没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan

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第18話 悲鳴を上げる鉱山と、空飛ぶ削岩機(マイン・レスキュー)



 シオンが報告した「山鳴り」の正体は、魔物ではなかった。
 それは、大地そのものの悲鳴だった。
 ズズズ……ドォォォォォン!!
 ベルナ領の北部に位置する鉄鉱石の採掘場。
 そこで大規模な落盤事故が発生したのは、蒸気機関の実用化からわずか三日後のことだった。
「アレン様! 北の鉱山で坑道が崩れました! 作業員十二名が生き埋めです!」
 早馬で駆けつけた鉱山長の報告に、執務室の空気が凍りついた。
 原因は明白だ。
 蒸気機関の登場で鉄の需要が爆発し、無理な増産体制で掘り進めた結果、地盤が緩んでいたのだ。
 そこへ、麓(ふもと)の製材所で稼働し始めた蒸気エンジンの「振動」が伝わり、共振(レゾナンス)を起こして岩盤が崩落した。
 完全に、人災だ。
「……生存者は?」
「分かりません。ですが、崩落したのは地下三層……空気の供給管も切断されています。持ってあと三時間……」
 三時間。
 王都から救助隊を呼ぶ暇などない。
 人力で岩を退けるには、丸二日はかかる量だ。
「……掘るしかないな。それも、人力の百倍の速さで」
 私は立ち上がった。
 私の脳裏には、すでに救助の設計図(ブループリント)が描かれていた。
 だが、それには「重すぎる機材」を、山の上まで一瞬で運ぶ必要がある。
「シオン、ゲイルを呼べ! 『空輸騎士団』の緊急出動(スクランブル)だ!」
          ◇
 港の工廠(こうしょう)。
 レイノルズ博士とドワーフのゴーディが、試作したばかりの「蒸気機関」の前で頭を抱えていた。
「無茶じゃアレン! このエンジンはまだ台座に固定したばかりじゃぞ! 重さは二トンもある! これを山まで運ぶじゃと!?」
「運ぶんだよ。これがないと岩盤は砕けない」
 私はエンジンの出力軸に、巨大なドリルのような切削ヘッドを取り付けさせた。
 『蒸気式削岩機(スチーム・ドリル)』。
 蒸気の圧力でピストンを叩きつけ、同時に回転させて岩を砕く。
 トンネル工事の革命児だが、今は人命救助の切り札だ。
「準備はいいか、ゲイル!」
 上空から、バサバサという羽音が響く。
 ワイバーンの疾風(ハヤテ)に跨ったゲイルが降りてきた。
 疾風の足には、私が開発した「懸架用ハーネス(吊り下げベルト)」が装着されている。
 通常、ワイバーンの積載限界は五百キロ程度。二トンもの鉄塊を運べば、墜落する危険がある。
「……重いぜ、若様。疾風の腰が抜けちまうかもしれねえ」
「大丈夫だ。私が風魔法で機体を持ち上げる。君は操縦に集中してくれ」
「へっ、了解! ……行くぞ疾風! 今日は魚大盛りだぞ!」
 ガシッ!
 疾風の鉤爪が、蒸気エンジンのフレームを掴む。
 同時に、私は最大出力の風魔法を発動した。
「ウィンド・ブースト(上昇気流)!」
 グオオオオッ!
 強風が巻き起こり、巨大な鉄塊とワイバーンがふわりと浮き上がった。
 見ていた工員たちが歓声を上げる。
 空飛ぶ重機。
 前代未聞の空輸作戦が始まった。
          ◇
 現場の鉱山は、パニック状態だった。
 入り口は巨大な岩で塞がれ、鉱夫たちがツルハシで必死に叩いているが、傷一つつかない。
 家族たちが泣き叫んでいる。
「どいてくれ! 危ないぞ!」
 上空からゲイルの声が響く。
 ドスン!!
 凄まじい地響きと共に、巨大な蒸気機関が入り口前に着地した。
 疾風が「重かったぞ」と言いたげに一声鳴き、上空へ退避する。
「な、なんだこれは……鉄の塊?」
「説明は後だ! ゴーディ、ボイラーに火を入れろ! 博士、蒸気圧最大だ!」
 私は【構造解析】を発動し、岩盤の向こう側を透視した。
 地下五十メートル。
 狭い空洞に、十二人の生体反応。
 ……まだ生きている。だが、酸素濃度が低下し、二酸化炭素(CO2)が充満し始めている。
 あと一時間もない。
「目標座標設定。……いいか、生存者のいる空洞まで、あと五十メートル。誤差は許されない。ズレれば彼らを挽肉にしてしまうぞ」
「任せろ! 俺の目は節穴じゃねえ!」
 ゴーディがレバーを握る。
 シュゴォォォォ……!
 ボイラーが唸りを上げ、ドリルの先端が回転を始めた。
「穿てぇぇぇっ!!」
 ガガガガガガガガッ!!
 轟音と共に、ドリルが岩盤に噛みつく。
 凄まじい振動。
 だが、ツルハシとは比較にならない速度で、硬い岩が粉砕されていく。
 一分で一メートル。
 人力なら一時間かかる距離を、鉄の爪が食い破っていく。
「熱い! ドリルが溶けそうだ!」
「冷却水をかけろ! 止めるな!」
 私は水魔法でドリルを冷やしながら、同時に土魔法で掘った穴が崩れないように壁面を固めていく(シールド工法)。
 まるで魔獣の咆哮のような音を立てて、機械が地中へと潜っていく。
 四十五メートル。
 四十八メートル。
 四十九メートル。
「……ストップ!!」
 私の叫びと同時に、レイノルズ博士が緊急停止弁を叩いた。
 プシューッ……。
 蒸気が抜け、ドリルが停止する。
 目の前の岩壁に、小さな亀裂が入った。
「おーい! 生きてるか!」
 私が亀裂に叫ぶと、中から微かな声が返ってきた。
「……助けて、くれ……息が……」
 生存確認。
 歓声が上がった。
 あとは手作業だ。
 鉱夫たちが亀裂を広げ、次々と仲間を引きずり出した。
 全員、泥だらけで酸欠状態だったが、命に別状はない。
「あ、ありがとう……。もうダメかと……」
「なんだあの機械は……化け物か……?」
 助け出された鉱山長が、まだ熱気を帯びている蒸気ドリルを見て震えていた。
          ◇
 救助は成功した。
 だが、私は手放しで喜ぶことはできなかった。
 夕暮れの鉱山で、私は鉱山長と、そして今回の機械を作ったレイノルズ博士たちを集めた。
「今回は運良く助かった。だが、これは警告だ」
 私は静かに告げた。
「新しい技術(蒸気機関)は、強力すぎる。それを使うなら、安全管理も『進化』させなければならない。……今日から鉱山の労働基準を改定する」
 私は手帳を取り出した。
 『労働安全衛生法(ベータ版)』。
 ・坑道の支柱は、従来の木材ではなく鉄骨(H鋼)を使用すること。
 ・一酸化炭素検知用の「カナリア(あるいは魔道具)」を常備すること。
 ・そして何より、無理な増産計画の見直し。
「技術は人を幸せにするためにある。人を殺す技術なら、私がこの手で廃棄する。……いいですね?」
 私の言葉に、全員が深く頷いた。
 技術開発者のレイノルズ博士も、神妙な顔をしている。
「……分かったわい。わしも、ただ出力だけを求めていたことを反省しよう。これからは『安全装置(セーフティ)』の研究も進める」
 こうして、ベルナ領の産業革命は、大きな痛みを伴う教訓を経て、次の段階へと進むことになった。
 空を飛ぶ輸送手段。
 岩を砕く動力。
 それらは、正しく使えば世界を変える。
 だが、この救出劇が派手すぎたせいで、またしても王都から招かれざる客がやってくる。
 今度は商人でも海軍でもない。
 「鉄と蒸気」の噂を聞きつけた、王国の技術開発局――いわゆる「魔導兵器」を管轄する役人たちだった。
(……次は、軍事転用の誘いか。やれやれ)
 私は煤だらけの顔を拭いながら、次なる防衛戦(技術の平和利用)への覚悟を決めた。

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