魔法使い、辞めます。

Dreamei#

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転校生が来た?!

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 数字を見てるとわくわくする人。
 私はこの人たちの心の在り方がよく分からない。
 そのうちの一人に、私の隣の席の有栖川れなも入るだろう。
私、西園寺美玲、13歳。勉強が大嫌いだった。数式、英文、周期表、年表。
どれも見てるとうんざりする。
でも、私はみんなとは違う。
信じがたいと思われがちだが、私は魔法が使えるのだ。
思った事が全て当たる。そう。全て。
なのでテストも満点。自分で勉強をするより魔法を使う方がずっと良い。
しかし、ちょっと憧れる。勉強ができる人に。
私は魔法を使わずにテストを受けるとどのくらいの成績なのかは分からないが(もちろん試したくもない)、きっとどう頑張っても満点は取れないだろう。

                                    *                                                                  

今日も学校。明日も明後日も。
正直私に勉強など必要ない。
本当に勉強が出来るのかも分からないのに、優等生扱いされて。何のために学校に行くのだろう。
そう思いながらも、満開の桜の下の門を潜る。

 また新学期が始まった。

新しい友達ができるわけでもない。と言うか、最初から友達など居なかった。今まで友達ができなかった。これからも友達ができないのは目に見えている。
「おはようございます。」
一瞬教室が静かになる。
「あ、西園寺さん、おはよ…。」
みんなこんな感じだ。何故だろう。好きな気持ちはなかなか伝わらないのに、嫌いな気持ちは話さなくても行動で伝わってしまう。
世の中不平等だ。
これが真逆だったら、どんなにみんな幸せに暮らせただろう。
 一時限目は社会か…。
社会は5教科の中でも一番好きだ。あまりいろいろ考えなくても良い。暗記するだけだから。とは言っても、魔法に考えるなどはあまり影響しないが。
 こんな事を考えている場合ではない。
あと5分で遅刻扱いになる。準備をしなくては。
ささっとスクールバッグを片付ける美玲を、クラス中の女子が目で追っていた。

 ぼーっとしていた。気づけばもう昼休みになるところだった。
私の1番嫌いな時間。
いつも本を読む。いや、読んでいない。クラスのみんなを何となく観察。
「千夏~!今日駅前に新しくカフェができるらしいんだよね。帰りに寄ってこ?」
「あ、知ってる~!なんか、ケーキも売ってるよね!ハニーシナモンってお店でしょ!行こ行こ!」
あ、何だか目にゴミが入ったみたいだ…。目が痛い。痛い。痛い。私は一人教室で泣いていた。

  私もみんなと同じように過ごしたい。
心のどこかで思っているのだろうか。
友達なんて面倒くさいもの、と自分に透かさず言い聞かせる。 そして今日も校門を潜る。
友達が欲しい。何故私はどこに行っても友達ができないのだろうか。魔法使いだから?そんな訳あるまい。それだと差別になるだろう。
 もう良い。どうでも良い。私は孤独。孤立して生きていく。
あ、また遅刻扱いまであと5分だ。慌ててスクールバッグを片付ける。
 毎日同じ日の繰り返しだ。今日も孤独に寂しさを感じるのだろう。
 キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴った。セーフ。一応席には着いている。
「おはよう。今日は、紹介したい生徒がいる。」
「!!!!?」
て、転校生だろうか…?
「入ってきてくれ。」
「は、はい!」
うわぁ、何だかこの場に合わない派手な女子が来たようだ。
その生徒は黒板に自分の名前、出身校を書きながら、自己紹介をする。
「有栖川れなです。水河東校から来ました!」
みずかわひがしこう…。と読むのか…。
「よろしくお願いします~!」
この出会いが私の人生を変えた。

                                    *                                     
 
有栖川れな。髪が腰くらいまであるため、ポニーテールで縛っていて、背が155cmの女子。明るく、表現力豊か。長所を言うとこんな感じだ。しかし…短所は…馬鹿と言っても良いくらいで、ミーハー。第一印象はこれだった。しかし…。

 有栖川れなは勉強好きという、学校では、いや、生活でメリットしかない心得を持っていたのだ。

ここまで有栖川れなの事を知っているのは私だけだろう。しかも、転校してきて二日目の段階で。奇跡だ。これも運命なのか…。有栖川れなは私の隣の席に座ることになり、もう既に呼び捨てで呼び合う仲になってしまったのだ。
「帰り、一緒に帰ろ?美玲。」
何もかもが初めてだった。帰りに2人並んで帰るだけ。何気なく。他人にしてみればそうだ。でも私にとってはこれが初めてなのだ。2人で並んで帰ったことがあったとしても、両親とだ。

 昼休み。昨日まで一日で一番嫌いな時間だったが、今は、これからはれながいると思うと、何だって頑張れるような気がした。
 何をしよう。休み時間とは何をして遊ぶものなのだろうか。何かを楽しく語り合ったりするのか…?何を話すんだ…?せいぜい私が話せたとしても、テレビの話題くらいだ。テレビの話は昨日したし…同じ話題でも良いのか…?話すときのルールは何だろう。
「美玲、何ぼーっとしてんの?遊ぼっ!」
「ひぃぃ。」
「酷くない?人の顔見てひぃぃとか。」
しまった。思わず…。
「美玲、反応が面白い!」
「何だそれ!」
「きゃはは。」

 前期中間テスト。2年生に進級して初めて聞いた言葉だ。明日に迫っているというのに。しかし、私達、美玲、れなはそんな事は御構い無しに毎日楽しく遊んでいた。れなは明日がテストだという事をきちんと把握していたのだろうか。
「えー、初耳なんだけどー!」
「同じく。今週報見てたら気づいた。」
「今日勉強会開こうよー、美玲。良いでしょ?」
勉強会…?どんなものなのか。友達が隣にいれば自ら勉強に取り掛かる事が出来る、というものなのか?
「うん、やろ!」
「うちに案内するよ!」
れなの家…!友達の家に…!嬉しい。

 「じゃ、私はちょっと家でいろいろ用意するから、先帰らせてもらう。」
「分かった。また後で!」
何かお菓子を持って行かなくてはいけない。どこで買おうか…。

 あ、そうだ…!

 「お邪魔します。」
「どうぞ。」
「ケーキ、買ってきたの。一緒に食べよ?」
そう、私はケーキを買ってきた。昨日クラスの女子が駅前に新しい店ができた、という感じの話をしていた気がして、今日の帰りに寄ってきたのだった。
「わ、ケーキって。美玲ってばリッチ!」
そうなのか…。ケーキはリッチなのか…。
「分かった。もう買わない…。」
「ふえぇぇ?!買ってくれないの?!反対はしてないよ!買ってきて良いんだよ?!」
「?…じゃあ、次は何のお菓子が良いかな…?」
「ケーキを再び買ってきて下さいませ、ご主人様ぁぁぁぁー。」
「宜しい。良いだろう。」
「ありがとうございます…ご主人様…。」
早速、れなはお茶を持ってきてくれて、お菓子を食べた。そして、その後、部活の話をしていた。れなは私と同様、部活には入らないそうだ。少し嬉しい…。ところが。
「何をしに来たんだっけ。あれ、話が盛り上がり過ぎて、忘れちゃったよ…。」
「勉強会という名の女子会だよ…。」
「そっか…、そうだった!もっと話そ!…って違うわ!勉強するよ。」
「はーい!」
今日はとても楽しい日になりそうだ…。

 前期中間テスト。生徒の人格が変わる日。みんなこの日のために頑張ってきたのだろうか。私もみんなのようにいつか魔法など使わずにテストを受けてみたいが、怖くてできない。一度やったら絶対に止められない。私は何を言っているのだろう。これじゃあ薬物乱用防止のための宣伝みたいだ。もう直ぐテストが配られる。どうしよう。魔法…今回も卑怯者が一位を取るのか。自分が本当に情けない。せめて一点逃す魔法をかけよう。今回からいきなり魔法を使わずにテストを受ける事は今の私には無理だ。しかし、自分が変わろうと思わなければ自分は変われないだろう。卒業までに必ず自分の力でやれたら良いな、と思う。思うだけじゃ変わらないが。
 
 いざ、開始!

 魔法はあっという間にかけ終わり、何をするか…それは。寝る。西園寺美玲はテストが大好きだった。寝られるから。

 順位が出て、順位表が学校内に掲示された。美玲は今回も一位という文字の隣に自分の名前があるのを確認した。
「西園寺さん、また一位なのかな?!」
「どうせそうだよ。私なんか、塾行ってカテキョも居て、土日祝日は最低でも6時間はやってるのに…。二位で。いつもお母さんに怒られる!」
「梨々香、かわいそう…。」
「そうだよね、私はこんなに努力してるのに。西園寺さんなんて、塾にも行ってないし、そんなに授業集中してる感じしないのに。」
聞こえてるんですけど。私の耳はこんなに苦しい声も聞こえてしまうのか。
「西園寺さん、あのさ、次のテスト、負けてくれない?」
「ちょ、梨々香、それは無いってー。」
「はぁ?私が一位取れないのあいつのせいだし。まじいらつくんですけどー。」
「あ、そうだね。西園寺さん、前から思ってたんだけど、勉強なんか西園寺さんには合わないよ。そうだ、西園寺さんに似合うのは…」
そう言ってクラスメイトが持ってきた物を見て、私はいじめられている事が初めてわかった。
「あんたにはこれがお似合いだよ!」
クラスメイトはゴミ箱のゴミを私の頭に思い切りかけた。私がどんなに悪いことをしたかは分かっているので、対立する事が出来なかった。

 夢か…。そういえばテストも、そろそろ終わりに近くなってきた。
みんなテスト当日なのに頑張って休み時間も勉強してるんだなぁ。見習わないといけな……。
 あれ?
れなは真面目に絵を描いている!
「あれ、絵、描いてるの?」
「…ふふ。」
「??!」
絵じゃなかった。れなは真面目に地図を描いていたのだ。
「旧国名地図だよ。美玲も一緒に描こうよー。」
「れな、熱あるの?ちょっ、保健室一緒に行こう?」
尋常じゃない。学校で習わない勉強をする、そんな事、私だったら考えられない。
「熱なんてないよ?描かないの?」
少しの沈黙。
「あ、じゃあ少し…」
キーンコーンカーンコーン。
言い切らないうちに、チャイムが鳴った。
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