没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan

文字の大きさ
44 / 55

第44話 夜を駆ける閃光と、黒煙の心臓(パワー・プラント)



 『第一回 ベルナ万国博覧会』の熱狂から一ヶ月。
 ベルナ特区の執務室には、毎日山のような嘆願書と注文書が届いていた。
「……アレン様。王都の公爵様から『我が家の寝室にもあの光をつけろ』と。金貨ならいくらでも払うそうですわ」
「隣国の王家からも視察の打診が来ているぞ。どうする、若様」
 エレナとガルシアが、悲鳴混じりの報告を上げてくる。
 万博の水晶宮(クリスタル・パレス)で披露した『白熱電球』の輝きは、それほどまでに強烈だったのだ。
 だが、私はデスクの上で設計図を引きながら首を横に振った。
「全てお断りだ。……いや、『待機リスト』に入れておいてくれ」
「お断りですって!?」
 ソファで優雅に紅茶を飲んでいたリリアーナが、信じられないという顔で身を乗り出した。
「莫大な利益を逃すおつもりですか!? 今なら言い値で売れますわよ!」
「電球(モノ)だけ売っても光らないんですよ、リリアーナ嬢。電気には『発電』と『送電』というインフラが不可欠だ。万博の発電機(ダイナモ)は、あのドーム一つを照らすのが限界なんです」
 私は窓の外、ルーン川の下流を指差した。
「街全体を、いや、ゆくゆくは王都まで照らすつもりなら……都市の心臓部となる『巨大な発電所』が必要だ」
          ◇
 ルーン川の河口付近。
 そこでは今、かつてない規模の土木工事が行われていた。
 動員されているのは、大寒波の際に降伏し、ベルナの労働者となったガレリア帝国の兵士、約三万人だ。
「そら、コンクリートを流し込め! 固まる前に平らにならすんだ!」
「おう! 今日の昼飯は『カレーうどん(東方貿易の小麦粉使用)』らしいぞ! 気合い入れろ!」
 帝国兵たちは、ツルハシやスコップを手に、恐ろしいほどの熱量で働いていた。
 飢えと寒さで死にかけた雪原の記憶は遠く、今は「安全な宿舎」と「美味すぎる三食の飯」、そして「給金」のために、喜んでベルナのインフラ整備に従事している。
 彼らの手によって、巨大なコンクリートの基礎が次々と打ち込まれていく。
「……すげえな、若様。三万人もいりゃあ、山だって平らになるぜ」
 現場監督のゴンゾが、汗を拭いながら呆れたように笑った。
 その基礎の上に組み上げられつつあるのは、城よりも巨大な鉄骨の建屋と、空を突くような三本の巨大な煙突だ。
「『第一ベルナ火力発電所(サーマル・パワー・プラント)』。これが、新しい時代の心臓部だ」
 私は完成予想図をゴンゾに見せた。
 北の鉱山から鉄道(予定)と川船で運ばれてくる無尽蔵の「石炭」を燃やし、ルーン川の「水」を沸騰させる。
 発生した超高圧の蒸気が、建屋の中に鎮座する巨大なタービンを回し、直結された大型発電機を駆動する。
「万博の時の何百倍ものエネルギーを生み出す。これ一基で、十万人の生活を賄える計算だ」
「十万人……! 見当もつかねえ数字だな」
「おまけに、タービンを回し終えた蒸気は、配管を通って隣接する『テルマエ(公衆浴場)』や温室の暖房に再利用される。無駄ゼロの熱電併給(コージェネレーション)システムだ」
 私の説明に、同行していたレイノルズ博士が目を輝かせた。
「素晴らしい! まさに科学の勝利じゃ! ……してアレン、これほどの電力、どうやって街に配るんじゃ? バケツに入れて運ぶわけにはいかんじゃろ?」
「ええ。電線(ケーブル)を使います。……ですが、ここからが一番の問題なんです」
          ◇
 私は博士を伴い、工廠の実験室へ戻った。
 机の上には、束ねられた銅線が置かれている。
 電気を遠くまで送るには、電圧を高くする必要がある。だが、高圧の電気が流れるむき出しの銅線に人が触れれば、一瞬で黒焦げ(感電死)だ。
「電気は、水と同じです。漏れないように『パイプ』で包んでやらなきゃならない」
 万博の時は、距離が短かったためガラス管や布で誤魔化したが、街中に張り巡らせる屋外の電線には、雨風に耐え、かつ柔軟に曲がる「絶縁体」が絶対に必要だった。
「布じゃ水が染み込むし、ガラスじゃ曲げられない。……何か、ゴムのような弾力があって、電気を通さない素材はないかのう」
「あるんですよ、博士。東方貿易で、トウゴウ提督に頼んでおいた『南の島の樹液』がね」
 私は棚から、一つの木箱を取り出した。
 中に入っているのは、黒っぽくて弾力のある塊。
 天然ゴム(生ゴム)だ。
「これを銅線に巻きつければ……」
「ダメです。生ゴムは気温が上がるとベタベタに溶け、冬にはカチカチに割れてしまいます」
 私は生ゴムの塊を指で押し潰しながら言った。
 そのままでは工業製品としては使い物にならない。歴史上でも、ゴムが真の実力を発揮したのは、ある「魔法の粉」を混ぜて加熱する技術が発明されてからだ。
「……硫黄(いおう)です」
「火薬の材料じゃな?」
「はい。生ゴムに硫黄を混ぜて加熱(加硫)すると、分子が結びついて、熱にも寒さにも強い最強の弾性体(エラストマー)に化けるんです」
 私は実験用のゴーグルを装着した。
 発電所という「心臓」は完成しつつある。
 次は、その血液(電気)を街の隅々まで安全に届けるための「血管」を作る番だ。

あなたにおすすめの小説

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学4巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた