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かなりの騒動になるからと神殿内にある客室にそのまま泊まることになり、エリオと部屋でゆっくりと寛いでいた。随分と奥まったところにあるらしく、騒ぎの声はここまで届いてはこなかった。
これも司祭様の気遣い。ユノスは愛されてたんだなって思う。あいつ以外に愛情を向けられた記憶がない僕とは違う。
「それにしても驚いたな。探してた奴らが天罰を受けてた、なんて」
「うん……でも結局僕の証言しかないから、ランベルトが否定すればうやむやになりそう……」
「そこまで馬鹿じゃないだろ、殿下も。万が一そんなことになったら、『神様』が許さないんじゃないか?」
「……それ、思うんだけど、天罰なんて下せるならもっと早くどうにかしてくれたらよかったのになって……。そしたら僕は……」
ユノスが神子じゃなくなったことで何かスイッチが切り替わったのか、それともニールが満足して術のようなものを解いたのか。
よくわからないけれど、ユノスの感じていた困難を欠片も感じなかった。僕が思う通りに物事が進むから楽には違いないのに、表現できない気持ち悪さがあった。
「神様にも神様の事情があるかもだろ。もしかしたら、神子にならなくてよかったって思うことも将来でてくるかもしれない。きっとうまくいくように考えてくれてるって」
「エリオって意外に敬虔なんだ……」
「……敬虔、ってわけじゃないんだけどな。ニールはともかく、王子とあの護衛は自分の罪を知るわけだし、復讐は法がしてくれる。だから、考えるならこれからのことの方がいいかなってさ」
「これからのこと……」
僕は神子になるってことがそれほど魅力的だとは思わなかったけど、ユノスはそれだけしかないって思い込んでいた。自分の人生と引き換えに好きな人の国を守れたらそれでいいって。本当に健気でバカで……。
そんなユノスのことだから、この件が片付けば中身が入れ替わったなんて知らずに、エリオみたいに助けてくれる人がたくさん出てくるはず。だからこそ自分がここにいる意味がわからない。残るべきはユノスだったのに、僕はこの世界で何を見せられるんだろう。
僕はユノスの代わり?
あの時、丁度いい僕の魂があって、ユノスが可哀想だから代わりに僕を突っ込んだの? 落ち着いたら、ユノスが戻ってきたりして……。
でも、ユノスに片想い中のエリオのことを思えば、元に戻った方がいいのかも。
「……少し疲れたか?」
エリオはソファーに座る僕の横に腰を下ろすと、覗くように目を見つめてくる。それから手を握って来たかと思えば、そのまま手の甲にくちづけを落とした。この動きの流れさえあいつに似ていて、胸の辺りがかっと熱くなる。
寂しい、寂しい。会いたい。
一度思い出してしまえば、焦がれて仕方ない。ただ唯一、心から『周』が恋した人。
エリオはあいつじゃない。それなのに、エリオが好きなのはユノスで僕じゃない、……なんてバカみたいな感情が湧き出てしまう。無性に虚しさが溢れてきて、そっとエリオの手を剥がして俯いた。
するとエリオが短く息を吐いた。その意味を読み取れなかったけど、今エリオの顔を見れば泣いてしまいそうで顔を上げられなかった。
「……解決に向けて動いてくれてるみたいだし、ゆっくり休もう。色々ありすぎたもんな」
護衛を務めていた男に剣を向けられ、自分を襲った男たちは死んだ。出来事としてはこれだけ。でも、突然この世界に引き寄せられて、わずかな間に経験したことにしては少し過激だったかもしれない。
エリオに促されるままベッドに横になり、目を閉じる。頭を撫でる大きな手。そのあたたかさにまた涙がこぼれた。
僕が告発してから、一気にことが動いた。
神殿は即座に国王に事実確認を命じ、学園にも調査が入った。ユノスが純潔だったという事実を知ったランベルトはその場で罪を認めて投獄され、反逆罪で死刑か終身刑が下されるはずだと報告があった。
そしてアーロンはというと、事件から夢遊病者のように神殿内を彷徨い歩く姿が目撃され、その数日後遺体で見つかった。自室にあった遺書には、とんでもないことをしたと自責の念が綴られていたらしい。彼なりの正義を貫こうとした結果起こってしまったことであり、そう考えると後味の悪さが残った。
やっぱり何かの術が解けたんだ。それがはっきりわかると同時にヒヤリとしたものが背中を這いあがってくる。洗脳されていたからといって、この世界に情状酌量なんてものはない。洗脳されている間の記憶もしっかり残っていたというのだから、瞼を伏せるしかなかった。
「そこまでしてニールは神子になりたかったのかな……」
「どうなんだろうな。金が欲しかったとか、成り上がりたかったとか」
「……そうなのかな……」
「どうした? 首謀者のニールだけが平然と神子になることに対して、すっきりできてないのか?」
確かにそこは全然すっきりできてない。ランベルトが一言でもニールの名前を出せば、何かしらのお咎めはあったかもしれないけど、流石に残り一人になってしまった神子を道連れにはできなかったんだ。
「ニールが神子になったら、神殿に管理されて生きていくんだし、瘴気の残る危険な地域にも行くことになる。牢獄にいるのも一緒だろ」
「うん……」
「もう、復讐も終わりでいいんじゃないか」
「エリオ……」
ユノスは満足してる?
僕がこの体に乗り移った時に感じたあの激情が沸き上がってくることはない。もう憎しみは昇華されたの? そろそろユノスと交代の時期が来てる?
「なら最後に神子任命式には行きたいな。ニールがどんな顔をして神子になるのか、少し見てみたいから」
「……そうだな。それでユノスの気が済むなら」
これも司祭様の気遣い。ユノスは愛されてたんだなって思う。あいつ以外に愛情を向けられた記憶がない僕とは違う。
「それにしても驚いたな。探してた奴らが天罰を受けてた、なんて」
「うん……でも結局僕の証言しかないから、ランベルトが否定すればうやむやになりそう……」
「そこまで馬鹿じゃないだろ、殿下も。万が一そんなことになったら、『神様』が許さないんじゃないか?」
「……それ、思うんだけど、天罰なんて下せるならもっと早くどうにかしてくれたらよかったのになって……。そしたら僕は……」
ユノスが神子じゃなくなったことで何かスイッチが切り替わったのか、それともニールが満足して術のようなものを解いたのか。
よくわからないけれど、ユノスの感じていた困難を欠片も感じなかった。僕が思う通りに物事が進むから楽には違いないのに、表現できない気持ち悪さがあった。
「神様にも神様の事情があるかもだろ。もしかしたら、神子にならなくてよかったって思うことも将来でてくるかもしれない。きっとうまくいくように考えてくれてるって」
「エリオって意外に敬虔なんだ……」
「……敬虔、ってわけじゃないんだけどな。ニールはともかく、王子とあの護衛は自分の罪を知るわけだし、復讐は法がしてくれる。だから、考えるならこれからのことの方がいいかなってさ」
「これからのこと……」
僕は神子になるってことがそれほど魅力的だとは思わなかったけど、ユノスはそれだけしかないって思い込んでいた。自分の人生と引き換えに好きな人の国を守れたらそれでいいって。本当に健気でバカで……。
そんなユノスのことだから、この件が片付けば中身が入れ替わったなんて知らずに、エリオみたいに助けてくれる人がたくさん出てくるはず。だからこそ自分がここにいる意味がわからない。残るべきはユノスだったのに、僕はこの世界で何を見せられるんだろう。
僕はユノスの代わり?
あの時、丁度いい僕の魂があって、ユノスが可哀想だから代わりに僕を突っ込んだの? 落ち着いたら、ユノスが戻ってきたりして……。
でも、ユノスに片想い中のエリオのことを思えば、元に戻った方がいいのかも。
「……少し疲れたか?」
エリオはソファーに座る僕の横に腰を下ろすと、覗くように目を見つめてくる。それから手を握って来たかと思えば、そのまま手の甲にくちづけを落とした。この動きの流れさえあいつに似ていて、胸の辺りがかっと熱くなる。
寂しい、寂しい。会いたい。
一度思い出してしまえば、焦がれて仕方ない。ただ唯一、心から『周』が恋した人。
エリオはあいつじゃない。それなのに、エリオが好きなのはユノスで僕じゃない、……なんてバカみたいな感情が湧き出てしまう。無性に虚しさが溢れてきて、そっとエリオの手を剥がして俯いた。
するとエリオが短く息を吐いた。その意味を読み取れなかったけど、今エリオの顔を見れば泣いてしまいそうで顔を上げられなかった。
「……解決に向けて動いてくれてるみたいだし、ゆっくり休もう。色々ありすぎたもんな」
護衛を務めていた男に剣を向けられ、自分を襲った男たちは死んだ。出来事としてはこれだけ。でも、突然この世界に引き寄せられて、わずかな間に経験したことにしては少し過激だったかもしれない。
エリオに促されるままベッドに横になり、目を閉じる。頭を撫でる大きな手。そのあたたかさにまた涙がこぼれた。
僕が告発してから、一気にことが動いた。
神殿は即座に国王に事実確認を命じ、学園にも調査が入った。ユノスが純潔だったという事実を知ったランベルトはその場で罪を認めて投獄され、反逆罪で死刑か終身刑が下されるはずだと報告があった。
そしてアーロンはというと、事件から夢遊病者のように神殿内を彷徨い歩く姿が目撃され、その数日後遺体で見つかった。自室にあった遺書には、とんでもないことをしたと自責の念が綴られていたらしい。彼なりの正義を貫こうとした結果起こってしまったことであり、そう考えると後味の悪さが残った。
やっぱり何かの術が解けたんだ。それがはっきりわかると同時にヒヤリとしたものが背中を這いあがってくる。洗脳されていたからといって、この世界に情状酌量なんてものはない。洗脳されている間の記憶もしっかり残っていたというのだから、瞼を伏せるしかなかった。
「そこまでしてニールは神子になりたかったのかな……」
「どうなんだろうな。金が欲しかったとか、成り上がりたかったとか」
「……そうなのかな……」
「どうした? 首謀者のニールだけが平然と神子になることに対して、すっきりできてないのか?」
確かにそこは全然すっきりできてない。ランベルトが一言でもニールの名前を出せば、何かしらのお咎めはあったかもしれないけど、流石に残り一人になってしまった神子を道連れにはできなかったんだ。
「ニールが神子になったら、神殿に管理されて生きていくんだし、瘴気の残る危険な地域にも行くことになる。牢獄にいるのも一緒だろ」
「うん……」
「もう、復讐も終わりでいいんじゃないか」
「エリオ……」
ユノスは満足してる?
僕がこの体に乗り移った時に感じたあの激情が沸き上がってくることはない。もう憎しみは昇華されたの? そろそろユノスと交代の時期が来てる?
「なら最後に神子任命式には行きたいな。ニールがどんな顔をして神子になるのか、少し見てみたいから」
「……そうだな。それでユノスの気が済むなら」
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