魔王やめて人間始めました

とやっき

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少年期・学園編

2-12 お姫様、鑑定する

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「おい聞いたか? あの公爵令嬢が喧嘩を吹っかけて決闘することになったんだとよ!」

「公爵令嬢って、入学試験で10位を取ったデンタナ家のご令嬢か? 確か『イケメンキラーの生意気お嬢様』の二つ名を持ってたよな?」

「そうそう、そのご令嬢だ。面白くなってきたなー。じゃあ俺は決闘場へ観戦に行くわ!」

「俺も友達を連れて観に行く! また後でな!」


 新入生の中で決闘の噂が広がり、それはある少女たちの耳にも届くことになる。

「姫様、どうやらさっそく揉めごとを起こした同級生がいるようです。全く、まだ授業も始まっていない合格発表の日だというのに」

「決闘なんてどうでもいいのよ、セニャ。それよりマクシュガル家ってなんなの? これ、明らかにおかしいでしょ。学園側が賄賂わいろを受け取るとは思えないけど、これさ、少なくとも贔屓ひいきはしているんじゃない?」

 姫と呼ばれている少女は、すれ違ったら誰もが一度は振り向いてしまうであろう可愛さの持ち主であった。
 愛らしくぱっちりとした二重まぶたに、長いまつ毛。控えめそうな印象を一段階引き上げる可愛らしい唇。
 可愛い少女像の何たるかを体現したかのような見た目の少女、名前をココレラ・レクレイスター。この国の王女の一人である。

 見た目は完璧と言ってもいいほどなのだが、彼女の本性は可愛らしいものではなかった。

 それを知る者は少ない。
 その数少ない理解者の一人が、侍女のセニャであった。

「姫様、王立魔法学園は特定の人物を贔屓にしたり、肩入れしたりはしないことで有名です。疑い過ぎるのは宜しく無いかと」

「セニャは甘いわよー。表面なんていくらでも取り繕うことはできるから。裏で何をやってるなんか分かりはしないわ。見るもの聞くもの全てを疑って生きていかないと、騙されてばかりの人生になっちゃうわ」

「姫様がそれを言いますか。貴女、騙す方でしょうが」

 姫と侍女という主従関係にある二人であったが、親しい友達のような雰囲気で会話をしているようだ。

「あら~? 何のことセニャ? 私、頭悪いから分かんな~い」

「チッ。いつか痛い目に会えばいいのに」

 まさかの主人に対しての舌打ち。
 裏を返せば、それくらい気軽にできるほど仲が良いとも言えるのだが。

「ちょっとセニャ。私の侍女なのにさっきから酷くない?」

「これはこれは失礼致しました、姫様。以後、気をつけて発言致します」

「セニャも人のこと言えないと思うんだけど」

「先ほどの質問ですが、マクシュガル家は二つございます。一つは王都から最も近くに領地を持ち、ムルザ・マクシュガル辺境伯が当主の家。こちらは女児が二人いたはずです。ムルザ・マクシュガルは当主になる前はSランクの冒険者だったので、その子供が武術実技で活躍することは不思議ではありませんね」

「セニャ誤魔化したわね? まあいいわ。そういえば前から疑問に思ってたんだけど、王都からそんなに離れてないのに『辺境』伯っておかしくない? 辺境じゃないじゃん。都市部に近いじゃん」

「何故でしたっけ? ああ確か、王都がこの地に遷都する前からマクシュガル家はあったとか読みましたよ。昔から辺境伯のくらいだったということです。マクシュガル家は歴史ある家系ですね」

「あー、貴族とか興味ないから知らなかった。で、他は?」

「あとの四人は王都に住むマクシュガル伯爵家でしょう。当主のセドリック・マクシュガルには女児が三人、男児が一人いるらしいですので、数はあっています。姫様はパーティーで長女のアイリスさんとはお会いしたことがあるはずですよ。他の方はまだ十歳ではありませんからお会いしたことはないかと」

「アイリス? ああ、元気そうな女の子だったかな。確かにそこそこ鍛えてそうだったから分かるわ。はあ、何で王族って十歳になってないのにパーティーに参加しなきゃならないのよ」

 この国の貴族は十歳になると社交デビューを果たすのだ。

 アイリスも十歳になってからは貴族のパーティーに二回ほど行っていた。
 内の一回は王家も訪れるほどのパーティーであったため、ココレラはアイリスと面識があったようだ。

 ちなみにアイリスは弟以外の男に興味がないらしく、パーティーで女性ばかりと話していたため、貴族女子の間で百合疑惑が浮上している。
 可愛いだけでなく、男らしくカッコいい一面もあるアイリスは、貴族女子から人気が高い。少なからず隠れファンもいるようだ。

「文句を言っても姫様は王女です、避けられない運命です。他の三名はまだ十歳に満たないので情報がありません。調べたらお教えします」

「うんヨロシク~。で、決闘だっけ?」

 決闘のことを思い出したココレラ。
 一応どんな人が決闘をしようとしているのか気になったようだ。

「その決闘ですが、どうやら今回化け物みたいな得点だった首席のエルリック・マクシュガルと、デンタナ公爵家の次女、今回10位だったイリシアの決闘みたいですよ」

「はっ? 何で先にそれを言わないのよ!? そんな面白そうな試合、見逃せるわけないじゃないの!」

「左様ですか。チッ、言わなきゃ良かった。では姫様、決闘場までご案内致します」

「ヨロシク!」





「ルール確認は以上だ。では二人とも、やり過ぎないように気をつけろよ」

「分かっていますわよ。半殺しくらいでやめて差し上げますわ」
「おいおい、半殺しはルール違反だっただろ?」

 ギリギリ決闘に間に合ったココレラとセニャ。

 空いている観覧席に座り、首席のエルリックだと思われる男の子を見つめるココレラ。

 10000点という常識外れの点数を取った化け物は、どんなやばいやつだろうと想像を膨らませていたココレラだったが、その幼い見た目に目を丸くさせてしまった。

 侍女のセニャも、ココレラほどではないにせよ、まだ五歳のエルリックを見て驚いていた。

「あの子! あの子だよ、セニャ! あのちっちゃくて可愛い男の子だよ! びっくり!」
「姫様、抑えてください。周りに聞かれるかもしれませんよ」

 ココレラとセニャは、エルリックを受験時に見かけていた。

 小さい男の子が受験するんだなぁ、程度に思っていたが、まさか合格するとは考えていなかった。
 ましてや首席で合格するなど、誰が想像したというのだろうか。

「うーっ! 楽しみ! 頑張れーエルリック君!」

「姫様はしたないですよ。声を抑えてください」

 エルリックを大声で応援し始めた王女のココレラ。
 流石に王女としてふさわしくない言動に、セニャはココレラの口を手で塞いだ。嫌がらせもこめて、鼻までつまんでいたが。

「ぷはっ! 息できないわよ! 殺す気!?」

「おっと、間違えました。無礼をお許しください、姫様」

 二人が仲良く(?)じゃれあっていると、エルリックと生意気お嬢様のイリシアの試合が始まった。


「いきますわよ!」

 剣を抜いて構えるイリシア。

「構えはそこそこだなー。もうちょい腕を上げて前に傾けた方が見栄えがいいぞ」

 剣の構えを評価するエルリック。
 ダメ出しされたイリシアは、顔を赤く染めて怒りを露わにした。

「このあたくしをそこそこですって? デンタナ公爵家の天才にして、あのモール近衛騎士団長に剣を教えていただいたあたくしを侮辱するなど、許されませんわ!」

「虎の威を借る狐だなー。いや、モールさんはそんなに強くなかったか。となると、狐の威を借る鼠か?」

 怒りマークがいくつもつきそうなほどの顔になったイリシア。
 プルプルと全身を震わせながら、静かに一言呟いた。

「殺しますわ」

「おう、かかってこい」

 二人を見つめていたココレラ。
 ふと、エルリックはどれくらい強いのか気になった彼女は、とあるスキルを使用した。

「鑑定」

 彼女のスキル『鑑定』はスキルレベルが高く、様々な情報を得ることができるのだが、今回は見られる情報が限られていた。



エルリック・マクシュガル (5歳)
 経験LV 170
 体力HP 測定不能/測定不能
 魔力MP 測定不能/測定不能
 技力SP 17000/17000
生命力VIT G+
攻撃力ATK G+
防御力DEF G+
魔攻力MAT G+
魔防力MDF G+
敏捷性AGI G+
器用さDEX G+
精神力MND A



「レベル170!? Sランク冒険者クラスね。 それにGって何だろ? 最低ランクってFのはずなんだけど。こんなの初めて見たし、体力も魔力も測定不能なんて初めてよ」

 驚きを隠せないココレラ。
 鑑定スキルで確認できる最低ランクはFで、最高ランクはSだ。
 それ以下もそれ以上も、存在しているとは聞いたことがない。

「エルリック・マクシュガルに鑑定を使われてたんですか? 姫様、もう少し用心してください。鑑定は自分よりレベルが高い人に使うと、スキルを使ったことがバレますよ」

「あ、うん。バレたと思う。私より30レベル高いから」

 ココレラはよく城を抜け出してはレベル上げをしていたため、今では高レベルであった。

 ちなみにエルリックはレベル上げをしていない。
 あの王都のアンデッド騒ぎで、カレノアが操っていたアンデッドの軍勢を倒したことだけでレベルアップしていたのだ。

「何やらかしてるんですか。しかし、あの歳でレベル150、恐ろしいですね」

「いや、この前レベル上げしたから、今の私レベル140だよ」

「ではレベル170ですか? 危ないですね。姫様でも勝てないとなると、モール様くらいしか勝てません」

 既にモールはエルリックに負けているのだが、そんなことは知らないココレラ。

 鑑定がバレてしまったことにビクビク怯えながら、試合を観戦するのであった。



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