ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~

namisan

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第35話 密偵の震えと、泥まみれの紋章

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「誰ですの……! 私の、私の完璧だった王国を、たった一晩でゴミ箱に変えた狂人はっ!!」
 東の公爵令嬢セレスティアの絶叫が、深夜の執務室に木霊(こだま)した。
 マホガニーの机に散らばった『純白糖』の結晶。たった一粒舐めただけで、己のプライドと味覚を完全に破壊し尽くした悪魔の劇薬。
 床に崩れ落ち、乱れたプラチナブロンドの髪を振り乱して睨みつける主君に対し。
 公爵家最高位の密偵(シャドウ)は、なぜかすぐに答えを口にしようとしなかった。
「……答えなさい!!」
 セレスティアが血走った目で怒鳴りつける。
 だが、数え切れないほどの暗殺や諜報を冷徹にこなしてきたはずのプロフェッショナルの男は、床に膝をついたまま、ガタガタと肩を震わせていたのだ。
「お、お嬢様……。申し上げます。ですが、どうか……どうか私の報告を、狂人の戯言だとお斬り捨てにならないでいただきたい」
「戯言? 言い訳はいいわ。どこの大商会が裏で手を引いているの? 北の狂犬(エレオノーラ)が他国の技術を密輸したの? それとも、南のダイアナが新しい錬金術を……」
「違います」
 密偵は、震える声で主君の言葉を遮った。
「この粉と結晶を東の市場に持ち込んだのは、大商会でも、他国の錬金術師でもありませんでした。……『銀の天秤』の裏口に荷車を横付けしたのは、ボロボロの麻布を纏(まと)い、泥だらけになった、ただの『飢えた農民たち』だったのです」
「……は?」
 セレスティアは、呼吸を忘れたように呆けた声を漏らした。
「農民? この、一ミクロンの不純物もない純白の粉を、泥まみれの農民が運んできたと? ……ふざけるのも大概になさい。そんな素人が、一体どこの最新設備でこれを精製したというの」
「精製場所は……分かりません。ですが、彼らが東の関所を越えてきた『足取り』だけは、完全に特定いたしました」
 密偵は懐から、一枚の汚い布切れを取り出した。
 それは、純白糖が入っていた木樽の底に敷かれていた麻布の切れ端だった。
 そこには、べっとりと『赤黒い泥』がこびりついている。
「その農民たちは、西の街道からやってきました。……そして、その荷車と木樽には、西の魔毒の川特有の、この赤黒いヘドロがこびりついていたのです」
「西の……魔毒?」
 セレスティアの心臓が、ドクン、と嫌な音を立てた。
 西の街道。魔毒の川。
 そのキーワードが指し示す場所は、この世界に一つしか存在しない。
「莫迦(ばか)な……っ!」
 セレスティアは床から這い上がり、机にすがりつくようにしてその布切れを凝視した。
「あそこは『ゴミ捨て場』よ!? 南のダイアナが蒔いた呪いの種で土は完全に死に絶え、西のヴィクトリアが垂れ流す毒液で、雑草一本生えないはずの灰色の死に土地……っ! そんな場所から、この最高級品以上の麦が育つはずが……っ!」
「私も、自分の目を疑いました。ですが、関所の兵士への尋問で、完全に裏が取れました」
 密偵は、己の正気を保つために必死に声を張り上げた。
「荷車を引いていた農民たちの先頭に立ち、関所を通行料の銀貨で突破した『泥まみれの少年』。……彼が関所で提示した通行手形、その紋章は間違いなく……」
 密偵の言葉に、セレスティアの脳内で、バラバラだったピースが強制的に一つに組み上げられていく。
 先日の晩餐会。
 南のダイアナが差し出した猛毒の黒パンを、純白の光と共に「ただの小麦粉」へと【分解】してみせた、あの色のない瞳を持つ少年。
 四大派閥の令嬢たち全員が「魔力ゼロの無能」と見下し、ゴミ捨て場へ追放したはずの、最弱の伯爵。
「嘘よ……嘘よ嘘よ嘘よっ!!」
 セレスティアは両耳を塞ぎ、子供のように首を横に振った。
 泥まみれの布切れと、宝石のような純白の結晶。
 最も穢(けが)れた最底辺のゴミ捨て場から、東の王の味覚を破壊するほどの『究極の純白』が産み落とされたという、論理が完全に崩壊した現実(バグ)。
「……ローゼンベルク伯爵家の当主、アーク・フォン・ローゼンベルク」
 密偵の口から、ついにその『名前』が確定事項として告げられた。
「彼らです。あの死の領地からやってきた者たちが、我々の市場の首を……物理的に絞め上げているのです」
 マホガニーの机の前で、東の公爵令嬢の完璧な論理(ロジック)が、完全にへし折られた。
 彼女の喉の奥から、絶望とも、恐怖ともつかない、ひしゃげた悲鳴が漏れ出そうとしていた。
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