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◆王女と王子◆
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いじめられることは覚悟していた。
首都の郊外にある、全寮制の王立学園。
正式には『王国を支える高貴なる人材を育成するための花壇たる学園』という名称の、十四歳から十八歳までの王族と貴族しかいない学校だ。
七百年ほど昔に学び舎の原型ができて、女子生徒の入学が許されたのがたった二百年前。
一代限りの爵位を与えられた準貴族(とはいえ、貴族や王族と縁深い、どこかで血のつながりがある富豪が多い)の子供たちの入学が許されたのが、六十年前。
まったく生粋の平民が入学するのは、この七百年間無かったことだ。――というのは、入学式のときに副教頭のスピーチで初めて知った。
「どうりで、試験が難しかったはずねぇ」
と、リリィは他人事のように考えていた。
平民に対しては試験内容がとくに厳しくなるのだ。とは、地元の公立学校の先生が心配そうに教えてくれたことだったけれど、彼女もまさか、今まで一般庶民の合格率がゼロだったとまでは知らなかったのだろう。
なんせ、一度目の試験と、それで二十位以内に入ったことで受けられた二次試験は、顔ぶれがかなり変わっていた。
最初の試験にたくさんいたいかにも富裕層の子息といった少年たちは、準貴族か、貴族とのコネクションを期待して親に送り込まれた平民だったのかもしれない。
二次試験になってその子たちの半分が消えて、いきなり、いかにも高貴そうなドレス姿の女の子たちが増えたのだ。
試験に使われたホールの隅から、ひそひそ声が聞こえた。……いや、ひそひそ声のフリをしながらの大声だ。
「あら見てあの女の子。みすぼらしい格好だこと」
「噂のあの子よ、一次試験に通ってきたという貧しい庶民の……。あんな格好、あたくしなら恥ずかしくて出来ないわ」
両親がくれたブラウスとスカートだったけれども、たしかに、ひときわ派手なレースだらけのドレスに比べると、見劣りしてしまうかもしれない。
でも、試験でいつものちからが出せるようにと、母が心を込めて縫ってくれた新品の服なのに……。
「恥ずかしいのは、あなたたちではないこと?」
凛とした声が響いたのは、そのときだった。
「試験会場に、晩餐会のようなドレスで参加するなんて。浮かれすぎではないかしら?」
澄み通った声で、大声ではなかったのによく聞こえた。
そちらを見ると、紅薔薇のようにつややかな赤い巻き毛の、息を飲むほどの美少女が、お嬢様たちを睨みつけていた。
驚いたのは容姿だけではない。
ほかの少女たちは、程度の差はあれどもドレス姿ばかりだというのに、庶民の自分のようにブラウスとスカートを身にまとっていたのだ。
それはずいぶん知的で、美しかった。
「……ローザ様」
フリフリドレスのお嬢様が顔色を白くして後ずさった。周囲の少女たちもひそひそと言葉をかわす。
「えっ。なぜ公爵家のローザ様が試験会場に?」「ただ入学までお待ちいただければいいのでは?」「試験を受ける必要なんてない……ですわよねぇ?」
ローザと呼ばれた赤毛の少女は、周囲の少女ににこやかに微笑みかけた。
「あら。わたくしだけではありませんわ。隣の会場には、王族であられるエドアルド様や伯爵家のチェリオ様も一緒にいらっしゃいますわよ。殿下は、どうせならば主席を取るのだと息巻いてらっしゃいますのよ。今年は面接に理事長様もいらっしゃいますし、“高位貴族ならば名前を書いただけで合格する”なんて、もう思わないほうがよろしいかもしれませんわね」
その言葉に顔を青くしたのは、少女たちだけではなかった。
そして赤い巻き髪の少女は、リリィのほうを真っ直ぐに向くと、にっこりと笑ったのだ。
首都の郊外にある、全寮制の王立学園。
正式には『王国を支える高貴なる人材を育成するための花壇たる学園』という名称の、十四歳から十八歳までの王族と貴族しかいない学校だ。
七百年ほど昔に学び舎の原型ができて、女子生徒の入学が許されたのがたった二百年前。
一代限りの爵位を与えられた準貴族(とはいえ、貴族や王族と縁深い、どこかで血のつながりがある富豪が多い)の子供たちの入学が許されたのが、六十年前。
まったく生粋の平民が入学するのは、この七百年間無かったことだ。――というのは、入学式のときに副教頭のスピーチで初めて知った。
「どうりで、試験が難しかったはずねぇ」
と、リリィは他人事のように考えていた。
平民に対しては試験内容がとくに厳しくなるのだ。とは、地元の公立学校の先生が心配そうに教えてくれたことだったけれど、彼女もまさか、今まで一般庶民の合格率がゼロだったとまでは知らなかったのだろう。
なんせ、一度目の試験と、それで二十位以内に入ったことで受けられた二次試験は、顔ぶれがかなり変わっていた。
最初の試験にたくさんいたいかにも富裕層の子息といった少年たちは、準貴族か、貴族とのコネクションを期待して親に送り込まれた平民だったのかもしれない。
二次試験になってその子たちの半分が消えて、いきなり、いかにも高貴そうなドレス姿の女の子たちが増えたのだ。
試験に使われたホールの隅から、ひそひそ声が聞こえた。……いや、ひそひそ声のフリをしながらの大声だ。
「あら見てあの女の子。みすぼらしい格好だこと」
「噂のあの子よ、一次試験に通ってきたという貧しい庶民の……。あんな格好、あたくしなら恥ずかしくて出来ないわ」
両親がくれたブラウスとスカートだったけれども、たしかに、ひときわ派手なレースだらけのドレスに比べると、見劣りしてしまうかもしれない。
でも、試験でいつものちからが出せるようにと、母が心を込めて縫ってくれた新品の服なのに……。
「恥ずかしいのは、あなたたちではないこと?」
凛とした声が響いたのは、そのときだった。
「試験会場に、晩餐会のようなドレスで参加するなんて。浮かれすぎではないかしら?」
澄み通った声で、大声ではなかったのによく聞こえた。
そちらを見ると、紅薔薇のようにつややかな赤い巻き毛の、息を飲むほどの美少女が、お嬢様たちを睨みつけていた。
驚いたのは容姿だけではない。
ほかの少女たちは、程度の差はあれどもドレス姿ばかりだというのに、庶民の自分のようにブラウスとスカートを身にまとっていたのだ。
それはずいぶん知的で、美しかった。
「……ローザ様」
フリフリドレスのお嬢様が顔色を白くして後ずさった。周囲の少女たちもひそひそと言葉をかわす。
「えっ。なぜ公爵家のローザ様が試験会場に?」「ただ入学までお待ちいただければいいのでは?」「試験を受ける必要なんてない……ですわよねぇ?」
ローザと呼ばれた赤毛の少女は、周囲の少女ににこやかに微笑みかけた。
「あら。わたくしだけではありませんわ。隣の会場には、王族であられるエドアルド様や伯爵家のチェリオ様も一緒にいらっしゃいますわよ。殿下は、どうせならば主席を取るのだと息巻いてらっしゃいますのよ。今年は面接に理事長様もいらっしゃいますし、“高位貴族ならば名前を書いただけで合格する”なんて、もう思わないほうがよろしいかもしれませんわね」
その言葉に顔を青くしたのは、少女たちだけではなかった。
そして赤い巻き髪の少女は、リリィのほうを真っ直ぐに向くと、にっこりと笑ったのだ。
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