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第一部 第三章
この世界に来た意味
しおりを挟む俺は国民として正式に登録され、アルと俺との結婚が公表された。式も半月後に挙げられることになり、アルの屋敷にはひっきりなしに人が訪れるようになった。
屋敷では婚前のちょっとしたお披露目のパーティーが行われ、アルの友人たちを紹介された。仲のいい人達だけをひっそりと招待したものらしい。十名ほどと小規模なパーティで俺は安堵した。
その中には細工師の店主のヴァリスさんとルーファさんがいて、あの時の事をひたすら謝られた。
一時的に信用を失う形になってしまったお店も二人で切り盛りして何とか持ち返しているようだ。あの事件はアルのお父さんが後ろで糸を引いていたらしくて、アルの方が頭を下げていた。
「もうこんなことにはさせないから」
「頼もしいね、アルベルト。ま、盗られたお金はアルの御父上が保証して下さったから、後はまた地道に頑張るだけだよ」
「俺たちも信用しきっていたのが良くなかったんだろう。当分は二人でやっていくさ」
「店番を手伝いに行こうか?」
「それはありがたい、といいたいところだけど、恐れ多すぎるよ。アルベルトは自分を過小評価しすぎ」
「なんと言おうが、もうただの一国民なことには変わりないんだけどな」
俺は首を傾げた。でもその時に抱いた疑問はすぐに解ける。
なぜ一国民の結婚式をそんなに大々的に公にするのか、ずっと不思議だった。アルもアルのお父さんもそれが当たり前のように言っていたため、こちらの世界の常識なんだな、と勝手に思っていた。
けれど、それはやはり違ったのだ。
「え…? お父さんが国王?」
「そうなんだ。ティーロを驚かせたくなくて言わなかったんだけど、最終的には知られてしまうことだからね」
「お、俺が会ったのが…王様、だったっていうこと?」
「うん」
「そ…そっか…」
アルのお父さんは確かに厳格な雰囲気を背負っていたこともあって、そう言われてしまえば納得という感じだった。流石に若いから重厚さはないけれど、アルも品があって華があって王族なのも頷ける。
「それから俺は七番目の王子だけど、もう王位継承権を放棄してるから、身軽な立場なんだ。そこは気にしなくていいから安心して」
継承権の放棄が安心材料なのかは俺にはさっぱり分からない。俺は嬉しそうにするアルとは反対に泣きそうだった。
継承権を放棄しようがアルは王子なのだ。知らなかったとはいえ、王子と言う立場の人に世話をさせていた俺を煙たがる人間がいたのも頷ける。
異世界人じゃなかったら、と考えているとアルが俺の頭にポンポンと手を置いた。
「ティーロ、もう何も心配はいらない。もう怖がる必要なんてない。後ろ盾ができたから、これからゆっくりとこの世界に慣れてくれたらいいんだ」
王子だとしても、アルはいつも俺に優しい笑みを見せてくれる。だから、アルはアルに違いないのだ。
それに今更アルと離れろと言われても、もうできない。
「…うん、ありがとう、アル」
俺は勇気を出して、アルに手を延ばしてみた。アルを抱きしめるために。
こんなこと今までならできなかった。自分が拒否されることが怖くて、自分から行動を起こすことが恐ろしかった。
でもアルは俺を真っ直ぐに受け止めてくれる。満面の笑みで両手を広げて待っていてくれる。
「アル…」
込み上げてくるものがあって、俺はアルの胸に性急に顔を埋めた。
「ティーロ?」
「…何でもない」
「泣いているのに? まだ不安なことがある?」
「違う…。アルが…」
「……俺が…?」
「アルが好きで堪らないんだ。気持ちが溢れてきそうになる」
「…ティーロ…」
回された腕に一層力が入り、俺はアルの胸に埋もれた。俺もそれに合わせてアルを抱きしめ返せば、何度も何度も頭の天辺にキスが降ってくる。
顔を上げれば、顎に指が添えられて、言葉を発する間もなくアルの唇が俺のものに触れた。
ゆっくりと唇を啄まれて、わずかな隙間から舌が入り込んでくる。その熱さが俺の中を伝って体中を融けさせた。
「…ん、……ぅ…ん……は、ぁ…」
「……ティーロ…」
口を離せば、抱きしめなおして何度も俺の髪を撫でるアル。お互いの体はこれ以上なく熱に冒されているというのに、アルは俺を抱きしめるだけだった。
「アル…、俺…」
「大丈夫だよ、ティーロ」
アルはあの時と同じように困ったような表情を浮かべていた。
でも、もう俺は間違えない。アルはずっと俺を想ってくれているから。だから、俺もアルを想えばいい。
「俺…したい…。アルと、したいんだ…」
「ティーロ…」
「アルとなら、怖くないから」
泣きそうな顔をして、ああ、もう…、とアルが呟いた。
目が合えば、どちらともなく唇を合わせて、絡み合って、ベッドになだれ込んだ。キスをしながらお互いの服を脱がせあって、押し倒されればアルの唇が俺の体を這う。じりじりとした快感に満ち、声を抑えるなんてできなかった。
口淫されながら後ろを解されれば、アルが欲しくて泣きじゃくってしまうほどに、どうしようもない熱に浮かされた。
「アル、アル…っ…いれて、欲しいっ…」
「ティーロ、可愛いティーロ…すぐに愛してあげるから」
唇を荒い吐息ごとアルに食まれる。それと同時に押し付けられ、掻き分けるように入ってくる熱の塊。満たされていく喜び。
「…あ、ぁッ…アル…あぁ…あ…」
「ティーロ…」
何度も熱のこもった声で囁かれ、意識が白く塗りつぶされていく。
愛されている。
愛している。
その想いをぶつけ合うように貪り合った。
ずっと穢れた行為だと思っていた。
でも本当は違った。
これは、愛を分かち合う行為だった。
愛し合う喜び。お互いを大切に思う心。それを知ることができたのは、アルと巡り会えたから。
俺に対しひたすらに愛情を向けていてくれた人と一生の伴侶として生きていける。
それがこの世界に来た意味。
あの蝶が俺をこの世界に呼んだ意味を俺はやっと知ることができたのだった。
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