僕って一途だから

珈琲きの子

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本編

ろく

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「へ…、な、なんでこっち来るの?」

予想外の事が起きたらしく、ヒノちゃんがちょっと焦ってた。
気にしない気にしない。うまー。

「ちょ、ちょっとアズ…?」
「ん? なに…ひゃっ!」

グラタンに落としてた視線を上げた瞬間、僕は飛び上がった。多分五ミリぐらい。
だって両側から、王子と俺様が顔覗き込んでるんだもん…。

「アズちゃん。今日はグラタン? ふーふーしようか?」
「いや、俺が食べさせてやるからな、梓」

手の中にあるスプーンを甘い笑顔浮かべつつ奪いとる俺様。右に座るリュージ様に先手を取られた万里王子が、グラタン皿を木の敷物ごと持ち上げて、息を吹きかけようとする。
ちょいまち!

「…だめっ」
「「なんで?」」

なんかハモった。
びっくり顔で僕の事見る二人。ちょっとかわいい。

「えっとぉ、僕熱いの好きだし、あーんしてもらうのは好きな人に、って決めてるんだもん」
「好きな人? 俺の事じゃないのか?」
「朝会ったばっかりだし、何とも…」

あ、ガックリなった。だから恋人とか無理って言ったのに。
結構打たれ弱い俺様リュージ様。

「じゃあ僕は?」
「パフェ奢ってくれるいい人、かな?」
「じゃあ、今度またパフェ一緒に食べようね」
「う――」

いかんいかん。パフェ=制裁。思いっきり「うん」って言いかけた。誘導に引っかかるとこだった。万里王子は上手だ。

「ちょっと、二人とも。なんなんですか、その万里以上にチャラチャラしたのは」

向こうの方からインテリ副会長が眉をつり上げながら声をかけてきて、僕を睨みつけた。とんだ巻き添えだよ。僕なんにも悪くないし―。
ちらっとヒノちゃん見たら、また俯いて「ぐふふ」て言ってた。何かにまたツボったらしい。援護ナシってことね。

「そうだよ! そんな誰とでも寝るようなチャラい奴の近くにいたら、龍治君も万里君も穢れるよ!」

え、なにこの人。平凡だと思ってたカツラ君が、ナゼカ、僕に食って掛かって来た。
誰とでも寝るとか、ありえないし。なに、この人、ホント。
ここは逃げた方が良い気がする。でも、なんか聞いたことある声なんだけどな…。

「唯人ゆいとの言う通りです。そんなのを相手にしていたら、家名に傷をつけてしまいますよ」

ゆ、ゆいと…? それって…。
そのカツラ君を凝視していたら、カツラにうまく隠しきれていなかった金色の遊び毛がちらりと見えた。

ヤバ…。

僕がこんな捻くれた性格になった原因の人物――いとこの唯人に違いない。黒カツラ被って黒カラコンまで着けてるけど、多分中身は金髪碧眼。
昔から外見天使だったこいつが泣けば、全部僕の所為にされてきたから、近寄りたくない。留学してるって聞いて、ここ数年ホッとしてたのに!

「ね、それって僕に対する当て付け? 確実に僕の方がアズちゃんより経験人数多いよ?」

万里王子? ちょっと怒ってる…?
ニッコリ細くなってる目が笑ってない。冷たい作り笑いコワイ…。

「そうじゃないよ! 万里君は誰とでもするって聞いて、そんな行為して欲しくないと思って…。だからそんなチャラい奴に関わって欲しくないんだよ」
「……今、初めて会ったよね? 僕の何を知ってるの? それに、君に名前で呼んでいいなんて、許可してないよ?」
「俺もだな。それにな、こんな人の目が集中してる場所で、人を貶めるような発言をする人間こそどうかと思うけどな」

口端を持ち上げたリュージ様、ホント惚れ…――てないよー。あっぶなぁ。
初対面でアズサ呼びされたことには、目を瞑っとくよ。リュージ様。
この二人、外見だけの下半身バカかと思ってたけど、中身もカッコよすぎ。

「そんな…酷い」

眼鏡の奥の目に涙を溜める唯人。
インテリ副会長はその唯人を庇うように、もう一度僕を睨んでから、唯人を連れて食堂を去っていった。

「アズちゃん、ごめんね。あの子のさ、こっちを見る目が気持ち悪くて、アズちゃんところに癒されに来たんだけど、巻き込んじゃったね…」

うん。このイケメンコンビが来たらどうやっても目立つもんねー。
なんで僕なんかに構うのか知らないけど、この人たちのこと結構好きだから、なんか拒否できないんだよね。

「別にヘーキだよぉ。万里王子もリュージ様もいてくれたし」
「そうか? 少しは惚れたか?」
「もー、諦めないねー、リュージ様。好きな人いるって言ってるでしょ?」
「心は移り変わるものだろ。…それにしても、あいつ、梓の事を目の敵にしてたな」
「気のせいだってー。二人に構ってもらえなくて拗ねたんでしょ」
「……ならいいけどねぇ」

う、なんか二人とも疑ってるなー。勘のいいお二人ですこと。
でも、あいつには関わりたくないし、大事にしたくないから言わないけどねー。

「えっと、アズちゃんの友達も騒がせちゃってごめんね」
「またな」

二人は、途中から蚊帳の外にいたワンコと美麗な双子を引き連れて戻って行った。

では、僕も早々に立ち去りまーす。
ぐふぐふ言ってるヒノちゃんの腕を掴んで、僕も食堂から退散した。



  ◇ ◇ ◇



「アズ、どういう事!? なんであのお二方と仲良くなってるの!?」
「うーん、まぁ、話せば長くなるから、説明はナシね」
「……まぁ、色んな意味で美味しすぎるけどさ。制裁されるんじゃないかって、ちょっと心配…」

ああ、それね、すでにされたみたーい。
机の中、からっぽっぽい。すっごい地味な制裁だねー、ホント。トイレとかに詰まってたら嫌だなぁ。せめて潔く燃やしておいて欲しい。
二人に言ったらチクったみたいでイヤだし、どうするかなぁ。

こんな時に大和先輩に相談できたらいいんだけど、誰かに頼るのってすごい苦手なんだよね…。それも唯人の所為なんだけどさ。
唯人に虐められてるって相談に乗ってもらってた従兄が唯人に靡いて、反対に責められた時から他人に弱みを見せれなくなっちゃって。両親にも、唯人は可愛いのにうちの子は、ってずっと言われてきたからさ。はぁ、嫌なこと思い出しちゃった。あいつが来るとか聞いてないし…。
そんなこともあって、自信が全然ない。外見変えて演技してる今がすっごい楽なんだよね。

「ね、ヒノちゃん。放課後パフェ食べいこっか」
「どうしたの、急に」
「食べなきゃやってられないのー」
「うん。付き合うよ。色々あったの、僕があそこに連れて行った所為だから」
「えー、ヒノちゃんはなーんも悪くないって。気にしない気にしない」

ちょっと肩を落とすヒノちゃんには満面の笑みで対応。
宗ちゃんもこれでコロッといってくれるからねー。

「…アズ。やっぱりかわいいよぉ!」
「むはっ」

ヒノちゃんがタックル&ハグしてきた。僕よりちっちゃいのに結構力強い。なにこの敗北感…。
でも、なんだかまた一人友達ができたような気がした。
ちょっと嬉しい。
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