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九話 ヨクボウに抗うことも破滅

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 彼は部屋の中に駆け込む。ヘイルが後を追うと、そこには男と刃を向けられたリークがいた。
「リーク!」
 やっと弟を見つけたヘイルはつい駆け寄ろうとしたが、男にそれを押しとどめられる。
「おっと、来るなよ。さもなきゃこいつが死ぬことになるぞ」
 ヘイルがよく見るとリークの首に短剣が添えられていた。ヘイルは歯を食いしばる。何せ奴がその気になれば、自分が止める前に殺されてしまうと見ていた。
「取り敢えずそこを退け。そして俺に近寄るなよ」
 でもはらわたは煮えたぎっていた。リークの目は荒んでるし、涎も垂れっぱなしだ。考えたくない最悪の事態が頭によぎる。
「おい、リークは生きてるんだろうな」
「安心しろよ。別に死ぬようなことはやってないさ」
 ヘイルは男の言葉をいまいち信じられなかった。けれども隙が無い。紐を切る時だって、しょっちゅうヘイルを見ている。飛び掛かろう物ならリークを刺すだろう。だからどうすることも出来ず、不安で押しつぶされそうだった。

 男はそんなヘイルに優越感を抱いていた。このガキを俺の意のままに動かせる確信があった。そんなことに気づかないバカな奴は不意打ちで簡単に倒せるだろう。彼はその光景を浮かべ、不敵に笑っていた。


 パイプを吐き捨ててからどの位時間を経ただろうか。吸いたい気持ちを心の奥底に閉じ込め、何とか断ち切れた。
 それはそれとして何でも出来そうだった。全て俺の思うがままに……。
 違う、そんな訳が無い。だってハーレムを作れなかったんだから。これはまやかしだ。だから変なことを考えないように、必死に体を動かそうとする。

 ようやく落ち着いてきた。
 寒い。部屋はまだ光が差し込んでいるのに、景色もぼやけてる。でも人が一人見えた。誰だろう。
 そしたら体をゆすられた。
「おい、あいつに近づいて刺せ。そしたらまた気持ち良くしてやる」
 あっ、あの男は俺に囁いてる。傍にいたなんて気づかなかったから驚いた。何かやったらもう一回吸わせるって言ってる。

 確かにこのまま凍え続けるのも嫌だ。でもそんなの吸っちゃぁ駄目だって。でないと薬付けになっちゃう。それに人を刺してはいけない。
 そう、分かってる。分かってるのに吸いたくて堪らない。その狭間にいるせいで、体中が変な感じだ。我慢も辛いし、かきむしってしまいたい。

 駄目だ。軟弱な俺には耐えられそうにない!まだ正気な内に体を早く傷つけて、痛みの方を強く感じないと吸う気持ちを我慢できない。
 でもどうやって?ちょっとやそっとの傷じゃ意味が無い。でも舌をかみ切るなんて出来ないし、きっと死んでしまう。精一杯頭を働かせていると、後ろの男が振る何かが光った。
 一気に興奮した。そうだ。刃物があった。
「なあ、その刃物を貸せよ」
 そう小声で言うと、男は許してくれた。そしてそれを胸の近くまで運んでくれる。またこんなことをやると考えたら、今更体が震える。でもやるしかない!
 彼の手を掴み、勢いよく引き寄せる。
 俺はうめいた。腹が熱いし痛い。

 でもこれでいいんだ。もうあんなのを吸いたくなる気持ちを抑えられるから。そう満足したことで気が緩み、俺は眠りについた。
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