魔王やめて人間始めました

とやっき

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少年期・学園編

2-13 魔王様、天罰を下す

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 決闘場では白熱の試合が繰り広げられていた。

「ファイアウォール、ファイアサークル」

「アクアウォール、ウォーターサークル」

 イリシアの火魔法に対し、瞬時に対応するエルリック。
 同程度の魔法を当てることで、彼女の魔法を相殺させたのだ。

「そこですわよ!」

「おっと」

 魔法の後に剣技で迎撃するイリシアだったが、ひらりとかわすエルリック。

 エルリックはそこそこ強い10位の人に、ちょっとだけ感心していた。

「魔法も剣もできるのか。やるなー」

「ようやくあたくしを褒めてくださいましたのね! 敵ながら見る目がおありですわ。あたくし貴方あなたを気に入りましたことよ!」

 いやお前、さっき俺のこと殺すとか言ってたよな?

 ちょっと褒めただけなんだがなー。
 チョロインさんか?

 そう思った瞬間、誰かが俺の身体の中を覗いているような感覚に陥った。

 この感じ、久しぶりだ。
 俺を対象にした鑑定のスキルかな?

「どこだ?」

 俺は視線が感じられた観戦席を見上げた。

 そして、見た目が可愛らしい少女と目があった。スキルの使用者は彼女で確定だな。

「あいつか、顔は覚えたぞ。こりゃ、後で何とかしないとやばい。多分、俺のステータスがバレたな」

 いくら容姿が優れている相手であろうと、容赦はしない。

 可愛いだけなら、勇者の従者だった魔女とかも可愛かったからな。あの魔女は年齢不詳だが。
 それに美人なら、勇者の従者だった聖女とかが綺麗だったからな。あの聖女は腹黒なのだが。

「何をおっしゃっていらっしゃるのかしら? 戦闘中によそ見をして独り言を漏らすなんて、かなり余裕がおありなのですわね」

「あ、すまん、10位の人。忘れてたわ」

あたくしにはイリシアという名前がありますのよ! 10位の人呼ばわりするのはやめてくださいまし!」

「まし!」

「馬鹿にするのはやめてくださいまし!」

「まし!」

「真似をするのはやめてくださいまし!」

「まし!」

「ましと言わないでくださいまし!」

「なかなか面白いなイリシア」

「よ、呼び捨てで呼ぶことは許していませんことよ! 様をつけてくださいまし!」

「イリシア、まし!」

「ファイアランス!」

「ウォーターランス」


 いやー、なかなか面白い子だ。

 プリュムを馬鹿にしたから悪いやつかと思っていたが、なんか憎めなくなってきた。

 だが、一応罪は償ってもらわないといけないよな。

「そろそろプリュムに謝る気になったか?」

「平民を見下したことくらいで、あたくしが頭を下げる理由にはなりませんことよ。貴方が・・・貴方の名前をそろそろ教えてくださいませんこと?」

「あー、言ってなかったな。エルリックだ。よろしく」

「エルリック様ですわね、宜しくしたくはありませんが覚えておいてあげますわ。エルリック、どこかで知ったような名前ですが・・・あ! 思い出しましたわ! 貴方はとんでもない点数をお取りになった首席合格者ですわね!」

「あ、うん。そうだな」

 あんな点数だったら目立っちゃうよな。悪い意味で。

「ちょっと待ってくださいまし。10100点をお取りになられた武術の腕、10000点をお取りなられた魔法の腕は偽物ですの!? あたくしと同じくらいの強さではありませんの!」

 え、手加減してるのに気づいてないのか?

 どうやらイリシアは、完全に同じ魔力量で対応した魔法を撃って相殺することができるエルリックの魔法技術と実力を、全く理解していないようであった。

「大したことない人に負けるなんて、屈辱ですわ。これならプリュムという平民も雑魚に過ぎませんわね」

 ブチッ。

 その瞬間、決闘場のイリシアの前に雷鳴を轟かせながら稲妻が落ちた。

 決闘場はコロッセオのような形であったため、雷は天からそのまま降り注いだのだ。

「ななな、何で雲一つ無いのに雷が落ちますの!?」

 腰を抜かしたイリシアは、その場にぺたんとへたり込んでしまった。

「さあ、何でだろうな。多分、神は人を差別することが嫌いなんじゃないか? 天罰が近くに落ちたんだろう」

 声のトーンが一つ下がっているエルリック。
 彼はどこまでも冷たい目でイリシアを見ていた。

「そんなことはありませんわ! あたくしは神様に愛されていますのよ! 平民風情と一緒にされたくはありま『ドカーン!!』ひゃあああ!?」

 平民を馬鹿にする発言をした瞬間、いくつもの雷がイリシアを囲むように降り注いだ。

 完全に自分を囲んで落ちてきた雷を肌で感じたイリシアは、涙を流しながら地面を濡らしてしまった。

「う、嘘ですわ。嘘ですわ。雷、雷怖いですわ。怖いですわー!」

 やべっ、泣かせちゃった上にチビらせてしまったようだ。

 ちょっとやり過ぎたかも?

 だが身分で見下すのはやめてもらいたいからな。

 もうちょいやろう。楽しんじゃおう。


「愚かだ! 愚かな人の子よ! 汝は同じ人の子を生まれの違いで見下した。よって汝に天罰カミナリを落とさせてもらったぞ!」

「ひっ!? 何ですの、エルリック様!?」

 おー、ビビってるビビってる。

 俺もなんだか乗ってきたな。

「我はエルリックでは決してない! 汝の悪行に見兼ねて下界に降りたった神である!」

「か、神しゃまでしゅの!?」

 カミングアウト神、決まりました。

「エルリックの身体を借りているだぞ。エルリックとは違うからな! 分かったか人の子よ!」

「は、はい! 分かりましたわ!」

 頭が千切れ落ちるんじゃないかというくらい、ブンブンと首を振るイリシア。

「よし、中々もの分かりがいいではないか。汝の名前はイリシアだったな。先ほどから汝の馬鹿馬鹿しい言動は天界から確認させてもらったぞ」

 天界ってどこやねん、と頭の中で自分にツッコミを入れてしまうのだが。

あたくしの言動が悪かったということですの?」

「その通り。考えてもみよ、汝が平民だったら馬鹿にされて嬉しいか? 汝が奴隷だったらどうだ? 同じ人という種族であるのに、身分が違うということで馬鹿にされる気持ちはどうだ?」

「嫌ですわ! ハッ!? で、でも、貴族には貴族の尊厳があるんですわ! 貴族には高貴なる義務が伴っておりますの! それが平民には理解できないのですわよ!」

「くだらない。実にくだらん言い訳だ。では平民ならどうだ? かなりの額を納税する義務があるであろう。入学試験で好成績を収めた汝の頭なら分かるな? 奴隷であっても、労働の義務があるのであろう? 貴族だけが特別だとは言わせんぞ」

 しばらくうつむいて考え込んだイリシア。
 頭脳をフル回転させ、神(?)の言ったことを頭の中で反芻させる。

「貴族も平民も奴隷も同じ。そうですわ! 違うことがおかしいのですわ! 神様は流石ですわね!」

 ま、まあ身分とか関係ない日本という国で育ったからな。
 一つの知識では盲目になりがちだが、別の価値観を知れば物事の見方が変わってくるだろう。

「そうだろう、そうだろう! 分かってくれたかイリシア?」

「はい! 理解致しましたわ! あたくしはもう身分なんて気に致しませんわ!」

「うむ、素晴らしいぞイリシア! 分かってくれたようであるから、我は天に帰るとしよう。これからも我は天から見ておるぞ。汝が悪いことをしたら、何が落ちてくるか分かるな?」

 ニヤリと悪い顔をした神。

 ビクッと震えたイリシアは、そっと自分の股を抑えた。

「もちろん分かっておりますわ! 差別も悪いこともしないと約束致しますわよ!」

「よろしい。では、さらばだ!」

 ピカーンと光魔法が決闘場を包み込んだ。


「あ、あれ? 俺は一体何を?」

 完全に大根役者の演技であったが、興奮しているイリシアはエルリックの下手な演技を見破れなかった。

「エルリック様! ごめんなさいですの! あたくし、エルリック様と戦って目が覚めましたわ。どうかプリュム様に謝らせてくださいまし!」

 まし!
 おっと、言いそうになった。

「おう、謝ってくれるのか! 分かってくれてよかったよ。じゃあ決闘はこれで終わりだな!」

「はい! あたくしの負けですわ! あ、でも少しだけお時間をいただきたく存じますわ。恥ずかしながら、その、粗相を致してしまったもので・・・」

 あ、雷にビビって漏らしてたな。

 ちょっとばかし、やり過ぎちゃったところもあったかもしれん。
 反省、反省。

「じゃあ後日でいいよ。プリュムとイリシアは同じクラスになるし、その時に頼むわ。俺は一緒のクラスになれるか微妙だけど・・・」

 合格発表のときのSに「?」が付いていたことを思い出したエルリック。

 彼は不安になりながら決闘場を後にしたが、そのとき観戦席を見なかったことは幸いだろう。

 誰もが驚愕の表情を浮かべ、まるで石像のようにピクリとも動かず固まっていたのだから。




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