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過去人:足立光郎①
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「勘弁してくれ!」
汚れた雑巾のような衣をまとった男がそのように悲願するものだから、ワシは「ならば、その袋、全て置いていけ」と言い放った。
「こ、これはダメじゃ。娘が腹を空かせて待っとる」
ワシは腰に携えた刀を鞘から抜き、男の眼前で光らせる。男は怯え、しかし、袋を抱きしめ放そうとしない。それ故、ワシは刀を大きく振りかぶり、そして、男の肩から腰に向けて振りぬいた。男は一瞬悲鳴をあげてその場所に倒れ込む。大量の血が地面に広がり、やがて男は息絶えた。
「大人しく渡せば良いものを……」
男の下敷きになった袋をワシは引っ張り出し、中を確認する。五合ほどの米が入っており、ワシはため息をついた。
「たったこれだけのために、ワシは刀を汚したというのか」
すると、背後に気配がしてワシは振り向く。そこに居たのは左目に傷のある男だった。斬れ味の悪そうな刀を構えている。
「探したぞ、足立光郎。この人斬りの鬼が!」
「ん……?貴様は……?」
どうやら相手はワシの事を知っているようだった。ワシは顔をよく見るが心当たりはない。そりゃそうだ。今まで様々な人を殺して来た。数えきれないほど恨みも買っただろうに。恐らくこいつもその一人だろう。しかし……待てよ……とワシは再度相手の顔を見る。
「おぬし……あの時の小僧か」
「おっとーの仇……」
「ははは!」
数年前に、子連れの男を殺した事があった。その時に子が親を庇い、左目に傷を負ったのだ。どうせ独りならすぐ死ぬだろうと思い、命は奪わずに立ち去ったが……まさか大きくなって仇討ちに来るとは……
「実に愉快ぞ。良かろう、かかってこい」
ワシも刀を構え、切っ先を小僧に向ける。するとその瞬間、地面が大きく揺れた。
「なんぞ?」
天変地異でも起きたのか?今日に至るまで経験したことのない地震だ。しかも長い。ワシはバランスを崩し地面に手をつく。この揺れでは立っていられない。すると、小僧はふらつきながらワシの方に歩み寄ってきた。この揺れで立てるとは大した小僧だ。愉快愉快。
「ははは!それで良い!」
ワシも負けてはいられぬと、何とか立ち上がり踏ん張った。しかし、歩く事はできない。立つだけで精一杯だ。
今まで幾多にも及ぶ男や侍と闘い、相手の血を浴びてきたが、このまま奴がこちらに来ればワシは負けてしまうかもしれんの。だが、まだまだワシは人を殺め足りん。こんな所で殺されてたまるものか。
ワシは足に力を集中し、一歩踏み出す。すると、その瞬間。轟音と共に地面が割れ、世界が暗転した。そして、ワシは気を失ったのである。
汚れた雑巾のような衣をまとった男がそのように悲願するものだから、ワシは「ならば、その袋、全て置いていけ」と言い放った。
「こ、これはダメじゃ。娘が腹を空かせて待っとる」
ワシは腰に携えた刀を鞘から抜き、男の眼前で光らせる。男は怯え、しかし、袋を抱きしめ放そうとしない。それ故、ワシは刀を大きく振りかぶり、そして、男の肩から腰に向けて振りぬいた。男は一瞬悲鳴をあげてその場所に倒れ込む。大量の血が地面に広がり、やがて男は息絶えた。
「大人しく渡せば良いものを……」
男の下敷きになった袋をワシは引っ張り出し、中を確認する。五合ほどの米が入っており、ワシはため息をついた。
「たったこれだけのために、ワシは刀を汚したというのか」
すると、背後に気配がしてワシは振り向く。そこに居たのは左目に傷のある男だった。斬れ味の悪そうな刀を構えている。
「探したぞ、足立光郎。この人斬りの鬼が!」
「ん……?貴様は……?」
どうやら相手はワシの事を知っているようだった。ワシは顔をよく見るが心当たりはない。そりゃそうだ。今まで様々な人を殺して来た。数えきれないほど恨みも買っただろうに。恐らくこいつもその一人だろう。しかし……待てよ……とワシは再度相手の顔を見る。
「おぬし……あの時の小僧か」
「おっとーの仇……」
「ははは!」
数年前に、子連れの男を殺した事があった。その時に子が親を庇い、左目に傷を負ったのだ。どうせ独りならすぐ死ぬだろうと思い、命は奪わずに立ち去ったが……まさか大きくなって仇討ちに来るとは……
「実に愉快ぞ。良かろう、かかってこい」
ワシも刀を構え、切っ先を小僧に向ける。するとその瞬間、地面が大きく揺れた。
「なんぞ?」
天変地異でも起きたのか?今日に至るまで経験したことのない地震だ。しかも長い。ワシはバランスを崩し地面に手をつく。この揺れでは立っていられない。すると、小僧はふらつきながらワシの方に歩み寄ってきた。この揺れで立てるとは大した小僧だ。愉快愉快。
「ははは!それで良い!」
ワシも負けてはいられぬと、何とか立ち上がり踏ん張った。しかし、歩く事はできない。立つだけで精一杯だ。
今まで幾多にも及ぶ男や侍と闘い、相手の血を浴びてきたが、このまま奴がこちらに来ればワシは負けてしまうかもしれんの。だが、まだまだワシは人を殺め足りん。こんな所で殺されてたまるものか。
ワシは足に力を集中し、一歩踏み出す。すると、その瞬間。轟音と共に地面が割れ、世界が暗転した。そして、ワシは気を失ったのである。
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