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珈琲きの子

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乾杯をして、皆ほどよくお酒が入り機嫌がよくなってきたころ、あまりお酒が得意じゃないという今日の主役の芳光さんが僕の横に来た。結構お付き合いで飲んでしまったらしく、かなりグデグデになっている。
だからといって、酔っ払いのスキンシップの激しさはあまり許せるものではない。隣に来てしまったから仕方ないけど、腰に手を回されるし顔が近いしでちょっと……。
苦笑いしながら相手してたけど、皆酔っ払ってるから気付いてない。というか気付かないふりしてるような気がしてならない。

「渡里くん、大卒一年目なんだよねー」
「そうですよ」
「職場的には先輩だけど、俺の方が年上だし、同じ年に入ったわけだから同期ってことでよろしくー」
「はぁ……」

うちの課に同期はいないから、僕が一番年下になる。このちょっとめんどくさそうな彼の扱いをするのは必然的に僕になるというわけだ。
諦めてちびちびとグラスに口を付けながら、聞き流しつつ会話をしていた。

「ちょっとー、聞いてる? 一希」
「え、」

早く家に帰りたいなぁ、と少し意識を飛ばしてしまっていた時、肩を掴まれた。しかも会って数日しか経っていないのに呼び捨て。僕の感覚では少しどころではなく受け入れ難いもので、積もり積もったものもあり咄嗟に手を払ってしまった。

あの男に無理矢理行為を強いられて以降、省吾以外に触れられることにかなり敏感になっていたのもある。

「なにー? ひどいんじゃない?」

そう言った芳光さんの声は思った以上に大きく、先輩や上司の視線が一気にこちらを向く。

「どうした、どうした」
「い、いえ。驚いて咄嗟に芳光さんの手を払ってしまって」
「ぶちょー聞いて下さいよー。酷いと思いません? 俺はただ一希と親睦を深めたかっただけでー」
「芳光くん、ちょっと飲み過ぎじゃないか?」

部長がやっと僕じゃ抑えきれないと判断してくれたらしく間に入ってくれる。

「そんなことないんですけどねぇ」
「まあまあ、少し離れようか二人とも」

部長の一声で、事務のお姉様方が僕のことを部屋の端まで引っ張って、芳光さんから遠ざけてくれる。
それから口々に、

「大丈夫だった?」
「仲いいのかと思ってて」

と謝ってくれる。お水も飲む? と甲斐甲斐しく世話も焼いてもらってしまった。

でも、ほっとしたのも束の間、芳光さんは部長と口論を始めたのだ。
回りは騒然。入って来たばかりの中途社員が部長に口答えするなんて思いもせず、呆気に取られてしまっていた。

「ぶちょー、俺に楯突いていいと思ってんですか? 俺の方がランク高いんすよ?」

ランク。
その言葉に愕然とした。
こんな公の場所で軽々しくダイナミクスを口に出せるのは高ランクのDom。ということは二人ともDomということだ。

大抵はランクが高いDomが役職に配置されるけど、すべてがというわけじゃない。もちろんUsualだって出世するし、きっと優秀なSubだっているはず。なによりランクが上だからといって上司にこんな態度を取ること自体信じられないことだった。
この会社の経営陣は最高位のDomがほとんどを占めていて、その中には珍しくSubの男性と同性婚した人もいる。隠れSubも安心して社内で過ごせるように統制を取っているということだったから安心していたのに。

今すぐにでもこの場を立ち去りたかった。もし二人にGlareなんて使われたら。

そう思った時にはもう遅かった。
全身に重くのしかかるような圧力がかかり、冷や汗が背中を伝う。明らかに敵意を含んだGlareに悲鳴を上げそうになった。口を押さえるけど、それも必死のこと。体の芯が恐怖に震えるのに、それとは反対の感情も生まれる。側にDomがいるとわかれば、Subの本能が頭を擡げ理性を呑み込み始めてしまう。
伏せていた顔を上げ、定まらない目で鞄を探す。早く薬を飲まないと。

UsualにもGlareの影響があるとはいえ、驚いた顔をして固まっている程度。明らかに意識が溶けそうになっていた僕とは違った。
芳光さんの興味は、Glareを直接向けられ跪いてしまった部長から外れ……ゆっくりとこちらを振り返った。

目が合う。
その瞬間、ニタリと口端が上がった。

「あー、Subはっけーん」

緊張感のない声が沈黙の空間に響く。そして一歩、また一歩とこちらに向かってくる。

「やっぱり一希はSubだったなー。おまえのこと跪かせたくて堪んなくてさー。俺の直感当たってたわー」

頭の中がクラクラする。
逃げたいのにその場から動けない。
Subであることを暴露され、今までしてきたことがすべて水の泡になってしまったというのに、僕は跪いて命令を乞うようにただ目の前のDomを仰いだ。

LICK舐めろ

こんな公の場でお構いなしにコマンドを浴びせる。
どうしていいかわからなかった。周りからの視線が刺さり、混乱する。大勢の前で自分を晒さなければいけないことに心が悲鳴を上げた。

「一希、LICK舐めろ。舐めたいだろ?」

顎を爪先で持ち上げられる。
この男もまたSubを嬲りたいだけなのだ。

「あ……ぁ……」

いやだ。
いや……。
聞きたくない聞きたくない。

湧き上がるのは嫌悪感と拒絶心。
それとは裏腹に歓喜している自分がいることに愕然とする。
僕は歯を食いしばって、爪先を避けるように顔を伏せた。

「おいおい、一希? コマンド聞けねぇの? ならお仕置だな」

髪を掴まれ、後ろに引かれる。
無理矢理顔を上げさせられ、視界に入ったのはDomの欲望に囚われた赤熱した瞳。

そのとき頭の奥でプツと何かが切れた音がした。
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