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第一章

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  そんなある日の夜、勇者様の部屋で荷物の整理をしていると、

「ガキはあっち行ってろ」

 と、聖女様の腰を抱きながら戻ってきた勇者様に部屋を追い出された。
 勇者様はついに女性陣とそういう関係を築き始めたらしい。野宿の時は流石になかったけれど、町の宿に泊まれるときは女性陣が交替で勇者様と一夜を過ごしていた。
 勇者様と一晩を共にするたびに、女性陣は勇者様に骨抜きにされていく。まさか、あそこの大きさもテクニックも『ちーと』か!? 『ちーと』なのか!?
 もちろん僕が夜呼ばれることはない。なんとも思わない。うん何とも思わない。大丈夫。
 ただ、勇者様のイケメンな寝顔が見れなくなったのが悲しいだけ。最近勇者様の顔が好きだって、自分で気付いたところ。


 旅にも慣れ、それにつれ敵を倒すことにも躊躇がなくなってきた勇者様。そうなってくると、とんでもなく強くて、魔物には敵なしといった感じだった。さすがに魔王の直属のしもべである魔族には苦戦することもあるけれど。

 魔王領地に近づくにつれ、敵の強さがインフレするのに、こっちのレベルは上がりにくくなっている。とはいっても勇者様御一行は皆レベル500の大台に乗ろうとしている。大台って言うけど、上限がどこかもわからないから大台といえるのかは不明。こんなにレベル上がるとも思ってなかった…。
 現在の状況は勇者様ご一行にはそんなに苦しくないかもしれないけれど、薬草採取依頼でちまちま経験値を貰うことを覚えて、やっとレベル80になったばかりの僕には死活問題。
 敵の攻撃が一回でも当たれば、即死だと思う。なにこのクソゲー。

 まあ、そんなことにはならないように、攻撃を一回だけ無効化してくれる結界石を大人買いして常備してるし、勇者様がタイミングよく僕にぶつかってきたり、蹴飛ばしてきたり、魔法で吹き飛ばしてきたりするから、何とか当たらずには済んでる。女性陣から舌打ちが聞こえてくるけど。
 勇者様の攻撃は手加減されてるのか、敵の攻撃よりかはマシとは言え、瀕死状態にはなる。だから僕の標準装備は、右手に結界石、左手にエクスポーションである。扱いの酷さは相変わらずだ。
 もしかして、勇者様が助けてくれてるのかと思って一度、ありがとうございます、ってお礼したら、『マゾかよ? きめぇ』って言われた。意味は分からなかったけど、軽く傷ついたから、もうお礼はそれっきりだ。
 助けてるわけじゃなく、ちょうどそこに僕がいるだけらしい。自意識過剰だった自分が恥ずかしい。それでも生き永らえてるのは勇者様のお蔭だから、勇者様の事を憎めない。僕は少しのお礼を込めて、助けてもらった翌日の朝食は勇者様の大好物で埋め尽くしている。
 
 けれど、最近あまり嬉しくないことに気付かされた。どうやら僕は心臓に病を患ってしまっているようなのだ。
 旅に出てからちょこちょこと症状が出ていたけれど、今はほぼ毎日胸を締め付けられるような感覚とか、動悸がする。

 朝起こした時の寝ぼけた勇者様を見ると動悸が激しくなって呼吸が苦しくなるし、勇者様が井戸で顔を洗った後、僕に手を差し出してタオルを求めてきた時は、締め付けられる痛みに胸を押えた。極めつけは、夜部屋を追い出された後、自分の部屋で一人でいるとき、あまりの胸の苦しさに泣いてしまった。
 魔王討伐まではもってほしい。僕の心臓。
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