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第26話 未来を育む領立学園と、命を守る白き城
しおりを挟む新都心計画(ニュータウン・プロジェクト)が始動してから、1ヶ月が経過しようとしていた。
建設現場には、槌音(つちおと)と活気が満ちている。
俺はヘルメット代わりの鉄帽を被り、腕章をつけて現場を走り回っていた。
「おい、第3工区! 足場が不安定だぞ! 『安全第一』だと言っただろう!」
「あそこの資材搬入が遅れてる! 工程表(ガントチャート)を見直せ!」
魔法があるとはいえ、最後にモノを言うのは「管理」だ。
俺は前世の現場監督よろしく、全体の進捗を厳しくチェックしていた。
そして今、俺の目の前には、3つの巨大な施設がその姿を現しつつあった。
***
1. エルガレア領立学園(仮称)
新市街の東側、朝陽が一番に当たる場所に建設中なのが「学校」だ。
この世界には貴族向けの学園はあるが、俺が作るのは違う。
「義務教育」の先駆けとなる、領民・庶民のための学校だ。
「……リックよ。平民に読み書きを教えてどうするのだ? 彼らは畑を耕していればいいのではないか?」
視察に来た父ロイドが、建設中の校舎を見上げて首を傾げた。
俺は図面を丸めて、力強く答えた。
「父上、それは違います。商会が大きくなれば、マニュアルを読める工員、計算ができる事務員が数千人規模で必要になります。読み書きそろばんができない人材ばかりでは、これ以上の経済成長(グロース)はありません」
それに、と俺は付け加えた。
「この学校は、領主である父上がスポンサーとなる『領立(りょうりつ)』の学校です。ここで学んだ子供たちは、必ずやエルガレアへの忠誠心を持ち、領地を支える優秀な人材に育ちます。未来への投資ですよ」
校舎は、採光を重視した大きな窓ガラス(商会本部の技術を転用)を多用し、各教室には「黒板」と「チョーク」を導入する。
ここから、数年後には優秀な数学者や技術者が生まれるはずだ。
***
2. エルガレア総合病院
次に案内したのは、静かな森のそばに建設中の白い巨塔だ。
以前のボーリー領でのパンデミックの教訓を活かした、完全分業制の医療施設だ。
「ここは『病院』です。神の奇跡に頼る教会ではなく、医学に基づいて治療を行う場所です」
内部は徹底的に「清潔(クリーン)」にこだわった。
床や壁は拭き掃除がしやすいタイル張り。
入り口には手洗い場を設置し、各病室は感染症対策のために個室、あるいは少人数の部屋に分けている。
「ここでは薬草学、外科手術、そして魔法治療を組み合わせた『混合医療』を行います。セバス、医師や看護師の候補生募集はどうなってる?」
同行していたセバスが手帳を開く。
「順調です。高給を提示したところ、各地から食い詰めた薬師や、神殿を破門された回復術士などが集まってきております。彼らに若様の『衛生知識』を叩き込めば、立派な戦力になるかと」
「よし。まずは『消毒』の概念を徹底させてくれ」
この病院が完成すれば、領民の平均寿命は10年は伸びるだろう。
健康な労働力こそが、国力の源泉だ。
***
3. グランド・エルガレアホテル
そして最後は、旧市街と新市街の境界線、一番眺めの良い高台に建設中の宿泊施設だ。
これは商売(ビジネス)のための城だ。
「王都の貴族たちが泊まる宿が、木賃宿では格好がつきませんからね」
目指すは5つ星ホテル。
全室に専用のシャワールーム(ボイラー直結)と水洗トイレを完備。
ベッドは最高級の羽毛布団。
1階にはロビーラウンジとレストランを併設する。
「ここに来れば、王都以上の贅沢ができる。そう思わせれば、彼らは何度でも足を運び、金を落としてくれます」
ロイドは建設中の巨大な骨組みを見上げ、ほうっとため息をついた。
「領立学園、病院、そしてホテルか……。お前の頭の中には、国の設計図が入っているのか?」
「いえ、ただの『当たり前の暮らし』を作っているだけですよ」
俺は汗を拭い、笑って答えた。
建設は順調だ。
だが、箱(ハード)を作るだけでは街は完成しない。
中身(ソフト)、つまりそこで働く「人」の教育とシステムの構築。
これからの2ヶ月、俺たちはさらに忙しくなる。
「さあ、休憩終わり! 次は下水道の最終チェックだ!」
俺は再び鉄帽を被り直し、土煙舞う現場へと駆け出した。
理想の街が完成するその日まで、俺の足が止まることはない。
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