前世知識は最強!異世界改革!

namisan

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第27話 給食という名の最強カードと、消毒の鬼

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 新都心計画の開始から2ヶ月。
 建設工事が佳境を迎える中、俺は執務室で頭を抱えていた。
 目の前には、セバスが集めてきた大量の書類。
「……人が、足りない」
「はい。箱は作れても、中身が追いつきませんな」
 セバスが紅茶を注ぎながら同意する。
 俺たちが直面していたのは、深刻な「人材不足」と「意識の壁」だった。
 ***
【課題1:病院スタッフの意識改革】
 まず、エルガレア総合病院だ。
 高給に釣られて各地から薬師や回復術士が集まったのはいいが、彼らの衛生観念は絶望的だった。
「なんで治療の前に手を洗わなきゃならんのですか? 回復魔法(ヒール)をかければ傷は塞がるんですよ?」
「煮沸消毒? 面倒くさい」
 集められた術士たちは、俺が作成したマニュアル『エルガレア医療プロトコル』に猛反発していた。
 俺は彼らを講堂に集め、白衣(特注品)を着て教壇に立った。
「いいですか。魔法で傷は治せても、『菌』は殺せません。術後の感染症で患者が死ぬのは、君たちの手が汚いからです!」
「菌だのウイルスだの、見たこともないものを……」
 ブツブツ言う古株の術士に、俺は冷徹に告げた。
「これは命令(業務命令)です。この病院で働きたければ、私のルールに従ってもらいます。従えない者は即刻解雇。……その代わり、従う者にはボーリー伯爵領で実証済みの『生存率データ』と、最高の待遇を約束します」
 飴と鞭だ。
 俺はセバスを鬼教官に任命し、徹底的な手洗いと器具の消毒(オートクレーブの原理を応用した蒸気釜を使用)を叩き込ませた。
 泣き言を漏らす者もいたが、1週間もすれば、彼らの手つきは劇的に変わっていくだろう。
 ***
【課題2:学校への生徒募集】
 次に、領立学園だ。
 こちらはもっと深刻だった。教師候補は何人か確保できたが、肝心の「生徒」が集まらないのだ。
「学校? そんなもんに行かせてる暇はねえよ」
「子供は貴重な労働力なんだ。読み書きなんか覚えても腹は膨れねえぞ」
 農民や職人の親たちからの反応は冷ややかだった。
 貧しい彼らにとって、子供を学校にやることは「労働力の損失」でしかない。
 教育の重要性を説いても、明日のパンの心配が勝るのだ。
「……なるほど。正攻法じゃダメか」
 報告を聞いた俺は、ニヤリと笑った。
 親たちが一番気にしているのは「食い扶持」だ。なら、それを逆手に取ればいい。
「父上、新しい予算を組んでください」
「ま、まだ金を使うのか!?」
「はい。学園の生徒全員に、昼食を無料で提供します。名付けて――『完全給食制度』です!」
 ***
 翌日。
 街の掲示板に貼り出されたポスターに、主婦たちが殺到していた。
『領立学園、生徒募集! 授業料無料! さらに栄養満点の昼食付き!』
「えっ? タダで昼飯が食えるのかい?」
「しかも、美味しいパンとスープだって!?」
「肉も出るらしいぞ!」
 効果は絶大だった。
 「子供を学校に行かせれば、家計の食費が浮く」。
 この即物的なメリットが、親たちの重い腰を一気に上げさせたのだ。
 ついでに「読み書きができれば、将来商会で高給取りになれる」という餌もぶら下げたことで、定員100名の枠に300名の応募が殺到した。
「……食欲で釣るとは、お前らしいな」
 ロイドが呆れつつも感心している。
「きっかけは何でもいいんです。学校に来てくれさえすれば、学ぶ楽しさを教えてみせますから」
 教科書は俺が作った。
 前世の義務教育レベルの算数と国語(共通語)、そして道徳。
 これを印刷魔法で大量コピーした「エルガレア式テキスト」だ。
 ***
【課題3:ホテルスタッフの接客】
 最後はホテルだ。
 こちらはセバスの独壇場だった。
「背筋が曲がっています! 笑顔が硬い! お客様は神様ですぞ!」
 採用された元農村の娘や若者たちが、セバスの指導の下、皿の運び方からお辞儀の角度まで、軍隊のような厳しさで特訓を受けていた。
 彼らが着ているのは、パリッとした制服。
 清潔感と規律。
 この世界には存在しなかった「ホスピタリティ(おもてなし)」の概念が、ここに植え付けられようとしている。
 ***
 そして、あっという間に3ヶ月が過ぎた。
 季節は巡り、秋の気配が近づいてきた頃。
 新市街の丘の上に、完成したばかりの「新・領主館」が白く輝いていた。
 その眼下には、生徒たちの笑い声が響く学校、白衣のスタッフが行き交う病院、そして王都からの貴族を待つ壮麗なホテルが並んでいる。
「……できたな」
 俺は新館のテラスから、生まれ変わった街を見下ろした。
 旧市街の活気と、新市街の秩序。
 二つのエリアが融合し、エルガレアは今、大陸で最も先進的な都市へと進化した。
「いよいよ明日、街開き(グランドオープン)だ」
 隣に立つロイド、そして後ろに控えるセバス。
 俺たちの戦いは、第二章へと突入する。
 この街を舞台に、どんなドラマが生まれるのか。
 胸の高鳴りを抑えながら、俺は新しい朝を待った。

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