宝石アモル

緋村燐

文字の大きさ
13 / 13

エピローグ

しおりを挟む
 存分ぞんぶんに柚乃のお母さんのジュエリーコレクションを堪能たんのうした翌日。
 学校の校門をぎたあたりで、永遠ともう一人見知った姿を見つけた。

「あ、かなちゃんおっはよー」
「……」

 朝の挨拶をしてくれた彼は爽やかな明るい笑みをこっちに向けている。
 朝日に金髪がきらめていた。

 ……澪音くん、まじでいた!

「……おはよう。てか、本当に学校来たんだね? 昨日あんなことしておいて」

 ムスッと不機嫌ふきげんをあらわにして文句を口にする。
 すると先に澪音くんにつっかかっていたらしい永遠が大きく声を上げた。

「だよな!? 俺も今文句もんく言ってたところでさ」
「文句っていうか言いがかりも入ってただろ? 学校に来たのはかなちゃんの血が目当てなんだろ、とか」
「え? 違うの?」

 昨日の出来事を思い返せばそんな理由なのかもって私も思ったけど、違うんだ?

「もー、かなちゃんまで……」

 ガクンと頭ごと肩を落とした澪音くんは、少しふてくされるように説明した。

「ヴァンパイアって言っても、今まで普通に学校に通ってたんだよ? 絶対に血を吸わなきゃ生きていけないわけじゃない。それに【アダマース】としての役割やくわりだって、近くにディコルの気配がある石を見つけたら悪い感情イラルムをいただいて次へ回すだけだし」
「え? そうなの?」

 今までもこっそり誰かの血を吸ってたのかなとか、【アダマース】にぞくする者としてバンバン石に呪いをかけまくってるのかと思ったけれど……。

「ん? でも待って、香ちゃんのローズクォーツに呪いをかけたのは澪音くんなんだよね?」

 昨日そう言ってたはず。と思い出して聞いてみると。

「ああ、あれは練習だったから」
「練習?」

 どういうこと? って続きをうながしたら、澪音くんは「俺はまだ半人前なんだ」って教えてくれた。

「何年も維持いじできるちゃんとした呪いをかけるには結構練習が必要なんだ」
「ああ、練習だからあんな原石に近い石にディコルをけてたんだな?」

 澪音くんの説明に私よりも永遠が納得する。
 説明を終えた澪音くんは、またニコッと爽やかな笑みを浮かべた。

「そういうわけだから、一応キミらとは敵対関係ではあるものの僕からは大したことできないんだよ」

 だからそんなにずっと警戒しなくても大丈夫って笑顔で言われて、うーんと首をひねる。

 大したことはできないって言ってもまた強いディコルを見つけたら奪い合いになるんだろうし、香ちゃんのときみたいな練習はまたするんだろうし……。

 いいのかな? って思ったけど、だからってみんなに澪音くんがヴァンパイアだってバラしたり【アダマース】のことを話しても、こっちが頭おかしいとか思われそうだよね。
 結局警戒しながら今まで通り過ごすしかないんだな。

 はぁ、と諦めのため息をはくと、頭の中に声が響く。

『カナメちゃん、大丈夫? また具現化してレイン追い払おうか?』

 今日もポケットに忍び込ませているトパーズの指輪、オウちゃんの声だ。

『大したことできないとか言ってるけど、カナメにとって色々危険な相手なのはたしかだよ。オウ、やっちゃえ』

(いやいやいや! ダメだって!)

 同じくポケットに忍び込ませたリオくんの言葉をあわてて止める。
 他にも登校中の生徒がいるのに具現化する瞬間を見られたら困るよ! 説明できないし!

 でも、私を守ろうとしてくれるリオくんとオウちゃんの思いは嬉しいし心強い。

(ありがとう、いざというときはお願いするから)

 感謝を伝えて、今にも澪音くんに飛びかかりそうなオウちゃんを止めた。


 そんなやり取りをひそかにしていた私の横で、澪音くんと永遠がまた言いあらそいをはじめてる。

「なんにしたって要芽にとってお前が危険な存在なのはたしかだろ? あんまり近づくなよ」
「えー? なんだよ嫉妬? さっきも『要芽は俺のパートナーだ! お前なんかに渡さない!』とか言ってたもんな」
「なっ!? 本人の前で言うなよ!」

 あたふたする永遠は私と目が合うとカァ! って一気に顔を赤くさせた。

「あ、コーラル永遠だ」
「は? なんだよコーラルって」

 不思議そうな永遠の顔色が一気にもどる。

「ん? なんでか永遠って私を見るとたまに顔真っ赤にするからさ。その赤さがサンゴみたいだと思って」
「……勝手に変な呼び方するなよ」

 力が抜けたようにうなだれる永遠。
 そんな永遠をあわれむような目で澪音くんが見てる。
 仲が良いのか悪いのかわからない二人だね。
 一応敵対してるからどちらかというと悪いんだろうけど。

 そんな二人を見比べていると、澪音くんは小さく息をつき視線を永遠から私に変えて笑った。

「まあ、これからも呪われた石をうばい合うことはあるかもしれないけれど、よろしくな」
「どんなよろしくよ、それ」

 今度は私がため息をつく番。
 呪われた石をうばい合う関係なんてゴメンだ。
 でも、それは避けられないことなのかもしれないとも思う。
 だって、私は永遠のシゴトを手伝うって決めたから。

「ねえ、永遠」
「ん? なんだ?」

 私の呼び掛けにうなだれていた頭を戻した永遠。
 まだ少し元気がなさそうな永遠に、私は決めたことをちゃんと伝えるために向き直った。

「永遠のシゴト、私手伝うことに決めたから」
「へ? い、いいのか!?」

 切れ長な目をまん丸にして驚いた声を出した永遠は嬉しそうにも見える。
 私が「うん」とうなずくと「よっしゃ!」って拳を握った。

「澪音くんみたいなのもいるし、やっぱり大好きな宝石が呪われてるなんてイヤだからね」
「僕みたいなのって……そんなこと言っときながら、かなちゃんの本音は手伝いにかこつけて色んな宝石を見ることなんじゃないのか?」

 澪音くんのツッコミに思わずギクッと肩を上げてしまう。
 私の反応に永遠はポカンと口を開けて間抜けにも見える表情になった。

「まじか……いや、でもどんな理由でも手伝ってくれるならいいんじゃないか?」

 驚いた様子だったけど、永遠はあごに指を当ててブツブツつぶやきはじめる。

 せっかく格好良くキメようと思ったのにこれじゃあ台無しだよ。
 私は本音を言い当てた澪音くんをジロリとにらむ。
 そうしていると、後ろの方から明るい声がかけられた。

「要芽ー、おっはよ! どうしたの? こんな所で止まって。早く教室行こう?」

 振り返って見えたのは、昨日の朝とは打って変わって元気そうな柚乃。
 その様子を見て、やっぱり呪いは祓った方が良いよねって改めて思う。
 大事な友だちの笑顔を守れたことを喜びながら、私は柚乃に応えた。

「柚乃、おはよー。そうだね、行こっか」
「あっ! 俺も行くよ!」
「僕も途中まで一緒に行こうかな?」

 柚乃と教室に行こうと歩き出したら永遠と澪音くんもついて来る。
 永遠は同じクラスだからいいんだけど、澪音くんまで……。
 まあ、階段のところまでは一緒だけどさ。

『まったく! レインちょーし乗りすぎ!』
『そうだね。いざってときには容赦ようしゃなくひっかいてやるといいよ』

 頭の中に響く声はなんだかちょっと物騒ぶっそうで。

(ほどほどにね)

 とだけ伝えておいた。


 四人で歩きながら宝石たちの声を聞いて、なんだか色んな意味でにぎやかになったなぁって思う。

 にぎやかになった周りを見ながら、私は宝物を見つけた気分で笑顔を浮かべた。

END
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ

☆ほしい
児童書・童話
【第3回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました】 魔法が学べる学園の「製菓科」で、お菓子づくりに夢中な少女・いちご。周囲からは“落ちこぼれ”扱いだけど、彼女には「食べた人を幸せにする」魔法菓子の力があった。 ある日、彼女は冷たく孤高な“氷の王子”レオンの秘密を知る。彼は誰にも言えない魔力不全に悩んでいた――。 「私のお菓子で、彼を笑顔にしたい!」 不器用だけど優しい彼の心を溶かすため、特別な魔法スイーツ作りが始まる。 甘くて切ない、学園魔法ラブストーリー!

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

その怪談、お姉ちゃんにまかせて

藤香いつき
児童書・童話
小学5年生の月森イチカは、怖がりな妹・ニコのために、学校でウワサされる怪談を解いてきた。 「その怪談、お姉ちゃんにまかせて」 そのせいで、いつのまにか『霊感少女』なんて呼ばれている。 そんな彼女の前に現れたのは、学校一の人気者——会長・氷室冬也。 「霊感少女イチカくん。学校の七不思議を、きみの力で解いてほしい」 怪談を信じないイチカは断るけれど……? イチカと冬也の小学生バディが挑む、謎とホラーに満ちた七不思議ミステリー!

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

処理中です...