やりすぎハイスペックな俺が行く 異世界チートな旅路

とやっき

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2章 ゼルドスの反乱 二つ目の危機

41話 天秤は揺れて カイとゼルドス

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 水滴をイメージしてほしい。


 上が少しばかり尖っているように見えて、下は球体のようにつるりとした形。

 色は透明の方が好ましいが、水色か青くらいがイメージしやすいことだろう。


 雨の絵を描くときは、斜線にするかこのような雫を描くことが多いのではないだろうか。


 目の前には大きな桶があるとしよう。


 そこには、たっぷりの水が入っている。

 その中に先ほどイメージした水滴を、一つ垂らしてみてほしい。


 ぽちゃん、と小気味いい音が鳴っただろうか?
 波紋を描きながら、桶の水に同化していっただろうか?

 小さな雫の一滴は、周りに大きな影響を与えて広がっていくのである。

 一波いっぱわずかに動きて万波ばんぱしたがう。

 そんなことわざも存在するように、一つの事件というものは、多くのものに影響を与えていくものであるらしい・・・。







 カイたちはミューストリア王都の危機を見事に救ってみせた。


 皆が歓喜する中、ラーグルは一人、厳しい表情になっているのであった。


「どういうことですかい、ゼルドス様」

 彼は上司であるゼルドスと、いつでも連絡できるように魔法道具を持ち歩いている。

 定時の連絡以外では使用することがなかったそれは、今までゼルドスからかけられたことは一度もなかった。

 もしゼルドスから連絡を取ってきたなら、それは疑うまでもなく緊急事態であると言えるであろう。


「魔王、カイを殺さねばならなくなったのじゃ。ラーグルには、カイの能力を弱らせてほしい。前におぬしに預けた「封呪の霊隠剣スキルブレイカー」で心臓部を貫くんじゃ。やつの能力は底が知れぬが、多くの能力は心に宿るもの。やつはスキルさえなくなれば、ただの小僧でしかないであろう」

 事情が変わったからといって、今まで共に各地を回ってきた仲間であるカイと敵対するなど、ふざけるなと一蹴したいところであった。

 だが相手はラーグルの上司であり、恩師であり、古くからの親友でもあるゼルドスだ。
 その頼みとあらば、無下にはできない。

 カイと過ごした時間よりも、ゼルドスと過ごした時間の方が長く深いものであると言える。

 天秤にかけたとき、ゼルドスに傾くのは至極当然のことだった。


「しかしゼルドス様。どうして急にそんなこと言うんですかい? ゼルドス様だって、魔王さん気に入ってらっしゃったでしょうが?」

 だが、簡単には天秤にかける気になれない。
 ゼルドスがカイを殺すなどという発言をするなんて、信じがたいことなのだ。

 ましてやバラバラになりつつあった魔王国を、再び一つにまとめ上げようというこの時期にする発言ではない。

 今はカイを殺してしまうよりも、カイを利用した方が魔王国にとって利益になるのは、脳筋の部類に入るラーグルであっても理解できることだ。

「カイを弱体化させよ、これは命令だ。カイが死んだあとは、わしが魔王となってこの地を統治する」

「ゼルドス様が魔王ですかい? 俺は別に嬉しいですけど、何も殺さなくともカイさんは魔王を譲るんじゃねぇかと思いますがね」

 ラーグルにとって、ゼルドスが魔王となることには反対する気持ちはない。

 かつてどれだけ魔王になってほしいと、思っていたことだろうか。
 そのチャンスがあるなら、喜んで命をかけてでも手伝う心づもりであったのだ。

 それを考えてみても、やはりカイを殺す必要性など感じない。

 カイは魔王という肩書きを、あまり好ましく思っていないように見えるからであった。

 カイは世話になったゼルドスの頼みであったからこそ、魔王になって仕事をやっているのだと思われる。

 そのゼルドスが『自分が魔王になる』と言えば、カイは『まじっすか? どうぞどうぞ、なっちゃってください。いやー、やっと肩の荷が降りたわー』などと言って、魔王の座を譲るシーンが容易に想像できる。


「ラーグルよ。おぬしが口を挟むことではない。おぬしが命令通りに動かぬというならば、別の者を差し向けるまでだ」

 そこまで言われてしまえば、ラーグルとてゼルドスを説得する気はもう起こらない。
 ゼルドスが頑なになっているということは、それ相応の理由があるはずだ。

 ラーグルはゼルドスを心から信頼している。

 ゼルドスが話せないような理由を抱えているのであれば、もはや彼に抗う気持ちなく黙ってゼルドスに従うまでである。

「わかった、やりますよ。魔王さんを弱体化させて、さっさと逃げ帰りますか。あの天使の姉ちゃんだけは、相手にしちゃいけなさそうだからな」

「ああ、それでいい。無事に帰ってこい」


 それからラーグルは、女性陣から離れた場所にいるカイの元へと歩み寄った。

 カイはみんながはしゃぐ姿を見て、少しばかり居心地が悪くなってちょっと離れた場所にいたようだ。

 まだ少し作業が残っていたため、セラファルは壁の近くにいるようだ。


 もはやこれ以上の好機チャンスなど、そうそうない。


 祝賀ムードのところをぶち壊すのは性に合わないが、ゼルドスの命令を成功させるには今しかないであろう。


 ラーグルはカイの元へと歩み寄る。

 足音を消して、気配を殺して。


 しかしもう少しのところで、カイはこちらに気づいてしまった。

 こちらに振り返ったときのカイの顔は、穏やかな表情だった。


「ああ、ラーグルさんもお疲れ様です。どうしたんですか?」

 ラーグルは今、いつもの顔よりも数倍は怖い顔をしている。
 そこには、どうにかカイに気づいて欲しいという意図があった。

 ゼルドスの命令といえど、やはり腑に落ちない点が多いのだ。

 怪しく思って防御行動だけ取ってくれれば、あとはゼルドスに失敗したと言えばいい。

 彼を傷つけたくないという気持ちが、ラーグルの心から湧き出てくる。

 だが、ゼルドスの命令にも従いたい。

 二つのどうしようもない感情で、ラーグルの心は揺れに揺れていた。


 今日ラーグルは、彼に命を救われているのだ。
 敵との交戦中で、ラーグルは命を落としてしまった。

 そのあとカイが生き返らせてくれなければ、ラーグルは彼の目の前に立っていなかった。

 義を重んじる彼にとって、命の恩人に対して刃を向けるのはどうしてもやりたくない。

 彼には今日も入れて、二度も命を助けられているのだ。


 悩み抜いた挙句、彼は妥協案を思いついた。

 忠告をしてから、カイならば避けられるスピードで攻撃する。
 
 彼は剣を持ち、小さく言葉を吐き出した。


「魔王様、悪ぃな」


「え?」


 ラーグルは目をつぶって、剣を持った腕を前に伸ばした。

 その後はゆっくり、時間が止まったような感覚だった。


 やがて剣は、何か柔らかいものに当たった。


 ああ、肉の感触だ。


 ラーグルはそのまま力を込め、剣を押し込んでいった。

 刃が肉を断つ感触が、腕に、全身に伝わってくる。

 いつもなら嬉々として断ち切るそれであったが、今回だけは気持ちが悪かった。

 肉を切り裂いた先で、刃から肉の感触はなくなった。

 ああ、貫通したのか。


 そう思ったとき、何かが終わった気がした。


 彼に色々な疑問がどっと押し寄せてくる。


 ゼルドスに従うべきだったのか。
 なぜカイは、避けなかったのか。
 自分は一体何をやっているのか。
 カイは今、何を思っているのか。


 何もかも、間違っていたのではないか。


 ラーグルは、一歩後ずさった。


 カイの顔が、見てみたかったのだ。


 カイは苦悶の表情というよりも、何が起きたかわからずに、辛そうな表情であった。


 カイはそのまま、バタリと倒れた。


 後ろから、誰かが走り寄ってくる足音が聞こえる。

 多分、あの天使が来たのだろう。


 ラーグルは全てが終わったような気がして、その場でたたずんでいた。




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