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プロローグ 〜魔王城に攻め入る勇者たち〜
しおりを挟む「ま、魔王様。力及ばず、申し訳・・・ありま・・・せん・・・」
「やったわ! 四天王も残すは一体だけね!」
「ああ。だが、まだ喜ぶのは早い。最後まで気を引き締めていくぞ」
「「「 はい! 」」」
魔王城にたどり着いた勇者と、その仲間の女騎士、聖女、魔女。
彼らは四天王の4名のうち、3名を無事に倒すことができた。
パーティーは前衛二人、後衛二人と安定しつつも物足りないような人数に思えるが、彼らには十分であった。
ちなみに勇者は金髪に蒼眼、顔は映画俳優並みのイケメンで、身体は程よく引き締まっている。
少なからず仲間の女性たちから好意を寄せられており、所謂ハーレムパーティーになっているし、名声も高く性格も良い。
世界中で最高クラスの実力と人望と容貌を兼ね備えた勇者。
「そう、それでこそ勇者だ」
と、魔王は映像投射魔法で映し出されている勇者のカッコいい姿を見て、上機嫌な様子でポソリと呟いた。
身体中に言い知れぬ高揚感が湧いてきている。
もうすぐ「魔王になって、勇者に討ち倒される」というこの世界に来る前からの夢が叶う。
魔王は異世界転移者で、勇者に倒されるために魔王になったのだ。
魔王は残っている四天王「片翼のティファーナ」に気がつかれないように笑いを堪えていた。
流石に部下というか、仲間というか、そんな存在が敵に倒されたのに笑っていては、不謹慎であることくらい分かっているのだ。
必死になって嬉々とした感情を表に出さないように抑え込む魔王とは対照的に、絵画にでも描かれていそうなほどに美麗なティファーナの顔は、怒りに染まって白い肌を真っ赤にしていた。
「魔王様。四天王は三名とも負けてしまいました。同じ四天王として、お恥ずかしい限りでございます。この尻拭いは、私めにお任せ下さいませ。必ずや、勇者の首を魔王様の元へとお持ち致します」
今にも勇者と戦いたくて仕方ない魔王だったが、段取りというものの重要性は理解している。
魔王が倒されるのは、最後でなくてはならないのだ。
四天王が全て倒されてから、自分の出番がやってくるのだ。
「そうだな。四天王の名につけられた泥をお前の手で拭ってくるがいい! ゆけ!」
「はっ!」
強い命令口調の言葉を発した魔王。
いつまでたっても魔王口調には慣れないが、雰囲気を出すためには必要なものだ。
だって魔王なのだもの。
誰もいなくなった魔王城の玉座の間で、魔王は玉座の手すりをリズム良くペチペチと叩きながら、ティファーナが負けるのを今か今かと待っていた。
「まだかなー。早く勇者と戦いたいなー」
ワクワクし過ぎて昨日は一睡もしていない。
長年の夢といえるほどの願望が、ついに叶いそうなのだから興奮しているのも当たり前のことだろう。
実は睡眠が必要ない身体なのだが、そんなことはこの際関係ないのだ。
「お! ティファーナとの戦闘が始まったか! 頑張れ勇者!」
魔王は勇者と対峙したときの予習セリフ帳を、今一度確認し始める。
最凶の魔王という存在が、人類最強の勇者との戦いで、最高の負けを演じるために、最善を尽くすのだ。
魔族の頂点と人類の頂点のぶつかり合い。
歴史に残るであろう大事なこの瞬間で、セリフをど忘れするなんてことがあってはならないのだ。
くくく、と如何にも悪役らしい笑い方をしながら、魔王はペラペラとセリフ帳をめくっていくのであった。
◇
「人間風情が! 魔王様の元には絶対に行かせない!」
「この四天王、今までの四天王より段違いに強いぞ! みんな気を引き締めろ!『一閃』」
「勿論だ! 奥義『乱桜』!」
「ええ、油断は致しません『戦神ディヘイラ様の御加護』」
「了解! ファイアーバースト!」
ティファーナは勇者の聖剣をかわし、女騎士の大剣をへし折り、魔女の魔法を反射させ、聖女を魔法で吹き飛ばしながら考えごとをしていた。
彼女は、魔王様の取った行動の真意が分からなかったのだ。
魔王様は四天王を一名ずつ戦わせた。
どうせなら四名全員で勇者たちと戦えば、楽に勝てたはずなのだ。
それをあえて分けて戦わせた。
前から四天王以外の強力な魔族と勇者たちが戦うときは、いつも魔王様は単独で戦うようにとおっしゃっていたが、その真意も今回の件も分からない。
「ふむ。まさか・・・」
サブの武器に持ち替えた女騎士にボディーブローを食らわせ、魔女と聖女の魔力を全て吸収しながらティファーナはある結論に達した。
「もしかして魔王様! わたしに華を持たせてくれるために単騎で戦えって仰られたのかな! つまりわたしのためだよね!」
「ぐはっ、な、何を言っているんだ・・・」
勇者の腹に一発拳をかましながら、どんどん妄想を膨らませていくティファーナ。
「四天王はみんな女性の魔族だったし、最後にわたしだけを残してもらえたってことは、きっとそうなんだよ! あ~! やっと魔王様にご寵愛をいただけるのね!」
満面の笑みで聖女に魔法を撃ち込むティファーナ。勇者は巻き添えをくらって吹き飛び、壁に打ち付けられて倒れた。
「そうだとしたら、みんなを復活させるのはやめとこうかな。えへへ~、そしたら魔王様と二人っきりでイチャラブ生活だ~」
戦闘中にだらしなく頬を緩ませるティファーナ。
ふと気づくと、勇者たち一行は全員意識を失って倒れてしまっていた。
「あれ? 終わっちゃってた? まあ、魔王様には勇者の首を持っていくって言っちゃったし、他のは弱過ぎて話にならないから放っておこうかな。さてと・・・」
スパッと勇者の首を風魔法で切り、触りたくないのでプカプカと浮かばせながら玉座の間に戻っていくティファーナ。
◇
玉座の間の巨大な扉が、ギギギと音を立てて開かれる。
「ふはははは! よくぞここまで来たな勇者共・・・ん? ティファーナか?」
ノリノリでセリフを言っていたが、急ストップした魔王。
視界に映っていたのは、四天王のティファーナであった。
「はっ。魔王様。宣言通り、勇者の首を持って参りました」
「へ?」
魔王はセリフの再確認のために戦闘映像を見ていなかったのだ。
ティファーナが勝つなんて考えは微塵もなかった魔王は、ポカーンとしたまま少し得意げな表情になったティファーナの顔を見つめていた。
「(ま、魔王様に見つめられてる! わたしだけを見つめる魔王様。あーもう最高過ぎる!)」
「ゆ、勇者が負けたのか?」
震える声を絞り出す魔王。
いや、分かってる。なんか首が浮いてるから。
理解したくないけど、あれは勇者の首から上にしか見えない。つまり頭部だ。
「はい。私が勝利致しました。他の者は広間に転がっております。あの者たちでは魔王様にダメージを与えることさえ不可能と判断致しましたので、放置しておきました。トドメを刺して参りましょうか?」
ああ、これは現実なのか?
もうすぐ夢が叶ったはずなのに・・・これが夢であってほしい。
「・・・いや、もうよい。そやつらは城の外に放り出しておけ。殺す価値も無いだろう」
「かしこまりました。仰せのままに致します。それと、魔王様。あの、その、今夜はどう致しましょうか!?」
今夜初めてを迎えることを期待しているティファーナ。
しかし絶望に心を支配されていく魔王は、全てがどうでもよくなっていた。
「今夜は一人にして欲しい。死を悲しむ時間が欲しいのだ」
「はっ。では、夕食はお部屋の前にお持ち致します・・・」
ティファーナが言い終わる前に、魔王は奥の扉から自室に向かって行った。
ティファーナは自分が何かやらかしてしまったのか、考えに考えた。
そして魔王様の言葉を思い出し、気がついたのだった。
「死を悲しむ時間・・・ハッ! 私、魔王様に四天王の蘇生が可能なことを言ってなかったかも! やばいどうしよ。早く復活させて魔王様に元気になってもらわないと!」
見当違いの想像をするティファーナをよそに、魔王は誰にも気づかれることなく、自室で嗚咽を漏らしているのであった。
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