前世知識は最強!異世界改革!

namisan

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第20話 疫病の終息と、復興への投資

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 翌朝。
 鉱山都市ボールデンの空気は、劇的に改善していた。
 鼻を刺す腐敗臭はなく、代わりに消毒用アルコールの清潔な匂いと、朝露の澄んだ空気が満ちている。
「若様、朗報です」
 洗面器を持ってきたセバスが、静かな声で告げた。
「昨晩、新たな死者はゼロ。重症者エリアでも、数名の熱が下がり始めました。……峠は越えたようです」
「そうか……。よかった」
 俺は深く息を吐き、窓の外を見た。
 通りでは、住民たちが自分たちの手で家の前を掃除している。
 「清潔にすれば助かる」という成功体験が、彼らの行動を変えたのだ。
 ***
 午前10時。
 俺とセバスは、ビル伯爵の屋敷――その応接間にいた。
 ビル伯爵はまだ顔色は悪いものの、昨日のような絶望的な表情は消えていた。
「リック殿……。なんとお礼を言えばいいか。君は、我が領地の恩人だ」
 ビルが深々と頭を下げる。
 プライドの高い貴族が、10歳の子供に頭を下げるなどあり得ないことだが、彼にとっては俺が「神の使い」に見えているのかもしれない。
「頭を上げてください、伯爵。まだ終わっていません」
 俺は厳しい口調で切り出した。
 ここからが、コンサルタントとしての俺の仕事だ。
「昨日の処置は、あくまで『火消し』です。火種を消さなければ、また同じことが起きますよ」
「火種……とは?」
「この街の構造的欠陥です」
 俺はテーブルの上に、ボールデンの簡易地図を広げた。
「この街は、鉱山の発展と共に急激に人口が増えました。しかし、インフラ――特に『水回り』が昔のままだ。人口密度に対して、井戸と排水路の処理能力が追いついていません」
「うっ……耳が痛い」
「人が増えればゴミも増える。汚水も増える。それを垂れ流せば、今回のような疫病は必ず再発します」
 ビルは青ざめて俯いた。
 原因が自分の統治の甘さにあったことを突きつけられたからだ。
「ど、どうすればいい? 下水道を整備しろと言うのか? だが、今の我が家にそんな金は……」
「そうでしょうね」
 鉱山が止まり、治療費がかさみ、ボーリー伯爵家は破産寸前だ。
 公共事業をやる体力なんてない。
「だから、提案があります」
 俺はニヤリと笑い、懐から一枚の契約書を取り出した。
 エルガレア商会の印が押された、正式な書類だ。
「金も、技術も、人手も。すべてエルガレアが出しましょう」
「なっ!? 君が……援助してくれるのか?」
「援助じゃありません。『投資』です」
 俺は指を立てて条件を提示した。
「この街に、上下水道と焼却炉を整備します。我が家の土魔法技術を使えば、コストは格安で済みます。その代わり――」
 俺はビルの目を真っ直ぐに見据えた。
「今後10年間、この鉱山で採れる『鉄鉱石』と『石炭』を、エルガレア商会に市場価格の2割引きで優先供給してください」
「……!」
 ビルが息を呑む。
 2割引き。かなりの安値だ。
 だが、鉱山が再開できなければ、彼の領地は死ぬ。
 インフラを整え、労働者の健康を守り、安定して採掘できるようになれば、薄利でも十分に元は取れる。
 何より、エルガレアという太客(大口取引先)を確保できるメリットは計り知れない。
「……君は、恐ろしい子供だ」
 ビルは苦笑いしながら、しかし安堵の表情を浮かべた。
「ただの慈善事業ではなく、しっかりと利益を取る。……ロイドの息子だけのことはあるな」
「ウィンウィンの関係(相互利益)でなければ、長続きしませんから」
 俺がペンを差し出すと、ビルは迷うことなくサインをした。
「契約成立だな。……頼む、リック殿。この街を、君のような『清潔で豊かな街』に変えてくれ」
「お任せください。僕の辞書に『不衛生』という文字はありません」
 ***
 屋敷を出ると、セバスが感心したように呟いた。
「さすがでございます、若様。人助けをして感謝された上に、商会に必要な資源の供給ルートまで確保されるとは」
「これから鉄と石炭は大量に必要になるからね。安く手に入るのは大きいよ」
 俺は空を見上げた。
 昨日のような淀んだ雲はなく、青空が広がっている。
「さて、セバス。契約しちゃったからには働かないと。……まずは大規模な下水工事だ。土魔法の出番だよ」
「やれやれ。私の魔法は土木工事専用になりそうですな」
 こうして、エルガレア商会は隣領のインフラ事業をも手中に収めた。
 鉄鉱石と石炭。
 産業革命に必要な二つの資源を手に入れた俺の次なる目標は、いよいよ「工業化」へと進んでいく。

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