだったし、私も自分の席に座って準備を始めた。
傷つけちゃった、のかな?
柚乃の様子を思い返すと、そんな感じな気がする。
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