異世界スクランブル

ゆみのり

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現代人:芦田幸助①

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 今でもたまに思い出す。あの時の事を……

 それはいつもと変わらない日常だった。高校生になったばかりの僕は、いつものように朝起きて、お母さんの用意してくれたご飯を食べていた。すると、お父さんが遅れてやってくる。歪んだネクタイ、裏返しになった襟、それを見たお母さんは、「仕方ない人ね」と言って、お父さんの身だしなみを整えてあげていた。

「食べてくの?」

 というお母さんの問いに、「時間ないから今日はいいや」とお父さんはバタバタと家を出て行った。いつもの事だ。何の変哲もない日常。すると、お母さんはある事に気付き、僕の方を見た。

「大変、お弁当忘れてる」

「え?やだよ?」

「いいから、急いで届けて」

 はいはい……と僕は急いでご飯を口の中に入れて、用意しておいた鞄を持って家を出た。

「いってきます」

 と言うと、お母さんは「いってらっしゃい」と僕に返す。いつもの日常。でも、これが僕とお母さんとの最後のやり取りだった。こんな事なら、もっとゆっくり朝ご飯を食べたのに……

 こんな事なら、もっとお母さんと沢山お話をしたのに……

 僕はお父さんを追いかけて近くの駅まで走った。お父さんは駅まで自転車で行っているので、すでに駅に着いているかもしれない。早く弁当を届けなければ電車に乗って渡せなくなる。

 朝っぱらから息を切らしながら僕は駅に到着する。すると、ちょうど電車は発車したところだった。ミッション失敗……この弁当どうしようか?家に戻ってお母さんに返すか?でもなぁ……もう僕も学校に行かなければいけないし……とりあえず僕が持っていくとするか。

 僕の通う高校は近くにあり、歩いて20分ほどで到着する。近くの駅に来てしまったから、いつもと違うルートで学校に行く事になってしまったが、問題ない。

「あれ?コウちゃんじゃん」

 交差点で信号待ちをしていると、突然横から声をかけられた。クラスメイトの井野辺仁司くんだ。

 僕は「おはよう」とジンくんに挨拶をする。すると、ジンくんも挨拶を返してくれた。

 ジンくんは小学校からの友達で、中学高校と一緒になり、今もこうして仲良くしている。ジンくんは僕の方を見て首を傾げる。

「コウちゃんて、この道だっけ?」

「いやぁ、ちょっと寄り道」

「ふーん。まぁいいや、じゃあ一緒に行こうぜ」

「うん」

 信号が青になり、僕たちは横断歩道を渡った。学校の校舎が住宅街の向こう側に見えてくる。僕はジンくんと高校での生活について語っていた。部活は何にするかとか、彼女を作ろうとか、まぁ、ありきたりな会話だった。

 なのに、それは突然訪れた。あと少しで学校に到着するというところで、突然の大地震がおき、僕たちは立っている事もできずにその場に座り込む。周りにいる人もパニックになり、悲鳴が遠くから聞こえてくる。

「大丈夫、すぐにおさまるよ」

 ジンくんは僕を励ましてくれたが、それにしても揺れが長い……近くの民家からビシビシッ!と音が鳴る。いや、これマジでヤバくないか?そう思った瞬間、世界が暗転し、僕たちは気を失った。
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