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第46話 11歳の生誕祭と、賑わいの中の懸念
しおりを挟む春の陽気が心地よいある日。
エルガレア領の空に、三頭のワイバーンが舞い降りた。
「お帰りなさいませ、リック様!」
「若様! お誕生日おめでとうございます!!」
地上に降り立った俺を迎えたのは、視界を埋め尽くすほどの人、人、人だった。
今日は俺、リック・フォン・エルガレアの11歳の誕生日だ。
転生してから約1年。
廃村寸前だったこの地は、今や高層建築が並び、煙突から煙がたなびく、王国でも有数の大都市へと変貌を遂げていた。
「すごいな……。街中がお祭り騒ぎだ」
メインストリートには色とりどりの旗が掲げられ、屋台が並んでいる。
領民たちは皆、新しい服(『Milina』の廉価版や作業着)を身につけ、その顔は栄養が行き届いて艶々としていた。
「若様のおかげで、今年は腹一杯食えます!」
「新しい家も建ちました! 長生きしてくだせえ!」
花束や果物を差し出してくる領民たち。
中には涙を流して拝む老人までいる。
前世ではしがないサラリーマンだった俺が、ここでは「生き神様」扱いだ。少しこそばゆいが、彼らの笑顔を見ると、やってきたことは間違いじゃなかったと思える。
***
その夜。
エルガレア伯爵邸の大広間で、盛大な祝賀パーティーが開かれた。
集まったのは、俺にとってかけがえのない「家族」と「盟友」たちだ。
「リック! おめでとう! また背が伸びたんじゃないか?」
豪快に笑って肩を叩いてきたのは、隣領のボーリー伯爵だ。
かつては寂れた鉱山持ちだった彼も、今やエルガレアへの鉄と石炭の輸出で大儲けし、身なりも随分と良くなっている。
「ありがとうございます、ボーリー様。そちらの領地も順調そうですね」
「ああ! お前のところの冷蔵庫のおかげで、鉱夫たちに冷たい酒を振る舞えるようになってな。みんな喜んで働いてくれるよ!」
続いて、華やかなドレスの擦れる音が近づいてきた。
「リック! 私の可愛い孫!」
甘い香りと共に抱きついてきたのは、祖母のスーナだ。
その隣には、祖父であるカーラ侯爵も穏やかな笑みを浮かべて立っている。
「おめでとう、リック。……王都での噂は聞いているぞ。百貨店という城を建てたそうだな」
「ええ。お祖父様の支援があってこそです」
「ふん、謙遜するな。お前はもう、わしらを超える怪物を生み出したのだ。……誇りに思うぞ」
カーラ侯爵が俺の頭を撫でる。
母ミリナは、そんな俺たちの様子を目を細めて見守り、父ロイドはグラス片手に満足げに頷いている。
テーブルには、領地の特産品を使った料理と、特製のバースデーケーキ(もちろんショートケーキ)が並ぶ。
セバスの指揮の下、メイドたちが完璧な給仕を行う。
何もかもが満ち足りた、幸福な時間が流れていた。
***
宴もたけなわとなった頃。
俺は夜風に当たるため、バルコニーに出た。
眼下には、領民たちが灯す明かりが、まるで地上の星空のように広がっている。
「……良い眺めだな、リック」
背後から声をかけてきたのは、父ロイドだった。
彼は俺の隣に並び、手すりに寄りかかった。
「1年前、この景色を誰が想像できただろうか。全てはお前の知恵と努力のおかげだ」
「父上の決断力があったからですよ」
ロイドは静かに笑い、そしてふと真剣な眼差しで街を見下ろした。
「だがな、リック。……人が増えすぎた」
ロイドの声から、祝いの浮かれ気分が消えた。
「王都での成功を聞きつけ、周辺の村や他領から、仕事を求めて流民が押し寄せている。街の区画(キャパシティ)はまだ余裕があるが……問題は『食』だ」
ロイドは眉間に皺を寄せた。
「輸入に頼っている小麦や肉が、高騰し始めている。冷蔵庫で保存できるようになったとはいえ、肝心の生産量が追いついていない。このまま人口が増え続ければ、来年には食料不足(飢饉)が起きるかもしれん」
都市化の弊害だ。
商工業に特化しすぎた結果、農業の自給率が相対的に下がっている。
金はあっても、買う物がなければ人は飢える。
「……気づいていましたか、父上」
俺は頷いた。
実は俺も、次の課題はそこだと睨んでいたのだ。
「心配いりません。街作り(ハード)の次は、国作り(アグリカルチャー)です」
俺は暗闇の向こう、まだ手付かずの荒野が広がる方角を指差した。
「領地を広げましょう。森を切り拓き、農地を倍増させます。……それも、ただの畑じゃありません。僕の知識を使った『超・近代農業』を始めます」
11歳になった夜。
リックとロイドは、月明かりの下で新たな決意を固めた。
食の危機を回避し、この繁栄を盤石なものにするために。
エルガレアの大開拓時代が、始まろうとしていた。
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