35 / 71
第35話 魔導写真機と、創刊号の熱狂
しおりを挟む王都、エルガレア伯爵邸の庭園。
美しい芝生の上に、奇妙な箱が三脚で据え付けられていた。
「……ねえリック。さっきからセバスが覗いているその『木箱』、何なの?」
モデルとしてポーズを取らされているカレンが、不思議そうに尋ねる。
箱の前面には、分厚いガラスのレンズが嵌め込まれている。
「これは『魔導写真機(マジック・カメラ)』だよ。僕が設計して、セバスが作った魔道具だ」
俺は箱の構造を説明した。
原理はこうだ。
まず、箱の中には「感光紙」の代わりに、「光属性の魔石粉末を塗った特殊な紙」がセットされている。
レンズを通して集めた光(風景)を、紙に投影する。
そして、シャッターを切る瞬間に微弱な魔力を流すと、光が当たった部分の魔石粉末が変色し、景色がそのまま紙に定着する――という仕組みだ。
「以前、チラシを作った『写し絵の魔法』を、持ち運べる箱に詰め込んだんだ。これなら、絵師が何日もかけて描く肖像画が、一瞬で、しかもフルカラーで完成する」
「一瞬で絵ができる……? 相変わらずデタラメな技術ね」
アリシアが呆れつつも、レンズに興味深げな視線を向ける。
「さあ、撮りますよ! 一枚の原画があれば、後は印刷魔法で何千枚でも複製(コピー)できますからね。……セバス、頼む!」
「御意。……ではカレン様、もっと躍動感を! 敵を斬り伏せるイメージで!」
***
撮影会は白熱した。
カレンは、芝生の上を走り、ジャンプし、剣(模造刀)を振るった。
『キュロット・スタイル』の裾が風にはためき、その動きやすさと美しさが一枚の絵として切り取られる。
「パシャッ!」という音と共に、魔導写真機から排出される紙には、汗さえ輝くようなカレンの笑顔が焼き付けられていた。
一方のアリシアは、屋敷の図書室での撮影だ。
『ブレザー・スタイル』で梯子に登り、本を手に取る。
窓から差し込む光が、彼女の銀髪と知的な横顔を照らす。
静謐で、どこか物語のワンシーンのような一枚。
「……素晴らしい。素材(モデル)が良いと、腕が鳴りますな」
カメラマン役のセバスもノリノリだ。
***
数日後。
王都の書店や、貴族たちの屋敷に、一冊の奇妙な冊子が配られた。
タイトルは『Milina(ミリナ) Vol.1』。
表紙を飾るのは、背中合わせに立つカレンとアリシアの「写真」だ。
絵画とは違う、圧倒的なリアリティ。
そこに添えられたキャッチコピーは――
『解放せよ、乙女たち。美しさは、自由の中にある』
中を開けば、躍動するカレンのパンツスタイルと、知的に佇むアリシアの制服姿。
そして、商品の値段と注文書。
この世界初の「ファッション通販カタログ」は、王都に核爆弾級の衝撃をもたらした。
「な、なによこれ!? 絵じゃないわ、人が入ってるみたい!」
「カレン様が履いているこのスカート……下が分かれているの!? なんて画期的なの!」
「アリシア様のこの服、素敵……! これならお母様に怒られずに勉強ができるわ!」
効果は劇的だった。
「あの有名なお二人が着ているなら」という安心感と、「あんな風になりたい」という憧れ。
貴族の令嬢たちが、親にねだって注文書を書く姿が、王都のあちこちで見られた。
***
エルガレア商会王都支店(伯爵邸の倉庫を改装)。
そこには、注文書の山が築かれていた。
「り、リック様! 初期ロットの500着、完売です! 予約が3ヶ月待ちになりました!」
「生地が足りません! 領地の工場へ至急連絡を!」
悲鳴を上げる従業員たち。
だが、俺はニヤリと笑って追加の指示を出した。
「慌てるな。品薄(スカシティ)はブランドの価値を高める。『お待たせして申し訳ありません』という丁寧な手紙と共に、新作の小物を一つオマケにつけて送れ。それで客はファンになる」
カレンとアリシア、二人のアンバサダーと魔導写真機の力により、アパレルブランド『Milina』は、社交界の常識を塗り替える巨大なトレンドとなった。
そして、この成功は、リックに更なる野望――「文化そのものの変革」を意識させることになる。
232
あなたにおすすめの小説
転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる
初
ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。
レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。
これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。
異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが
初
ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
近未来の魔法世界に転生して最強ハーレムを作る
こうたろ
ファンタジー
トラックの直撃で死亡。「君は選ばれた。異世界へ行く資格を得たのだ」とか言われてとりあえず転生させられたクルト。公爵家だけど四男だし魔術があるけど魔力量判定Eでほぼほぼ使い物にならないし……魔物1体倒すのも一苦労。俺の転生後生活、大丈夫か?
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる