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第25話 あふれる金貨と、新都心計画(ニュータウン・プロジェクト)
しおりを挟むあれから1ヶ月。
エルガレア領は、かつてないバブル景気に沸いていた。
王都や他領からひっきりなしに訪れる商人の馬車。
「リバーシ」や「シャンプー」を求めて行列を作る人々。
そして、噂を聞きつけて職を求めてやってくる移民たち。
領主の館の金庫は、物理的にパンクしていた。
毎日運び込まれる税収と商会の利益が多すぎて、床が抜けそうなのだ。
「……リックよ。嬉しい悲鳴だが、限界だ」
執務室の窓から、ごった返す街を見下ろしてロイドが呻いた。
「人が増えすぎて宿が足りん。道も馬車で渋滞している。それに、治安も少し心配になってきた。……このままでは、街が機能不全(パンク)になるぞ」
エルガレアはもともと、小さな宿場町程度の規模しかなかった。
そこに数千、数万の人と金が雪崩れ込んだのだ。インフラが追いつかないのは当然だ。
「そうですね、父上。継ぎ接ぎの拡張ではもう無理です」
俺はデスクに広げた領都の地図の上に、赤いペンで大きな円を描いた。
場所は、現在の街の西側に広がる平原だ。
「だから、新しい街を作ります。『新都心計画(ニュータウン・プロジェクト)』です」
***
俺の構想はこうだ。
現在の街を「旧市街(ダウンタウン)」とし、商業と観光の中心地として特化させる。
エルガレア商会本部や「鉄板亭」、市場などはここに残す。賑やかで、エネルギッシュな商人の街だ。
そして、西の平原に建設するのが「新市街(アップタウン)」。
こちらは行政機能と居住区をメインとする。
道幅を広く取り、公園を配置し、静かで整然とした住宅街を作る。
「街を二つに分けるのか?」
「はい。『職住分離』です。働く場所と住む場所を分けることで、快適な暮らしを提供します。……そして、その新市街の中心に、新しい『領主の館』を建てます」
俺は新しい図面を取り出した。
今の屋敷は古くて狭い。急増した人口を統治する役所(オフィス)としても手狭だ。
「新市街の中心に、行政機能を集約した『新・エルガレア邸』を建設します。これは領主の権威を示すシンボルでもあります。一方、旧市街の王(シンボル)は『エルガレア商会』。この2つの拠点が、街の両輪となるのです」
ロイドは地図と図面を交互に見て、ゴクリと唾を飲んだ。
「……壮大だな。王都すら凌ぐ規模になるぞ」
「金なら腐るほどあります。使いましょう。投資こそが最大の富を生むのですから」
***
翌日から、大規模な開発がスタートした。
現場指揮を執るのは、もちろんセバスだ。
「セバス。今回の都市計画は『碁盤の目(グリッド)』だ。大通りは馬車が4台すれ違える幅を確保して」
「承知いたしました。……また私の魔法が火を吹きますな」
セバスは苦笑しながらも、楽しげに作業をはじめる。
ドガガガガガッ!!
土魔法が唸りを上げ、平原の土が掘り起こされる。
ボーリー伯爵領での経験を活かし、地下には最初から完璧な上下水道が整備されていく。
地面は魔法で石畳のように硬化され、泥濘(ぬかるみ)とは無縁の舗装道路が伸びる。
あふれる移民たちも、ただの失業者ではない。
俺は彼らを高賃金で「建設作業員」として雇い入れた。
自分たちが住む街を自分たちで作る。給料も貰える。
彼らのモチベーションは最高潮だ。
「若様! ここが俺たちの新しい家になるんですね!」
「立派な街にするぞ! 負けるな!」
槌音が響き、活気が満ちる。
何もない平原に、みるみるうちに区画整理された美しい街並みが浮かび上がっていく。
***
そして、新市街の中央丘陵地帯。
ここに建設されるのが、新・領主館だ。
俺がデザインしたのは、前世の迎賓館をモデルにしたネオ・バロック様式の白亜の宮殿だ。
商会本部の「国会議事堂風」の反省を活かし、今回は威圧感よりも「優雅さ」を重視したが、それでも規模は桁違いだ。
「1階は役所と謁見の間。2階と3階が居住スペース。そして屋上には庭園を作ろう」
豊富な石材(ボーリー領から格安で輸入)と、潤沢な資金、そして魔法技術。
これらが組み合わさり、本来なら数十年かかる都市建設が、早回しの映像のように進んでいく。
夕暮れ時。
建設中の新館の足場から、俺とロイドは景色を眺めた。
東には、灯りがともり始めた賑やかな旧市街。
西には、整然と区画された未来の新市街。
二つの街が、街道で繋がっている。
「……凄いな。ただの寂れた田舎町だったのに」
「これからですよ、父上。ここは大陸で一番住みやすい街になります」
俺は確信を持って言った。
医療、衛生、娯楽、産業。すべてが揃った理想郷。
新都心計画の始動は、エルガレアが単なる一地方都市から、巨大な都市国家(メトロポリス)へと変貌する第一歩だった。
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