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第二部 第二章
竜との交渉
しおりを挟む「感動の再会は堪能できたか?」
どう切り出せばいいのか言葉を探しているとあちらから声をかけてきた。アルが一番地位が高そうだと言った男で、俺を教会のバルコニーまで誘導した人だった。
紺色の髪と鋭い目が彼の冷たさを引き立たせていて、緊張で体が竦む。
「ティーロ、あの人はシュメル。村のナンバーツーで、背けば容赦なく切り捨てる人だって聞くから気を付けて」
アルに後ろめたさを感じていたのか、今まで存在を消していたユーエンが小さな声で俺に教えてくれた。
「うん、ありがとう」
そんなユーエンにアルはちらりと何か言いたげな視線を投げていたけど、俺が竜に顔を向けると同じように向き直って一歩前に踏み出した。
「天使から提案がある。聞く気はあるか?」
「ほう、交渉事とは頭が高いな。混血の分際で天使を番にするとは、よほどの自惚れ屋かただの馬鹿か」
「……それでどうするんだ」
「ふっ、いいだろう。混血と話す気はないが天使がお望みとあらば」
ほら、と促されて横に並んだ。背中を支えるようにアルの温かい手のひらが俺を守ってくれてる。俺は深く息を吸い込んだ。
「まず、ユーエンとウルリヒさんを自由にすること。それが第一条件」
「聞きましょう」
「俺以外にもう一人落ち人がいる。その人はウルリヒさんとの子供を産んでもいいって言ってる」
「御冗談を。この短時間にもう一人の天使とやらと会話する機会があったと?」
「あったよ。もう一人の天使は、ユーエン、だから」
「……馬鹿なことを。何を吹き込まれたか知りませんが、まさか混血を信用しろというのですか」
「ユーエンは俺と同じ世界から来てる。俺が証明するよ」
俺がそう言えば、シュメルの顔から嫌味な笑いがスッと引いた。綺麗な人の真顔は怖いというけど本当にその通りで、冷風でも吹いているみたいに感じた。
「天使が持つ力をおわかりですか? 天使は恵みを与えるもの。しかしその混血が来た後、村に何の変化もなかった。それでも天使だと?」
「それは! それはあなたたちがユーエンを手酷く扱ったからだ。そんな状態で恩恵を受けられるはずないだろ!」
「では、大切に扱えば恵みは与えられると?」
「そう。ユーエンが天使ならウルリヒさんと番になれば全部解決するんだ。竜の純血を守るために俺を攫ってきたなら、ユーエンだって問題ないはず!」
「天使がそこまで言われるのならその言葉を信じましょう。ただし、ユーエンが王の子を産み落とすまでこの村に滞在して頂きます。それが条件です」
「ユーエンとウルリヒさんを自由にするって言う約束は守るってことだよね?」
「ええ。その代わり、混血を村に入れるわけにはいきませんので、その男にはお帰り願いますが」
「……それは……」
アルと離れないと約束したばかりなのに。
ちらりと見上げると、大丈夫、とアルの唇が動いた。
「心配には及ばない。竜の王ウルリヒ殿を我が国にお招きする。天使は貴方方の村で過ごすのは心許ないとおっしゃっている。その気持ちを尊重すべきだろう」
「はっ、いいだろう。我々の目的は純血の存続。それができるのであれば天使に従おう。ただし、ユーエンが天使でなかった場合は国が滅びると思え」
シュメルが横に立つ男にウルリヒさんを連れてくるように指示した時だった。
一体の竜が滑空してきたかと思えば、俺たちの目の前に足で掴んでいたものを放り投げた。落ちてきたそれは地面に叩きつけられ、土埃が巻き上がる。抱き込んでかばってくれたアルの腕の隙間から、何が落ちてきたのかと目を凝らす。そんな俺たちの横を通り過ぎる影があった。
「ウルリヒ!」
悲痛な叫び声と一緒に飛び出したのはユーエンだった。
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