領民の幸福度がガチャポイント!? 借金まみれの辺境を立て直す【領地ガチャ】が最強すぎた!内政でUR「温泉郷」と「聖獣」を引き当てて…

namisan

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第4話:「父の遺産」とほのぼの内政

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「……アルト・フォン・クライナー男爵。いえ、アルト様、と呼ばせていただきますわ」
執務室の机の上には、借金のカタになるはずだった『シルヴァーリフの苗』と『白き土の地図』が鎮座している。
ミミル・グランデは、氷の仮面を完全に溶かし、一流の商人の顔で俺に契約書を差し出していた。
「借金は『凍結』。返済は、これらの事業が軌道に乗ってからで結構。その代わり、これらの独占販売権は、わたくしの商会が頂きます。よろしいですわね?」
「……ああ、それで構わない」
俺がサインすると、ミミルは満足げに微笑んだ。
「契約成立ですわ。さて、アルト様」
彼女は立ち上がり、テキパキと指示を出し始めた。
「ロイドとやら。護衛の者たちを館の中へ。この執務室は、わたくしが事業の拠点として接収します。この『隠し金庫』ごと、厳重に警備させますので」
「は、はあ」
「それから、傭兵の半分は北の丘陵へ。あの『白き土』の鉱床を、部外者が立ち入れないよう封鎖しなさい」
「ミミル様!」
護衛の傭兵たちが、慌てて館の中へなだれ込んでくる。
彼らの態度は、さっきまでの「借金取りの威圧」から、「投資資産の保全(警備)」へと完全に切り替わっていた。
広場に残された領民たちは、館に吸い込まれていく傭兵たちを見て、再び不安そうな顔をしている。
「アルト様……あの、商会様は……」
ジャガイモ爺さんが、おそるおそる尋ねてきた。
俺は、彼らの前に立ち、宣言した。
「皆、安心してくれ。グランデ商会は、差し押さえを撤回した。それどころか、俺たちの領地の『スポンサー』になってくれるそうだ」
「す、スポンサー?」
「ああ。父が遺してくれた『お宝(薬草と粘土)』を、ミミル様が買い上げてくれることになった。俺たちは、借金取りに怯える必要はなくなったんだ」
「「「おおおおお!!」」」
領民たちから、この日一番の歓声が上がった。
絶望の底から救い出された安堵が、広場全体に満ちていく。
ピロン。
脳内で、心地よい音が響いた。
『領民の不安が解消されました』
『領主への信頼度が最大になりました』
『現在の幸福度:1550 / 1000』
(※ 第3話クライマックスの1250ポイントから、さらに+300ポイント)
「よし」
俺は小さくガッツポーズを取った。
Rガチャが1回引ける。
だが、ミミルがすぐそばにいる。実行は後だ。
「アルト様」
館から出てきたミミルが、俺を手招きした。
「ほのぼのしている場合ではございませんわ。早速、事業計画を立てます。まずは『シルヴァーリフ』の栽培。あれはデリケートな植物です。最適な土壌と管理が必要に……」
「待った」
俺は、ミミルの言葉を遮った。
「その前に、やることがある」
「……まだ何か『お宝』が?」
ミミルの目が、ギラリと光る。
「いや、違う。家の修繕だ」
「は?」
ミミルは、心底理解できないという顔をした。
「家の修繕? 優先順位が違いますわ。まずは利益を生む薬草と粘土を」
「順番が違うのは、あんたのほうだ」
俺は、修繕作業が止まったままの、ボロボロの家々を指さした。
「領民たちの『住』が安定しなければ、良い仕事はできない。それに……」
俺は、ミミルにだけ聞こえる声で言った。
「彼らの『幸福度』が上がらなければ、次の『父の遺産』も、見つからないかもしれない」
「……!」
ミミルは息をのんだ。
彼女には、俺のガチャの理屈はわからない。
だが、俺が『領民の信頼』をトリガーにして、あの『隠し金庫(とんでもない遺産)』を発見した、という結果だけは知っている。
彼女からすれば、俺のその行動原理(領民の幸福度を上げる)は、オカルトか、あるいは何か、とんでもない幸運を引き寄せるための「儀式(ルーティン)」のように見えているはずだ。
「……アルト様。あなたのその『理論』は、商人(わたくし)の理解を超えていますわ」
ミミルは、こめかみを押さえながら言った。
「ですが……その『儀式』の結果が、あのシルヴァーリフだというのなら、わたくしは口を挟むまい。好きになさい。ただし」
彼女は、傭兵の一人を指差した。
「わたくしの護衛も、労働力として使います。遊ばせておく余裕はありませんので」
「ああ、助かる」
こうして、俺たちの「ほのぼの内政」は、グランデ商会という強力な(そして口うるさい)スポンサーの監視のもと、再開された。
ミミルは、最初は「非効率的だ」と文句を言いながら見ていたが、領民たちが生き生きと家を直し、そのたびに俺に笑顔で報告に来る(そして幸福度が微増する)様子を見て、何かを計算するように顎に手を当てていた。
「アルト様、こっちの屋根、釘が足りません!」
「おう、今持って……」
俺は立ち止まった。
第2話で当てた『N:修理用の釘セット(大)』は、すでに使い果たしていた。
「……まずいな」
「どうしました?」
「いや……釘が切れた」
「だから言わないことではありませんわ。資材の計算もせずに」
ミミルがため息をつく。
「ロイド。すぐにグランデ商会の馬車を王都に戻し、釘を積めるだけ……」
「その必要はない」
俺はミミルを制した。
「父も、家の修繕が必要になることを見越していたようだ」
「……なんですって?」
俺は、ミミルとロイドを連れ、館の裏手にある、崩れかけた古い「倉庫」へと向かった。
ここは、水路作業の時にロイドが「ガラクタしかない」と言っていた場所だ。
「アルト様、ここには本当に何も……」
「いや、あったはずだ」
俺は、倉庫の奥、埃まみれの棚の裏側を指差した。
「父の古い日記に、この棚の裏に『備品』を隠していると書いてあった」
「日記!?」
ミミルが食いつく。
俺は(心の声で)Nガチャを2回(幸福度1550 - 200 = 1350)実行し、アイテムを「設定」した。
『N:修理用の釘セット(特大)×1箱』
『N:木製の丈夫なフェンス × 10枚』
俺とロイド、そしてミミルが連れてきた傭兵が棚を動かす。
そこには、言った通り、埃をかぶった木箱が二つ、ひっそりと置かれていた。
「「おお……!」」
ロイドと領民たちが声を上げる。
一つは、釘がぎっしり詰まった箱。
もう一つは、頑丈そうな木製のフェンス(柵)の束だった。
「これで、家の修繕も、動物除けの柵も作れる!」
領民たちが歓喜する。
「……アルト様。その『日記』とやらは、どこに?」
ミミルが、値踏みするような目で俺を見る。
「燃やした。父の恥部も書かれていたからな」
「……そうですか」
ミミルは、それ以上追及しなかった。
彼女は、俺が「隠し資産を小出しにしている」と確信したようだった。
釘とフェンスの「発見」で、家の修繕は一気に進んだ。
領民たちの幸福度も、再び1500近くまで回復した。
「さて、ミミル」
家の修繕が一段落した夜、俺は執務室でミミルと二人、向き合っていた。
「いよいよ、あんたの出番だ。『シルヴァーリフ』と『白き土』、どうする?」
ミミルの目が、商人の輝きを取り戻した。
「ええ。まず薬草ですが……これは栽培のプロが必要です。あのジャガイモ爺さんだけでは荷が重い。わたくしの商会から、専門の庭師を呼び寄せます。それまでは、厳重に管理するのみ。先ほど『発見』されたフェンスで、館の裏庭を完璧に囲い込みます」
「それがいいだろうな」
「問題は、土ですわ」
ミミルは、Rガチャで当てた『良質な粘土層の地図』を広げた。
「この『白き土』。これをただの粘土として王都に運んでも、運搬費で赤字です。これを『白磁器』という完成品にしてこそ、莫大な利益が生まれる」
「だが、窯も職人もいない。さっき、俺も言ったはずだ」
「ええ。ですから、アルト様」
ミミルは、机に乗り出すようにして、俺の目を覗き込んできた。
「……あなたの『日記』には、他に何か書いてありませんでしたの? 例えば、そう……『窯の作り方』とか、『焼き物の作り方』とか」
「……」
この女、俺のガチャ(幸運)を完全に当てにし始めている。
だが、好都合だ。
俺は、幸福度が1350ポイント残っているのを確認した。
「……心当たりがある」
俺は立ち上がり、執務室の本棚に向かった。
ミミルがゴクリと息をのむ。
俺は、あの『隠し金庫』があった本棚ではなく、部屋の隅にある、もう一つの小さな書見台に向かった。
「父は、事業に失敗する前……先々代の功績を調べていた時期があった」
俺は、書見台の上に無造作に置かれていた『クライナー家年代記』という分厚い本を手に取った。
もちろん、これはただのダミーだ。
俺は、この本を開きながら(心の声で)Rガチャを実行した。
幸福度 1350 - 1000 = 残り 350。
『R(レア):登り窯の設計図(簡易版)』
『R(レア):陶工の技術書(基礎)』
「……あったぞ、ミミル」
俺は、年代記の分厚いページ(の間に挟まっていたかのように演出した)羊皮紙の束を抜き出した。
ミミルが、獲物に飛びつくようにして、その羊皮紙をひったくる。
「こ、これは……『登り窯』!?」
「それに、こっちは……『陶工技術』の基礎!?」
彼女は、設計図と技術書を交互に見比べ、わなわなと震え始めた。
「……アルト様。あなたという人は……」
「先々代が、ここで白磁器を作っていたのは、本当だったんだな」
俺は、しらじらしく言った。
ロイドが、涙ぐみながら「おお……クライナー家の栄光が……」と呟いている。
ミミルは、設計図を抱きしめたまま、俺に鋭い視線を向けた。
「……わかりましたわ。この『遺産』、わたくしが『事業』にしてみせます」
彼女は、即座に傭兵の隊長を呼んだ。
「計画変更! 家の修繕は一時中断! 全員、この設計図通りに『窯』を作るわよ!」
「ジャガイモ」「家の修繕」に続き、俺たちの「ほのぼの内政」は、第三のプロジェクト「窯(かま)作り」へと移行した。
それは、この領地が「ただの辺境」から「金のなる木」へと変貌する、大きな一歩だった。
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