世界で一番優しいKNEELをあなたに

珈琲きの子

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 第二性ダイナミクス
 人には男女の他に別の性質を持っている者がいて、DomとSub、そして希少なSwitchという三種類の性に分けられる。もちろん第二性を持たないUsual――すなわち一般人もいて、全人口の六割はUsualに占められている。
 その三つの性はそれぞれ特徴的な性質を持っており、DomはSubを支配することを、SubはDomに支配されることを本能的に求めている。Switchは切り替えが可能なダイナミクスのこと指す。

 ダイナミクス判定検査を受けるのは二次性徴が始まってから。基本的に高校入学時に一斉に一次検査が行われる。判定が出なければ、その後一年ごとに定期検査が行われ、十八の誕生日を迎えればその時点でダイナミクスが確定したものとみなされる。

『一人間として健康な心を持ってパートナーとの絆を大切にして欲しい』

 ダイナミクスの判定結果が出た後、学校で行われた簡単な説明会。そこで保健教諭はダイナミクス所有者の僕たちにそう言った。その言葉に安心させられた生徒たちもたくさんいたと思う。

 でも、その一言がDomに向けられて発言されたものだと知ったのは、それから程なくしてからのことだった。

 自分のダイナミクスをはっきりと公言する人は稀で、普段の会話で行われるのは他人のダイナミクスの噂ぐらい。
 高ランクのDomやSubは隠しきれないオーラが溢れてしまっているためこうした噂になりやすく、さっくりとパートナーになっていたりする。
 コンパのようなものも行われたりするけど、ダイナミクスをオープンにしてしまうことになるため、皆こぞって参加というわけではなかった。
 なら、弱く消極的なDomやSubはどうやってパートナーを選んでいるのか、というと、D/Sマッチングサービスの利用。

 複数の機関や民間企業がその斡旋サービスを持っていて、僕はその中でも検査機関が行っている評判の高いサービスに登録していた。

 最初に担当者が同席し、お見合いのようなものが行われる。そこでお互いの同意があれば、セーフワードや禁止行為について話し合い契約書を発行する、というのが一連の流れだった。
 
 その時までは、Domからのコマンドがなければ不安症になるSubにとって救いのようなシステムだと思っていた。
 

KNEEL跪け

 部屋に入った途端にこちらの意思など全くお構いなしに放たれたコマンド。
 あまりに急なことで呆然と立ち尽くしていると、『そんなこともできないのか?』と苛立ったようにスーツの上着を椅子の背もたれに投げ、もう一度言った。

KNEEL跪け

 次は高圧的なGlareと共に。それに抵抗する術なんて普通のSubが持ち合わせているわけがない。
 僕は床にへたり込み、先程まで温厚そうに見えていた男を見上げた。頭はこの状況を飲み込めずに混乱しているのに、体がDomに命令されたいという欲求に忠実に動いてしまう。まるで自分の体じゃなくなってしまったみたいに。

Good-Boyいい子だ。できるじゃないか』

 褒められ、頭を撫でられ、ふわりと心が揺れながらも浮き上がっていく。これが満たされるという感覚。すぐに感情が追いついたわけではなかったけれど、その時僕は初めてSubとしての悦びを知った。
 もっとその悦びを感じたくて、命令コマンドを欲してしまう。心の片隅に不安があるというのに男から目を離せない。男の厚い唇が動くのを縋るような眼差しで見つめ、次の指示を待った。

LICK舐めろ

 なんの躊躇もなく、取り出された男の陰茎が僕の頬を掠め、唇に押し付けられる。
 どうして?
 そんな疑問を持つことも許されなかった。
 ずっとGlareに晒され続け、霞がかった頭ではDomのコマンドが全て。当然とでも言うように僕は舌を出し、先端を舐めた。

Good-Boyいい子だ

 その褒め言葉がどういう意味を持つのかもわからずに心が高揚する。征服欲に満ちている男の目は僕の従属欲を掻き立て恍惚とさせるものだった。

Moreもっと。深く咥えられるだろう?」

 そこから僕は男の言いなりだった。
 口で奉仕をさせられ、朦朧として抵抗もままならない体を弄られる。
 その後は……されるがままに男の欲望を受け入れ、男が満足するまで処理道具として扱われた。
 
 性行為はしない。
 そう契約書に書いていたのに、それが守られることもなく、セーフワードを口にするという意思さえも根こそぎ奪われていた。
 僕の心がどうなろうがお構いなし。
 ただDomの支配欲と性欲を満たすために使われたのだと、全てが終わってから気付かされた。

 無意識のうちに抵抗したのか、手首や足首には指の跡が痣として残っていて、行為が現実のものだったと僕に思い知らせる。
 軽いSubDropを起こしていたが、家に帰りたいという一心で震える体を無理やり起こす。中に放たれた精液がどろりと内腿を伝い、愕然とするなか涙が頬を伝った。

 Domの思い通りに動く人形。それがSubというもの。
 僕はこの時保健教諭の言葉を思い出し、Subは決して大切にする側・・・・・・ではないのだと、身をもって知ることになった。


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