どこまでも醜い私は、ある日黒髪の少年を手に入れた

布施鉱平

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(裏話)異世界に転移した僕は、ある日赤い髪の女の人に拾われた

出会い

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 幸助は、鎖に繋がれていた。

 何がどうなっているのか、まるで分からない。
 
 どうしていきなり襲われたのか。
 どうして鎖に繋がれなきゃならないのか。

 分からないことだらけだ。

 それでもひとつ分かったことがあるとすれば、ここは幸助の住んでいた町ではないどころか、どうやら地球ですらないようだ、ということだった。

 それが分かったのは、幸助を緑髪の痴女から助け(?)、こうして鎖につないだ茶髪の女性が、何も無いところから火や水を出して料理しているのを見たからだ。

 あれは絶対に手品の類ではなかった。

 もし同じようなことをできる超絶的技巧の手品師がいるとしても、そもそも観客がいないのにそんな事をする必要がない。

 幸助は、茶髪の女性は魔法を使ったのだと考えた。

 そしてそう考えれば、自分の身に何が起こったのかを証明はできなくても、推測することはできた。
 
 突然見知らぬ場所に来てしまい、そこで出会った人とはまるで言葉が通じない。
 しかも、魔法が存在している。

 となれば、これは、異世界転移だ。

 それ以外考えられなかった。

 家にインターネット環境のない幸助だが、ライトノベルを読んだことはある。
 学校の図書館に、ライトノベルコーナーがあるからだ。

 神様とかからチートな力を与えられて異世界に行った普通の少年が、その世界で物語の勇者のような活躍をする話だ。
 面白いと思ったし、憧れもした。
 
 だが、それが現実に起こるなど、それも自分の身に起こるなど考えもしなかった。

 これが異世界転移なのだと気付いた瞬間、幸助は考えつく限りのことを試してみた。

 ステータスが出ないか確認してみたり。
 
 自分にもなにかスキルや魔法のようなものが使えないのかと念じてみたり。

 かめは○波を撃つ真似をしてみたりもした。

 だが、結局なにも起こらなかった。
 異世界に転移しても、幸助はただの少年だったのだ。

 悲しくて、悔しくて、元の世界に帰りたくて、幸助は泣いた。
 これから自分がどうなるのか分からなくて、恐ろしさのあまり満足に寝ることも出来なかった。

 茶髪の女性は毎日食事を与えてくれるが、それは美味しいものではなかった。
 なんだかドロリとした液体の中に、グズグズに煮詰まった米のような物が入っているスープで、味は古くなった醤油のようだった。
 
 しかも、日によって味の濃さはまちまちで、薄くてほとんど味がしない日もあれば、逆に濃くて食べれないような日もあった。

 叔母さんの作ってくれた、ごく普通の家庭料理が心から恋しかった。
 
 そして鎖に繋がれてから六日も経った頃、幸助は自分がどういう状況にあるのかようやく理解した。

 奴隷だ。

 幸助とともに鎖に繋がれている、幸助よりは見目のいい子供たちが、お金と交換で引き渡されていく光景を何度も見た。

 客として訪れるのは何故か全員ふくよかで、顎が割れてたりゲジゲジ眉毛だったりと、あまり綺麗ではない女性ばかり。
 
 女性の外見についてどうこう言うような幸助ではないが、その女性たちの幸助を見る目にはなにかゾッとするようなものを感じ、どうか自分を買わないで欲しいと心から願った。

 何人かの客が幸助について尋ねたりするような様子は見えたものの、結局幸助は売れ残り、当然のごとく幸助よりも見た目のいい少年少女ばかりが売られていった。

 八日が経ち、九日が経ち、そして十日目が訪れた。

 まずい食事と睡眠不足、それに極度の不安とストレスから、幸助の精神も体力も限界に近づいていた。

 もう誰でもいいから、早くここから助け出して欲しい。

 そう祈り、鎖に繋がれたまま空を仰いでいた幸助の視界に、誰かの影が映りこんだ。

 視線を下げ、その人物に焦点を合わせた瞬間────


 







 ────幸助は、自分の祈りが天に通じ、女神が舞い降りたのかと思った。




 ◇


 その女性は、あまりにも美しかった。

 年齢は十代の終わりから二十代の前半くらいだろうか。

 悲しげに俯いてはいるものの、地面に座り込んでいる幸助からは、女性の顔がよく見えた。

 燃えるような赤い髪、すっきりとした輪郭、意志の強そうな切れ長の目に、真っ直ぐで高い鼻梁。
 唇は薄くピンク色で、眉毛は細く、まつ毛は長い。

 顔だけでなく、スタイルも抜群だった。
 ローブを纏ってはいるものの、裾から伸びるスラっとした長い脚や胸のあたりの盛り上がりを見れば、女性の体型がモデルのように美しいものだとはっきり分かる。

 こちらに来てからはもちろんのことだが、地球にいた頃ですら見たことのないような美女だった。

 鎖に繋がれてくたびれていた幸助の心が、光と水を与えられた植物のように蘇っていく。

 幸助は、あの人と一緒に行きたいと思った。
 他の誰に買われるのでもなく、あの綺麗な人と一緒に行きたいと。

 瞬きすら忘れ、幸助は赤髪の女性に見とれていた。
 目を離すことができなかった。

 すると、ふいに赤髪の女性がバッと顔を上げて幸助たちを見た。
 その表情は、驚き戸惑っているように見えた。

 勢いよく頭を上げた拍子に、ローブの前が開き、隠されていた胸元が露出してしまう。

 中にはもちろん服を着ていたが、胸の部分がはだけていて、谷間が見えていた。

 突然周りに居た少年少女たちがげえげえと吐き出すが、そんなことが気にならないくらいに幸助の意識は赤髪の女性の胸に引き寄せられてしまっていた。

 幸助も思春期の男だ、綺麗な女性の胸など見せられたら、たとえどんな状況でも意識を奪われて当然だろう。

 じっと胸を注視していると、赤髪の女性の視線が自分に向けられていることに幸助は気付いた。

 恥ずかしくなって、視線を逸らす。
 見えているからといって、見ていいということではないのだ。

「□%○×&#……」

 小さなつぶやきが聞こえ、もう一度赤髪の女性に目を移すと、こちらに向かってふらふらと近寄ってくるのが見えた。

 その視線は、真っ直ぐに幸助を見つめている。
 確実に、幸助を目指して歩いていた。

 一歩、また一歩と、近づく度にその足取りを確かなものにしながら、もうすぐ手の届く距離まで近づいてきた。

 がちゃっ、と背後で音がして、幸助は茶髪の奴隷商が出てきたことを知った。
 それでも、幸助の視線はずっと赤髪の女性を追っていた。

「$○△#×%」

 ピンク色の綺麗な唇が言葉を紡ぐ。
 赤髪の女性は、声すらも美しかった。

「△&#□×。○$」

 またピンク色の唇が動き、幸助の近くにどさっと重い袋が放られる。

 茶髪の奴隷商人はその中身を確認すると、妙な声を上げたあと幸助の首に付けられた鎖を外した。
 そして、赤髪の女性の前に立たされた。

 幸助はどうしていいのか分からなかった。

「○□&×#%」

 赤髪の女性が、何かを語りかけてくれる。
 その声は優しげで、聞くだけで幸助の心をふわふわと幸せな気持ちにさせてくれたが、意味はまるで分からない。
 思わず幸助が首を傾げると、赤髪の女性は幸助を指さした。

 次に自分を指差す。

 そして鞄から取り出した硬貨を指差すと、最後に茶髪の奴隷商人を指さした。

 そこまでしてもらって、ようやく幸助は理解した。

 この女神のように美しい女性が、自分のことを買ってくれたのだ。
 幸助は、この赤髪の女性と一緒に行くことができるのだ。

 嬉しさがこみ上げてきた。

 どうして売れ残りの自分なんかを選んでくれたのかは分からないが、幸助はこの人のためならどんなことでもしようと決意した。


 
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