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第二部 第一章
嫉妬と愛情
しおりを挟むユーエンの家はお父さんがほとんど帰らないらしく、ご飯も一人で食べていたのだという。それを聞いてからは、処置が終われば夜は一緒に食卓を囲む、というのが日常になり始めていた。
彼がいつこの街を去ってしまうかわからないし、少しでも思い出になればいいと思ってのこと。
それは自分のわがままな欲求でもあった。
前にいた世界では嫌な思い出ばかりしかなくて、唯一の楽しい思い出といえば、母さんと一緒に行ったファミレスで旗の立ったお子様ランチを食べたというぐらい。
だからこちらに来てアルとの楽しい思い出が増えていくことが嬉しかった。ふとした時、思い出すのは笑い合った時の記憶がいいから。その一つをユーエンとも作りたいと思ったんだ。
「ティはユーエンのこと、すごく気にしてるね」
休日の朝。気持ちのいい晴れの日なのに、ベッドで二人ゴロゴロと戯れながら怠惰に過ごしていると、アルがふとそう言った。
「……やっぱりアルもそう思う?」
「思う」
即座に断言したアルに思わず頬が緩む。すると、アルは俺をコロンと転がして反対を向かせ、背後から抱き寄せた。頭の上に顎を乗せられるような形になり、鼓動と呼吸音がよく聞こえる。
後ろから回された男らしく筋張った腕に指を絡め、アルのぬくもりを感じていると、「ちょっと嫉妬してるかも」とアルがボソリと呟いた。
「え、嫉妬? 考えたこともなかった……。もしかして寂しい思いさせてた?」
「どうだろう……ティが周りに目を向けられるようになってきて、自立を感じるというか。もっと甘えて欲しい? ……やっぱり寂しいのかもしれないな」
「う……ごめん、これからは気をつけるから」
「ううん、いいんだよ。年の近い人がいないから大切に思ってるのもわかってるんだ。この世界に来てから友達を作る暇なんてなかったでしょ? ふふ、ここまで自分が独占欲の強い人間だとは思わなくて少し驚いてる」
俺の態度の所為でアルを不安にさせたのに、心配かけるようなこと言ってごめんね、と反対に謝られてしまった。
自分はずっと嫉妬する側だったから、嫉妬されるなんて思ってもみなかった。
そういえば、こちらに来てからそんな感情を一切持たなかったかもしれない。きっとしなくていいぐらいアルが俺を構ってくれるから。側にいる時も離れてる時もずっと横に立っていてくれているような安心感がある。
「俺、今までこんなに心が満たされたことなかったんだ。元の世界でも母子家庭で、友達なんていなかったし、毎日が辛いことばかりで死のうと思ったこともあった。こっちに来てからだって……」
そこまで言うと、俺を抱きしめるアルの腕に力が入った。
「でも、今はアルがいてくれるから、アルが俺のこと一番に愛してくれるから、俺は優しくなれてる気がする。他人に施したいなんて、今まで思ったこともなかったのに」
「ティーロ……」
俺はゴソゴソと腕の中で動いてアルの方を向き、銀色の髪が絡む首に腕を回してギュッと抱き寄せた。それから耳元で「ありがとう」と感謝の気持ちを囁く。
「俺、アルと同じぐらいの愛情を返せるように大きい人間になるから。少し待たせるかもしれないけど、今も未来もアルだけが俺の光なんだ。それだけはわかっていて欲しい」
目の前にある形のいい唇に口づけを落とす。そっと触れるだけだったけど、俺からすることなんてほとんどないから、とんでもなく恥ずかしくて顔が火照った。
離そうとすれば、追いかけるように啄むようなキスが返ってくる。ルビーのような瞳と目があった瞬間、覆いかぶさられ、ベッドに押さえつけられた。そのまま息も吐かせず、アルの唇が降ってくる。
どこか性急に唇を割って入ってきた舌に粘膜をつつかれ、丹念に舐めあげられる。舌を吸われれば背中に甘い痺れが走り、アルと繋がりたいという欲求が渦巻いた。
「ン、んっ……ぅ、……ん、アル……」
「……は、ぁ……ティーロは俺をどうしたいの?」
「俺、ただ……」
「すごいプロポーズされたみたい。この気持ちどうしたらいい?」
アルの眼差しが熱い。まったくそんなつもりで言ったわけじゃなかったけど、アルが喜んでくれてるならこんな嬉しいことはない。喜ぶを通り越して興奮させてしまったみたいだけど。
何度も首元にキスを落とすアルの頭を抱きしめて、銀色に唇で触れた。
「今日は、のんびりするつもりだったから……その、しよう?」
「……煽ったのはティだからね。とことん付き合ってもらうから」
上目遣いに俺を見たアルの赤い瞳がギラリと光った。
その瞬間、休日の朝はベッドの上で過ごすことが決まったのだった。
再度想いを伝え合ったことでより距離が縮んだ気がする。それは行為に表れ、お互いの体を貪るように求めた。
「あ、ああ、ン、あァ」
アルの体を跨ぐような形で受け入れて、指を絡め合って、奥の感じる場所をひたすら突き上げられて。普段とは違って獰猛な目をしたアルに全てを曝け出すように乱れた。真綿に包まれるような優しいセックスも好きだけど、理性が飛びそうな激しいものも嫌いじゃないと気付かされる。
「んん、ぁっ、アル、あぁっ、きもちいっ」
「はぁ、……っ、ティ、かわいい」
アルが動いているのか、自分がはしたなく腰を跳ねさせているのかもわからないまま、与えられる快感に埋め尽くされる。上り詰めて目の前が真っ白になって、俺はアルの上でのけぞって震えた。
頬に伸びてきたアルの手にキスを促されて、なすがままにアルに体を預ける。荒い息のまま唇を交わせば、ジリジリと沸き立つ焦燥感に突き動かされるように再び求め合った。
夕方ユーエンの家に行くという約束を思い出して、俺が潰れる前に行為を止められたのはひと欠片残っていたアルの理性のおかげだった。
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