魔王やめて人間始めました

とやっき

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少年期・学園編

幕間2 王たちの会談

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 勇者パーティーが壊滅し、人類最後の希望であった勇者が死亡してから五年の歳月が経過していた。

 魔王に降伏した全ての種族、全ての国の王たちは、自分たちが何ら変わりの無い生活をしていることに疑問を抱いていた。

 そんな同じ気持ちの国王や皇帝、部族長たちが集まり、首脳会談が開かれることになり、今日に至る。

 この場には、各国の代表たちが列席しているのだ。


「皆の者、よくぞ集まってくれたのじゃ。主催として深く感謝しておるぞ」

 人族の中でも一番の大国と言われているヤルマティア帝国の女帝が、今回の会談の主催であった。
 どう見ても幼女にしか見えない彼女は、若返りの秘薬を何度も使用して何百年も女帝の座に君臨し続けている。

 人族の中で最も年齢が高く、政治的手腕も確かなものだ。
 強いて欠点を挙げるとすれば、常に幼い見た目を保ち続けているため誰からも大人の女性扱いをされないことだろうか。

「魔族を束ねる王である魔王。かの者に対する最後の剣であった勇者が逝ってから五年が経ったのじゃ。なのに何も変わらぬとはおかしいとは思わぬかえ? わらわが世界征服を果たしたなら、全ての種族を奴隷にして自国を繁栄させると思うんじゃが、魔族たちは何もしてこないのじゃ。不思議じゃのう」

 恐らく、ここにいる各国の代表誰もが思った。
 この幼女、言ってることやべぇ、と。

「そこで妾は思ったのじゃ。魔族は我々と敵対する気は無かったのではないかえ? 我々は魔王を敵と認識しておったが、魔王やその部下である魔族が、一度でも我々に攻撃をしかけてきたことがあったかえ?」

「モンスターは我々を殺します。魔族たちは皆、魔物を従えることができる特殊な力を持っています。これで敵対する理由は十分なのでは?」

 幼女の問いかけに、黄金に輝く髪の美青年が瞬時に答えた。
 彼は尖った耳が特徴的なエルフの族長の息子で、今回は代理として出席している。

「モンスターとて強力な獣に同じ。共喰いもするし、縄張り争いもあろう。それに人族にも、珍しいがテイマーはおるのじゃぞ? それは他の種族にも言えることじゃと思っておる。魔族は他の種族よりも魔力に秀で、テイマーが多いだけの種族ではないかえ?」

 のじゃロリの言葉に、皆が押し黙ってしまった。

 魔族と他の種族が争ってきた歴史は深いものの、そのどれもが魔族に対する偏見によってであった。

 つまり魔族たちから喧嘩を吹っかけてきたことは一度もなく、明らかに害をなしてきたこともないのだ。

「ふむ。要するに貴女は魔族を我々と同じだと認めたいわけかね。無理だと思うがね」

「どうしてじゃ? 皆に教えてくれんかえ?」

 人族の壮年の男性が難しい顔をして意見を述べた。間髪入れずに幼女は男性に対して質問した。

 彼は商業国アッキナイの商業ギルド長である。
 商業国では決まった君主はいないが、国の商業ギルドが政治的な場面では対応することが多い。ちなみに商業国には、貴族は存在しない。

「民衆に根付いた敵対意識もあるとは思う。しかし、一番大きな問題は共通の強敵の消滅だと私は思うがね。我々は魔族という共通の敵がいて、それが強大であったからこそ、味方同士で大きな争いがなかったのではないかね?」

 これは彼の言う通りであった。
 味方同士で小競り合いをしていては、魔族との戦争に負けてしまう。

 敵の敵は味方ということで、これまで仲が悪かった国同士や種族同士は何とか争わずに済んでいたのだ。

「あー、なるほどねー! 魔族が敵じゃなくなったら、次はあたいらが敵対するってことか! そうなったら戦争じゃん!」

 ちょっと馬鹿っぽそうな女の子が反応した。彼女は獣人族の族長代理である。
 もちろん耳にはもふもふの犬耳がついていて、尻尾もふさふさである。

「まあ国家間の結束力が低いことは認めるのじゃ。仲が悪い国や種族もあるからのう。魔族という敵を失うと、戦争に近づくやもしれんのう」

「だからと言って魔族が悪では無いと分かった以上、対立を続けるのは愚の骨頂であるな。は魔族を受け入れたいとは思っておる」

 人族の中でも大国と名高いレクレイスター王国の王が発言した。
 人族の面々は、小国の代表たちまで頷いている。どうやら亜人種を受け入れることが多い人族の国は、魔族に対しての偏見も深くはないことが影響しているようだ。

「エルフとしても受け入れたいところですが、ハイエルフ様たちの説得は無理かと思われます。魔族との戦争での死者が多かったため、種の存続の危機を迎えていますから。戦争を最初にしかけたのは、エルフ含め連合側ですが」

 エルフの美青年は暗い気持ちになりながらも、なるべく明るい口調で話した。
 彼は空気の読めるイケメンのようだ。

「そうじゃのう、魔族の件は各々の国や種族に持ち帰って検討して欲しいのじゃ。さて、次は魔王に関してなんじゃが、和睦のために金品などを贈ろうと思っておるのじゃが、皆の意見を聞いても良いかの?」

「我々は全面的に魔王に降伏した。金品を差し出すくらいで国を潰されないのなら、安いものではあるがね。だが、それで許してもらえるかね。貴女の言われる通り、全ての民を奴隷にして差し出せと言われてもこちらは拒否できないところだ」

 魔王からしてみたら、魔族以外の種族が結託して魔族に喧嘩を吹っかけて大勢の魔族を殺し、勇者までも差し向けられたというところだろう。

 こうなると悪者は人族含め、連合側である。

「魔王さん、今頃めちゃめちゃ怒ってるんじゃ? 何もしてないのに喧嘩売られて、勇者に魔王城に攻められて。魔王さん五年間なんにもしてこなかったけど、ゆっくり罰でも決めてるんじゃ?」

「人族と魔族では寿命が違うからな。我々としては五年もらされている感覚であるが、嵐の前の静けさのように、この瞬間が残された猶予というものなのかもしれん。降伏した以上、差し出せる物は全て差し出すべきであるか・・・」

 馬鹿っぽそうな犬人娘と、レクレイスター王が苦い顔をして話した。
 他の者たちも、国を潰されるくらいならとボヤいている。

「ではひとまず、魔王に対して各々の国庫から金品を贈るということで良いかえ? しかし魔王は男性と聞いたのじゃ。妾としては金銀財宝よりも、美女を差し出した方が効果的ではないかと思うのじゃがのう。もちろん処女で偉い身分の美女じゃな」

「「「 貴女は魔王か 」」」

 思わず10人ほどが幼女にツッコミを入れたが、各々よくよく考えてみたところ、それもありかと思い始めていた。

 国民全員や、種族全員が奴隷化させられてしまうのが最悪なケースである。
 それならば国同士の政略結婚のように、王族や皇族を差し出して和睦の道を行く方がマシであろう。

「ふむ。国の全てを求められることを待つよりも、一部を差し出して魔王様に満足していただく方が賢明かね。貴女の考え、分からなくもない。金品と美女を引き換えにして、国の安全を守る。これからも商売ができるなら、安いものだと思うがね」

「うわー、おじさんなかなか鬼畜。あ、でもでも、魔王さんって強い人だよね。あたい、将来子供産むなら強い人との間に産みたいからありかも」

 獣人は全体的に強い者と子供を産みたがる者が多い種族だ。
 頭が悪そうな彼女も魔王が実力者ということは理解しているようで、自分が進んで犠牲になってもいいかと考えているようである。

 そしてちょっと理由は違うが、自らを差し出そうと考えている者がもう一人。

「ここは言い出しっぺの妾も犠牲になるのじゃ! 我が国で妾以上のセクシーな美女はおらぬからのう!」

「「「 それはない 」」」

「おぬしらには妾の大人の魅力が分からんのかえ!?」


 みんなの意志が揃ったところで、会談は終わりを迎えた。


 今後、元魔王エルリックが困ることになるのは、語るまでもないであろう・・・。




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