旦那様に浮気をされたので応援してみました

珈琲きの子

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本編

お似合いな二人

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夕食の準備を終えて、テーブルに着くと勇者様がパンを切り分けてくれる。つまみ食いをOKしたから、サラダとパンが減ってることには納得したけど、半分ほど減ってたのにはびっくりした。
神子様の美しさを思い出して、何度も手を止めてしまったせいで、夕食の準備が捗らない捗らない。ツヤツヤのプルプルで眼福すぎたからしかたないけど、お腹を空かせた勇者様を待たせてしまったのは申し訳なかった。

「神子様、元気そうで良かったですね」
「そうだな、変わりなさそうで安心した。大して時間は経っていないが、窮屈だろうとは思っていたから」
「たしかに、あそこにいたら息が詰まりそうな気も……」
「特に神子は外のほうが生き生きしてたからな」

勇者様も神子様も王都にいる時よりも旅に出ているときの方が楽って言ってたもんね。

「神子様は神殿の外に住むことってできるんですか?」
「結婚すれば住める」
「それって……清くないと神殿から追い出されるとか……?」
「それもあるが、神殿が認めた身元引受人が必要なんだ。神子を務めた異世界人が神殿から出た途端に誘拐やらに巻き込まれることもある。そういった事情もあって歴史をさかのぼれば、大抵は王家と繋がっている。神子を預けるには一番安心できるところだろう」
「そうですよね……誘拐……。神子様の美貌を考えると心配は尽きないですね」
「ああ。ただ少し曲者だから、結婚は難しいかもしれない」
「曲者……」
「あいつを受け止められる人間はなかなかいないだろうな。第二王子のマルセル殿下が頻繁に会いに行っているとは聞いているが、ハンネス殿下とは違って少し幼いところがある。合うかどうかといわれると難しいところだ」
「確かに、神子様に口で勝てて且つ甘やかしてくれる人か、完全に尻に敷かれてくれる人じゃないと厳しそうですよね」

会ったのは二回目だけど、ひしひしとそういう雰囲気が伝わってくる。

「ミノルは良く見ているな。そうだな……あいつが収まるところに収まってくれたら安心もできるんだが、なかなかな。舞踏会で相手が見つかるといいが」
「あ……舞踏会って、勇者様も行くんですか?」
「ああ、そのときはミノルと一緒だ。二人で参加して欲しいと招待状が山ほど届いているそうだから」
「ふ、二人……」
「今週末にも早速入っている。数は絞っているが、休み返上になるかもしれない。巻き込む形ですまないな」

困ったように笑う勇者様に、僕はふるふると首を振って返した。

「いえ、大丈夫です。豪華なお料理が食べられる機会ですから! 参加させられたぶん、元は取っていきましょうね!」
「そうだな、そう言って貰えると気が楽になる。一日分の食事をとらせてもらうようにしよう」
「はい!」

ただこのとき、「はい」と返事してしまった自分を恨みたくなるほどの量の舞踏会に出席させられるなんて、僕は知りもしなかった。


  ◇ ◇ ◇


「うぅ、もう食べられない……」

皿に盛った料理を片付けて、僕は口許を押さえた。
宣言通り、元を取るために何度もテーブルと料理が並べられているカウンターを往復して今に至る。ただそれは、ファーストダンスのあとすぐ、勇者様がご夫人やご令嬢に連れていかれてしまってたからだ。ただいま僕は絶賛ボッチというわけだ。勇者様がいたら流石にここまで暴食はしない。(ビュフェ形式だったから調子乗ったのは否めないけど)

ただ、公爵夫人に誘われたら、こちらとしてはどしようもない。勇者様は一応侯爵という立場らしいけど、王家に連なる方々には逆らえないのだ。
アレクシス様は僕の伴侶ではあるけど、この国の勇者様でもあって、僕が独り占めすることは許されない。シオウ様も来ているけど、勇者様と同じくホールの真ん中で皆に囲まれているし……。
アンジェリカ様もお腐会の面々もいないなんて寂しすぎる。

早く終わらないかな、とそんなことばかり考えていると、止んでいた演奏が再開した。
ホールから歓声が上がり、視線を向けると、囃し立てられて引っ付けられた勇者様とシオウ様がダンスを踊り始めた。

もともと習っていたのか、一年に一回とはいえ、王都に帰ってくる度にこうして踊っていたからか、シオウ様はすごく様になっていた。勇者様もいわずもがなうまくて、二人の周辺だけがきらきらと煌めいている。
僕の妄想の中から飛び出してきた映像のようで、その美しさにうっとりとしてしまった。この光景だけでご飯三杯はいける…!

ただ、そんな雅なひと時をぶち壊す存在が現れた。

「ずうずうしいわね」
「まったくだわ、平民を呼ぶなんて、公爵もどうかしておられるわ。あのお二人こそお互いの伴侶にふさわしいのに」
「本当よ。どうしてアレを?」

全く声を潜めようともせず、僕に聞こえるように言ってくるあたり、貴族様怖い。
ただ、そのあとに聞こえてきた内容に、僕は固まるしかなかった。

「元使用人よ。アレクシス様に薬を盛って自分を襲わせたとか。それを盾に結婚を強要したと聞いたわ」
「まぁ…! アレクシス様が見捨てられないことを知って、そんなことを?」

ちょっと待って!?
どういう話!僕が勇者様に薬を盛った!?
ご夫人方の会話は周囲にいる人たち丸聞こえで、僕に向けられる視線が一気に好奇から軽蔑に変わる。

反論なんてノミの心臓を持つ僕にできるわけがない。それに反論なんてして、勇者様に迷惑がかかることはしたくなかった。
助けを求めたら、そんなことしていないと勇者様ならはっきり言ってくれると思う。でも、『勇者様はお優しいから』という言葉で片づけられるのが容易に想像できる。
酷い話だけど、噂なんて立てた者勝ち。それにこの人たちに真偽なんて関係ない。きっと僕を貶められたらいいんだと思う。

折角、勇者様と神子様の微笑ましい姿を見れて嬉しかったのに、どん底まで気持ちは落ちてしまった。
早く勇者様戻ってこないかな。
そんなふうに思いながら視線をホールの中心に戻す。
シャンデリアの下で踊るシオウ様と勇者様の存在が随分と遠くに感じた。


  ◇ ◇ ◇


それからも毎週末舞踏会に出席。時には平日の夜にある晩餐会に出ることもあった。新婚なのに、隣町に行った以来どこにも行けてないし、のんびりすることもできない。
それでも断れない理由を聞いたところ、神子一行が無事に旅ができるように、王家を通じて貴族が金はもちろん食料や人員を投入してくれているからだという。もちろん神子様を支えるのは当然のことなんだけど、出資したら神子様が舞踏会に来てくれる、とその褒美のために行う者も多く、それに助けられているのは事実で、神子様にも平伏しながらお願いしているらしい。
神子信仰を長く継続させるためには必要なことで、もう暫く耐えて欲しいと、クライフ侯爵からもお願いされてしまった。そうなると僕も頷くしかないわけで。
貴族というのはしがらみだらけなんだなと、勇者様が貴族街を避けたい理由も十分に理解した。

「ミノル、すまないが、週明けからハンネス殿下が行う調査に同行することになった。舞踏会に出席できるように四日で帰ってくる予定だ」
「え、四日? 泊まりってことですか?」
「ああ、そうだ」

しょんぼりした気持ちが顔に出てしまっていたのか、眉尻を下げた勇者様が僕の頬を撫でた。

「結婚したばかりだというのに、忙しくしてしまってすまない」
「いえ、いいんです。だって、勇者様はここに帰ってくるんでしょう?」
「ああ、当然だ。何があっても帰ってくる」

両腕で包み込むようにして、胸に迎え入れられる。腕の力がちょっと強いけど、心配の表れだ。その気持ちが伝わってきて、僕は甘えるように勇者様の胸にほおずりした。

「ミノルの手料理が恋しくなるな。帰ってきた翌日は休みがもらえることになっているから、その日はなるべくゆっくりしよう」
「なら、腕によりをかけてご飯作りますね」
「ああ、俺も手伝わせてほしい。できるだけミノルのそばにいたいんだ」
「はい! ばんばん任せますから、覚悟しててくださいね!」
「はは、お手柔らかにお願いする」

僕が鼻息荒く宣言すると、勇者様はなんだかとっても嬉しそうに微笑んだ。

そして、週末の二日は丸々舞踏会でなかったことになり、その翌日の早朝、勇者様は予定どおりに街を出発した。もちろん、その週末も性行為のせの字もないままだった。

「一人なの、久しぶりだ」

平日の昼間はいつも一人なのに、勇者様が帰ってこないと思うだけで、いっそう静かに感じる。
そろそろ同人誌を出さなきゃと机に座ったのはいいものの、全く何も思い浮かばなかった。ただ手だけは動いて、メモ帳の端に勇者様のデフォルメキャラを描いていた。

「勇者様、僕のこと、どう思ってるの……?」

二頭身の勇者様の頬をつんと指でつついてみる。
返事があるわけもなく、ただにっこりと勇者様は微笑んでいた。
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