没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan

文字の大きさ
42 / 55

第42話 春の嵐と、鉄と硝子の祭典(ワールド・エキスポ)



 大寒波が嘘のように去り、ルーン川の氷が溶け出す頃。
 私は新当主『ベルナ伯爵』として、活気に満ちた領地へ帰還した。
 舗装された黒いコンクリート道路の脇には、雪解け水が勢いよく流れ、東方貿易で手に入れた桜の苗木が、早くも小さな蕾(つぼみ)をほころばせている。
 港には蒸気船が汽笛を鳴らし、高層アパートの窓からは人々の笑い声が聞こえる。
 わずか一年。
 さびれた港町は、王国一の近代都市へと変貌を遂げていた。
「……お帰りなさいませ、アレン『伯爵』様」
 執務室に入るなり、政務官のエレナが恭しく、しかしどこかトゲのあるお辞儀で迎えてくれた。
 その後ろでは、家令のガルシアが分厚い帳簿を抱えて白目を剥いている。
「特区指定に昇爵、お見事です。……ですが若様、それに伴う王家への上納金と、捕虜三万人の食費と住居費で、金庫が悲鳴を上げております。当家の財政は、文字通り『火の車』ならぬ『蒸気車』状態ですぞ!」
「大丈夫だ、ガルシア。投資のフェーズは終わった。ここからは『回収』のフェーズに入る」
 私は自分のデスク――以前より二回り大きくなった特注のマホガニー製デスク――に腰を下ろした。
「その通りですわ。ここからが私たちの腕の見せ所です」
 執務室のソファには、すでに王都から同行してきたリリアーナが優雅に紅茶を飲んでいた。
 彼女は商人としての鋭い目つきで、テーブルに広げた王国地図を指差した。
「アレン様。ベルナ領の製品――香水、シルク、缶詰、そしてコンクリート。これらは王国中から引く手あまたです。ですが、需要に対して『認知度』がまだ足りませんわ。貴族たちはまだ、貴方を『ぽっと出の成金』だと思っている節があります」
「実物を見せていないからな。王都に運べるのは軽い製品だけだ。巨大な蒸気機関や、コンクリートの摩天楼は、現地に来ないと凄さが分からない」
 リリアーナがニヤリと笑った。
「ならば、呼べばいいのです。王都の貴族だけではありません。他国の王族、大商人、技術者……世界中の富と権力を、このベルナ領に一堂に集めるのです」
「……なるほど。ただの市場(マーケット)じゃ弱い。もっと強烈な、世界を揺るがす『祭典』が必要だな」
 私は立ち上がり、黒板にチョークで大きな文字を書き殴った。
『第一回 ベルナ万国博覧会(ワールド・エキスポ)』
「万国……博覧会?」
 エレナが目を丸くする。
「そうだ。ベルナ領の全技術、全産業を展示する巨大な見本市だ。……会場は、あの『ガラスの温室』をさらに拡張した、鉄と硝子の大宮殿(クリスタル・パレス)にする」
 私の脳内には、前世の歴史で産業革命を象徴したロンドン万博の光景が浮かんでいた。
「そこに、蒸気機関のカットモデルを置き、活版印刷機で記念新聞を刷り、最新の農業トラクターを走らせる。夜は魔石ランプと蒸気を利用したイルミネーションで街を照らし、テルマエで疲れを癒やしてもらう」
「……圧倒的ですわ!」
 リリアーナが立ち上がり、興奮で顔を紅潮させた。
「各国の要人がそれを見れば、自国にもその技術を導入したくなるはず。インフラ輸出、特許のライセンス契約、そして莫大な観光収入……! アレン様、これは歴史が変わりますわよ!」
「ああ。戦争で領土を奪う時代は終わった。これからは『技術(スタンダード)』で世界を支配する時代だ」
          ◇
 万博の開催は三ヶ月後、初夏の季節に決定した。
 早速、活版印刷機がフル稼働し、美しい装飾が施された招待状が世界中へ発送され始めた。
 宛先は多岐にわたる。
 王国の貴族たちはもちろんのこと、東方皇国のトウゴウ提督、海軍のセシリア少佐。
 さらには――
「アレン様。本当に……この国にも招待状を送るのですか?」
 エレナが、一通の封筒を躊躇いながら持っていた。
 宛名は『ガレリア帝国 皇帝陛下』。
 つい先日まで、吹雪の中で殺し合いをしていた敵国のトップだ。
「もちろんだ。彼らの主力三万人は、今うちで元気に道路を作っているからな。『貴国の兵士たちは、我が国の先進的な環境で健康に暮らしています。ぜひ見学にいらしてください』と書き添えておけ」
「……性格が悪いですね。事実上の降伏勧告(パワー・ショー)じゃないですか」
「平和的外交と言ってくれ。剣で脅すより、圧倒的な豊かさを見せつける方が、再戦の意志を完璧に折ることができる」
 敵対国すらも、経済圏に飲み込んでしまう。
 それがベルナ特区の新しい戦い方だ。
          ◇
 夜。
 私は静かになった執務室で、窓の外を眺めていた。
 遠くの工場地帯では、万博のパビリオン建設に向けて、夜通し蒸気クレーンが動いている。煌びやかな光と、響き渡る鉄の音。
「……随分と、遠くまで来たものね」
 ふいに背後から声がした。
 振り返ると、お忍びのローブを羽織ったソフィア王女が、温かい紅茶を二つのカップに入れて持ってきていた。
 彼女はすっかりこの領地に定住し、今や私の有能なアシスタントの一人だ。
「ソフィア様。夜更かしは肌に悪いですよ」
「もう。私の主治医は貴方なんだから、責任取ってよね」
 彼女は悪戯っぽく笑い、私の隣に並んで窓の外を見た。
「一年前は、ただの寂れた港だったのに。……貴方の頭の中には、まだこんな未来が詰まっているの?」
「まだまだ、ほんの入り口ですよ。……万博が終わったら、次は空を飛ばすし、遠くの人と一瞬で話せる機械も作る。世界はもっと狭く、もっと豊かになります」
 私はカップを受け取り、彼女と軽く乾杯した。
 激動の一年目。
 ゼロから始まった領地改革は、インフラ、農業、物流、そして防衛を経て、ついに世界へ向けた「万国博覧会」という巨大な花火を打ち上げようとしている。
 

あなたにおすすめの小説

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学4巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた