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一話 カクバッタ世界なんて受け入れられない

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 俺は転生者だ。いつだか知らないけれど、リーク・ダーターという男の子に転生していた。
 こいつの生まれが何と貴族様。特権階級様様で何の不自由も無く暮らせてきた。もっともテーブルマナーだとか細々とした面倒なことがあったし、ネットとかの娯楽が無いから退屈な生活だった。けどどうしようも無いし、気楽に過ごせる環境だっただけマシだった。
 それにこの世界には魔法があった。どうしてこういったことが出来るのかは分からないが、ド派手なことが出来そうで心が躍った。

 勿論これで日本に帰ることも考えたが、それは無理だ。向こうからしてみれば、死人を騙るただの変質者だ。第一その手段が無い。
 日本に帰るにはまず空間を飛び越える必要がある。どうしろと?そんな方法なんて俺には分からないし、分かるんだったらノーベル賞でも貰ってる。
 まぁ、これだと話が進まないから、仮にそれを思いついたとしよう。どこが地球なんだ?ここと地球との位置関係なんて分からない。そんなんじゃ適当に飛び越えても、同じ空間に行けるか分からないし、行けたところでどこかの宇宙に飛び出る可能性の方が高い。
 ということで俺は向こうに帰ることを諦めた。俺はビビりだ。訳分からないことをして、二度も無残に死ぬのは嫌です。それに向こうへの思い入れも少なかったからだろうか、計画が頓挫しても案外割り切れた。
 つまり今の俺は魔法を扱えることを楽しみに待つ人間だ。それなら気分も上々なのが普通だ。だというのに今は憂鬱でため息をついてばかり、何故か。

 それは俺が理想のハーレムを作れないからだ。
 そもそもこの世界が 某ゲームマ○クラみたいに色んなものが角張っていた。それは人も例外では無かった。顔も、目も何から何まで四角かった。流石にあのゲームとは解像度が違ったが、それでも1ブロック辺りの大きさは2センチはあるだろう。指の太さがもはや全部同じ幅にしか見えない。
 おまけに爪を切ろうとしても、切れたかどうかの区別も全然つかない。おかげでなかなか上手く行かず、何度血を流したことか。痛くて、痛くて、その度にイライラした。

 あ、話を戻すと、そんな姿の女性をきれいに見えるだろうか。少なくとも俺はムリ。何せドット絵の中でも相当前のように荒い。目は白い部分が見当たらないし、どんな美肌も荒れて見えてしまう。
 あー、無理。美しい、美しくない以前に気味が悪い。そんな奴らと恋愛しろとかどんな罰ゲームだよ。せめて解像度を倍にしろ。

 とは言えこれだけなら理由が違うだけで、日本の時と同じだ。ただこの世界は未だハーレムが容認されていた。他の貴族が沢山の女性とイチャイチャしているらしいし、逆の場合も一応あるみたいだ。
『羨ましい!』
 俺は握りしめる。
 そう、俺はそいつらに嫉妬していた。他の奴らがハーレムを堪能している一方で、俺はその喜びを味わえない。今の俺は飼い殺しの状態だ。
 そりゃ、ハーレム主人公が嫌われる訳だ。いや、まあ……分かってるよ?そんなのが嫌われる理由は女性をモノ扱いするようなクソ野郎だからであって、俺がそれを認めたく無いだけじゃ……。
 はい、クソ野郎です。すみませんっ。

 ゲフンゲフン。話を戻すと、ハーレムを作れない俺は目標を失い、屍と化していた。でもそれだけなら大丈夫だった。何せ俺は貴族の子供。飲み食いはまだ保証され、生命活動も仕事を軽くこなせば支障はない、はずだった。
 でもここだけの話、ちょっと前に俺はやらかした。それが原因で家族の中では浮いてしまったし、最悪絶縁されるかもしれなかった。
 そんなんだからすれ違う使用人達からは白い目で見られている。お先真っ暗な人間に擦り寄る奇人なんて、彼らの中にはいないし、父に選ばれもしないだろう。
 それもこれも自業自得とは言え流石に困った。流石に一人で何でもこなせる歳にならないと、切り捨てられたら死んでしまう。
 ああ、どうしてこうなってしまったか。俺はそうなった時のことをふと思い返す。
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