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終章
魔剣
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黒騎士一番隊、オルガ・マゴットは、こちらに向かって歩を進める赤髪の剣士の動きを、じっと観察した。
緊張や力みは見受けられず、まるで散策をするかのような自然体。
だが、うかつに近づけば、即座に斬り捨てられそうな鋭さも漂っている。
間違いなく強者だ。
……だが、予想以上では無い。
(A級冒険者パーティー『はぐれ者たち』のリーダー、『魔剣』のリディア……やはりこの程度か……)
剣は一流、体術も一流、さらには攻撃魔術まで扱えるという、万能の剣士。
しかしオルガたち黒騎士が、はぐれ者たちの中でもっとも警戒していなかったのが、このリディアだった。
確かに、一般的に見ればリディアは非常に優秀な冒険者だろう。
一流の剣術と体術による近接戦闘に加え、魔術による中~遠距離の攻撃手段も持っているのだから。
だが、所詮それだけだ。
オルガ自身、剣術は一流であると自負している。
リディアとはまだ剣を交えていないため、どちらが上かは正確には分からないが、おそらくほぼ互角だろう。
また、体術においても、三番隊にリディアと互角に戦えるであろう拳士がひとりいた。
魔術においては専門外だが、噂を集めた限りでは広範囲魔術は扱えず、あくまでも対人魔術を行使できる程度だと聞いていた。
つまり、魔術師としては二流だ。
一流の剣術と体術、そして二流の魔術。
その程度であれば、恐れるに足りない。
アレックスやミゼルを代表とした、人の枠をはみ出した『超人』たちが集まるはぐれ者たちにおいて、リディアだけが明らかに見劣りしている。
天才に混じった、才ある凡人。
それが黒騎士たちの、リディアに対する評価だった。
おそらく戦闘能力ではなく、人外の超人たちをまとめ上げる統率力によって、リディアはパーティーリーダーの地位に就いているのだろう。
(……私が動きを抑えている間に、他の奴がとどめを刺して終わり、だな)
念のため、リディアにも広場にいる半数の戦力を割いていたが、さっさと終わらせてアレックスに全戦力を注いだ方がいい。
そう考えたオルガは、ハンドサインで仲間に簡単な指示を出すと、流れるような動きでリディアに向かって歩を進めた。
二歩、三歩……
魔術で攻撃されるのを警戒していたが、その兆候はない。
五歩、六歩……
互いに向かって歩んでいるため、距離はあっという間に縮まっていく。
そして、あと数歩で互いの間合いに入る、という所で、先にオルガが仕掛けた。
一気に踏み込んで距離を潰し、鋭い刺突を放つ。
リディアの喉元を狙ったそれは、これで終わるならそれでよし、という殺意に満ちたもの。
だがその攻撃は、わずかに上体を傾けたリディアに躱される。
そして返礼として返されたのは、すくい上げるように放たれた下方からの斬撃────ではなく、斬撃を思わせる鋭さの蹴り。
オルガは左腕を上げて蹴りを防ぎ、その勢いを利用して距離を取った。
(……なるほど)
この一瞬の攻防で、オルガは二つのことを理解した。
一つは、リディアの近接戦闘能力が予想の範囲内であること。
そしてもう一つは、リディアにはこちらを殺すつもりがない、ということだ。
先ほどの蹴撃には、殺意がほとんど籠もっていなかった。
それ以前に、もし殺すつもりならば、脚による打撃ではなく剣による斬撃を選ぶのが普通だろう。
確かに、一瞬斬撃かと勘違いするほどの鋭い蹴りではあったし、防いだ左腕には鈍いシビレが残っているが、仮に頭に当たったところで死ぬほどの威力ではなかった。
(舐められたものだな……っ)
オルガの中に、怒りが湧く。
手加減をされていることに、手加減をしても勝てる相手だと思われていることに。
「……シッ!」
口の端から気合いを漏らしながら、先ほどよりも深く踏み込み、鋭く、速く、リディアに斬りかかった。
右上段からの袈裟斬り。
今度は軽く躱せるような攻撃ではない。
リディアが剣で斬撃を防いだ瞬間、空いた胴体に今度は自分が蹴りを叩き込んでやる。
意趣返しのつもりで、一手先を読み、防がれる前提の攻撃を繰り出したオルガだったが……
「ガッ、ァアアアアアッ!?」
予想外の衝撃が、オルガを襲った。
その発生源は────リディアの剣だ。
オルガの斬撃を受け止めたリディアの剣はわずかに発光し、その表面にはバチバチと雷光が弾けていた。
(雷撃の、魔術!? 馬鹿な、そんなこと……っ!?)
手にした剣から伝わってくる雷に身を打たれながら、オルガは驚愕する。
あり得ないことが起こっていたからだ。
『攻撃魔術を使用するとき、肉体は動きを止める』
それがこの世界の常識だ。
魔力の使用量が低い〈伝達〉や〈戦場把握〉などの『スキル』とは違い、ある一定量以上の魔力を必要とする魔術────攻撃魔術を行使しようとするとき、人の肉体はその動きを極端に阻害される。
それは、脳のスイッチが肉体ではなく魔力を操作する為のものに切り替わるから、などの説があるが、現状では明らかにはなっていない。
ともかく、攻撃魔術を扱おうとすれば体の動きは緩慢になり、どれだけ抗おうとも、かろうじて視線や手先をわずかに動かせるだけになってしまうのだ。
だからこそ、この現状をオルガは予想すらしていなかった。
剣士と剣士の戦い、それも一流同士の戦いともなれば、瞬きをする刹那で勝敗が決する。
魔術を行使するために魔力を練り上げたせいで、リディアの動きが一瞬でも止まれば、それを見逃すようなオルガではない。
だがリディアの体が硬直している様子など、微塵もなかった。
それでもリディアは、完璧なタイミングで魔術を発動させて見せた。
つまり、リディアは体を動かしながら魔力を練り、オルガの剣を受けると同時に雷撃の魔術を発動した、ということだ。
そうとしか思えない。
(魔剣……魔剣とは、まさか………)
剣と魔術を、同時に扱うことから付けられた二つ名なのか。
その結論に至る前に、オルガの意識は雷撃によって焼き切れた。
◇
世界に自分を認めさせるための手段として、リディアには、ただひたすらに強さを求めていた時期があった。
ミゼルと出会い、ルナやアレックスを仲間にしたばかりの頃だ。
当時、リディアは自分の強さが頭打ちになっていることを理解していた。
底知れぬ魔力を持つミゼルや、限界突破した身体能力を持つアレックスに比べ、強さという面で言うならばリディアは明らかに劣っている。
それは生まれ持った才能の差。
リディアとて、剣士として冒険者として、才能には恵まれていないわけではない。
だが、あくまでも人としての範囲内でだ。
リディアの才能を山の頂に例えるならば、ミゼルやアレックスの才能は雲の上にあった。
それは、羽でも生えていなければ届かぬ高さ。
人の身では到底たどり付けない場所だ。
剣と体術で二つの山の頂に立とうとも、決して超えられぬ『空』という天井が、リディアの上には覆い被さっていた。
だが、リディアは諦めることが出来なかった。
認められたい、優しくされたい────愛されたい。
醜い姿に生まれ落ちた自分に残された手段は強さしかないと、頑なに思い詰めていたからだ。
だからリディアは、ミゼルに頼み込んで魔術を学んだ。
魔力量の少なさから広範囲魔術を使う事は出来なかったが、そんなことは構わなかった。
一つでも多く、自分を強くするための手段が欲しかった。
だが、魔術では足りない。
攻撃手段が増えたのは喜ばしい事だが、リディアの本質は近接戦闘だ。
魔術を発動させるために一瞬でも体が固まってしまうのは、敵の間合いで戦いを繰り広げるリディアにとって、致命的な隙となる。
だからリディアは────その隙をなくそうとした。
剣を上段に振りかぶった状態で魔力を練り、魔術を発動させながら振り下ろす。
そんな訓練を始めたのだ。
ミゼルには止められた。
そんなことをすれば、どうなるか分からないと。
未だに、なぜ魔術を行使する際に体が動かなくなるのか、その仕組みさえ解明されていないのだ。
最悪の場合、脳に異常な負荷がかかって廃人になってしまう可能性すらある。
それでも、リディアはミゼルの説得を振り切って訓練を始めた。
最初は、剣を振り下ろすことすら出来なかった。
月日を重ねていくうちに、ゆっくりとだが剣を振れるようになった。
それと同時に、頭の奥に鈍い痛みが走るようにもなった。
さらに月日が経ったが、振り下ろせる速さはさほど変わらなかった。
だが、頭の痛みは増していった。
どれだけ回数を重ねても、剣の速さは変わらず、頭の痛みだけが増していく日々。
それでも、リディアは諦めなかった。
所詮ただの人でしかない自分が空を飛ぶ為には、この方法しかないのだと心に決めて、一心不乱に剣を振り続けた。
頭痛はさらにひどくなり、時には嘔吐したり、鼻から血が流れ出たり、意識を失う事すらもあったが、リディアが訓練を休む日はなかった。
────そしてある日。
頭の奥で、ブツリと何かが切れるような音が聞こえた。
その直後、振り下ろされた剣は鋭く風を切り裂き、目の前には炎の魔術が発動していた。
その日から、リディアは『魔剣』となったのだ。
おそらくはこの世界で初の、剣と魔術を同時に扱える存在に……
「…………」
体から薄く煙を上げて倒れ伏すオルガを、リディアは見下ろしていた。
オルガは強かった。
才能で言えば、おそらく自分と同等。
もしリディアに『魔動体術』(命名:ミゼル)の技能が無ければ、倒れていたのは自分だったかも知れない。
だが、勝ったのはリディアだ。
才能を覆し、この世の理を覆し、死に物狂いの訓練を経て空へ至る翼を手に入れたリディアは、紛れもなく超人集団『はぐれ者たち』を率いるに相応しい強さを持っていた。
「──さあ、どうした。かかってこないなら、こちらからいくぞ」
あり得ない光景を目にして固まった黒騎士たちに、リディアが告げた。
吹き上がる魔力に、まるで炎のように赤い髪がそよぐ。
一歩、一歩と近づくごとに威圧感を増すその姿は、囚われの王子を救わんとする勇者ではない。
どちらかと言えば────
「魔王……」
黒騎士の誰かがそう呟くと同時に、こちらでも蹂躙が開始された。
緊張や力みは見受けられず、まるで散策をするかのような自然体。
だが、うかつに近づけば、即座に斬り捨てられそうな鋭さも漂っている。
間違いなく強者だ。
……だが、予想以上では無い。
(A級冒険者パーティー『はぐれ者たち』のリーダー、『魔剣』のリディア……やはりこの程度か……)
剣は一流、体術も一流、さらには攻撃魔術まで扱えるという、万能の剣士。
しかしオルガたち黒騎士が、はぐれ者たちの中でもっとも警戒していなかったのが、このリディアだった。
確かに、一般的に見ればリディアは非常に優秀な冒険者だろう。
一流の剣術と体術による近接戦闘に加え、魔術による中~遠距離の攻撃手段も持っているのだから。
だが、所詮それだけだ。
オルガ自身、剣術は一流であると自負している。
リディアとはまだ剣を交えていないため、どちらが上かは正確には分からないが、おそらくほぼ互角だろう。
また、体術においても、三番隊にリディアと互角に戦えるであろう拳士がひとりいた。
魔術においては専門外だが、噂を集めた限りでは広範囲魔術は扱えず、あくまでも対人魔術を行使できる程度だと聞いていた。
つまり、魔術師としては二流だ。
一流の剣術と体術、そして二流の魔術。
その程度であれば、恐れるに足りない。
アレックスやミゼルを代表とした、人の枠をはみ出した『超人』たちが集まるはぐれ者たちにおいて、リディアだけが明らかに見劣りしている。
天才に混じった、才ある凡人。
それが黒騎士たちの、リディアに対する評価だった。
おそらく戦闘能力ではなく、人外の超人たちをまとめ上げる統率力によって、リディアはパーティーリーダーの地位に就いているのだろう。
(……私が動きを抑えている間に、他の奴がとどめを刺して終わり、だな)
念のため、リディアにも広場にいる半数の戦力を割いていたが、さっさと終わらせてアレックスに全戦力を注いだ方がいい。
そう考えたオルガは、ハンドサインで仲間に簡単な指示を出すと、流れるような動きでリディアに向かって歩を進めた。
二歩、三歩……
魔術で攻撃されるのを警戒していたが、その兆候はない。
五歩、六歩……
互いに向かって歩んでいるため、距離はあっという間に縮まっていく。
そして、あと数歩で互いの間合いに入る、という所で、先にオルガが仕掛けた。
一気に踏み込んで距離を潰し、鋭い刺突を放つ。
リディアの喉元を狙ったそれは、これで終わるならそれでよし、という殺意に満ちたもの。
だがその攻撃は、わずかに上体を傾けたリディアに躱される。
そして返礼として返されたのは、すくい上げるように放たれた下方からの斬撃────ではなく、斬撃を思わせる鋭さの蹴り。
オルガは左腕を上げて蹴りを防ぎ、その勢いを利用して距離を取った。
(……なるほど)
この一瞬の攻防で、オルガは二つのことを理解した。
一つは、リディアの近接戦闘能力が予想の範囲内であること。
そしてもう一つは、リディアにはこちらを殺すつもりがない、ということだ。
先ほどの蹴撃には、殺意がほとんど籠もっていなかった。
それ以前に、もし殺すつもりならば、脚による打撃ではなく剣による斬撃を選ぶのが普通だろう。
確かに、一瞬斬撃かと勘違いするほどの鋭い蹴りではあったし、防いだ左腕には鈍いシビレが残っているが、仮に頭に当たったところで死ぬほどの威力ではなかった。
(舐められたものだな……っ)
オルガの中に、怒りが湧く。
手加減をされていることに、手加減をしても勝てる相手だと思われていることに。
「……シッ!」
口の端から気合いを漏らしながら、先ほどよりも深く踏み込み、鋭く、速く、リディアに斬りかかった。
右上段からの袈裟斬り。
今度は軽く躱せるような攻撃ではない。
リディアが剣で斬撃を防いだ瞬間、空いた胴体に今度は自分が蹴りを叩き込んでやる。
意趣返しのつもりで、一手先を読み、防がれる前提の攻撃を繰り出したオルガだったが……
「ガッ、ァアアアアアッ!?」
予想外の衝撃が、オルガを襲った。
その発生源は────リディアの剣だ。
オルガの斬撃を受け止めたリディアの剣はわずかに発光し、その表面にはバチバチと雷光が弾けていた。
(雷撃の、魔術!? 馬鹿な、そんなこと……っ!?)
手にした剣から伝わってくる雷に身を打たれながら、オルガは驚愕する。
あり得ないことが起こっていたからだ。
『攻撃魔術を使用するとき、肉体は動きを止める』
それがこの世界の常識だ。
魔力の使用量が低い〈伝達〉や〈戦場把握〉などの『スキル』とは違い、ある一定量以上の魔力を必要とする魔術────攻撃魔術を行使しようとするとき、人の肉体はその動きを極端に阻害される。
それは、脳のスイッチが肉体ではなく魔力を操作する為のものに切り替わるから、などの説があるが、現状では明らかにはなっていない。
ともかく、攻撃魔術を扱おうとすれば体の動きは緩慢になり、どれだけ抗おうとも、かろうじて視線や手先をわずかに動かせるだけになってしまうのだ。
だからこそ、この現状をオルガは予想すらしていなかった。
剣士と剣士の戦い、それも一流同士の戦いともなれば、瞬きをする刹那で勝敗が決する。
魔術を行使するために魔力を練り上げたせいで、リディアの動きが一瞬でも止まれば、それを見逃すようなオルガではない。
だがリディアの体が硬直している様子など、微塵もなかった。
それでもリディアは、完璧なタイミングで魔術を発動させて見せた。
つまり、リディアは体を動かしながら魔力を練り、オルガの剣を受けると同時に雷撃の魔術を発動した、ということだ。
そうとしか思えない。
(魔剣……魔剣とは、まさか………)
剣と魔術を、同時に扱うことから付けられた二つ名なのか。
その結論に至る前に、オルガの意識は雷撃によって焼き切れた。
◇
世界に自分を認めさせるための手段として、リディアには、ただひたすらに強さを求めていた時期があった。
ミゼルと出会い、ルナやアレックスを仲間にしたばかりの頃だ。
当時、リディアは自分の強さが頭打ちになっていることを理解していた。
底知れぬ魔力を持つミゼルや、限界突破した身体能力を持つアレックスに比べ、強さという面で言うならばリディアは明らかに劣っている。
それは生まれ持った才能の差。
リディアとて、剣士として冒険者として、才能には恵まれていないわけではない。
だが、あくまでも人としての範囲内でだ。
リディアの才能を山の頂に例えるならば、ミゼルやアレックスの才能は雲の上にあった。
それは、羽でも生えていなければ届かぬ高さ。
人の身では到底たどり付けない場所だ。
剣と体術で二つの山の頂に立とうとも、決して超えられぬ『空』という天井が、リディアの上には覆い被さっていた。
だが、リディアは諦めることが出来なかった。
認められたい、優しくされたい────愛されたい。
醜い姿に生まれ落ちた自分に残された手段は強さしかないと、頑なに思い詰めていたからだ。
だからリディアは、ミゼルに頼み込んで魔術を学んだ。
魔力量の少なさから広範囲魔術を使う事は出来なかったが、そんなことは構わなかった。
一つでも多く、自分を強くするための手段が欲しかった。
だが、魔術では足りない。
攻撃手段が増えたのは喜ばしい事だが、リディアの本質は近接戦闘だ。
魔術を発動させるために一瞬でも体が固まってしまうのは、敵の間合いで戦いを繰り広げるリディアにとって、致命的な隙となる。
だからリディアは────その隙をなくそうとした。
剣を上段に振りかぶった状態で魔力を練り、魔術を発動させながら振り下ろす。
そんな訓練を始めたのだ。
ミゼルには止められた。
そんなことをすれば、どうなるか分からないと。
未だに、なぜ魔術を行使する際に体が動かなくなるのか、その仕組みさえ解明されていないのだ。
最悪の場合、脳に異常な負荷がかかって廃人になってしまう可能性すらある。
それでも、リディアはミゼルの説得を振り切って訓練を始めた。
最初は、剣を振り下ろすことすら出来なかった。
月日を重ねていくうちに、ゆっくりとだが剣を振れるようになった。
それと同時に、頭の奥に鈍い痛みが走るようにもなった。
さらに月日が経ったが、振り下ろせる速さはさほど変わらなかった。
だが、頭の痛みは増していった。
どれだけ回数を重ねても、剣の速さは変わらず、頭の痛みだけが増していく日々。
それでも、リディアは諦めなかった。
所詮ただの人でしかない自分が空を飛ぶ為には、この方法しかないのだと心に決めて、一心不乱に剣を振り続けた。
頭痛はさらにひどくなり、時には嘔吐したり、鼻から血が流れ出たり、意識を失う事すらもあったが、リディアが訓練を休む日はなかった。
────そしてある日。
頭の奥で、ブツリと何かが切れるような音が聞こえた。
その直後、振り下ろされた剣は鋭く風を切り裂き、目の前には炎の魔術が発動していた。
その日から、リディアは『魔剣』となったのだ。
おそらくはこの世界で初の、剣と魔術を同時に扱える存在に……
「…………」
体から薄く煙を上げて倒れ伏すオルガを、リディアは見下ろしていた。
オルガは強かった。
才能で言えば、おそらく自分と同等。
もしリディアに『魔動体術』(命名:ミゼル)の技能が無ければ、倒れていたのは自分だったかも知れない。
だが、勝ったのはリディアだ。
才能を覆し、この世の理を覆し、死に物狂いの訓練を経て空へ至る翼を手に入れたリディアは、紛れもなく超人集団『はぐれ者たち』を率いるに相応しい強さを持っていた。
「──さあ、どうした。かかってこないなら、こちらからいくぞ」
あり得ない光景を目にして固まった黒騎士たちに、リディアが告げた。
吹き上がる魔力に、まるで炎のように赤い髪がそよぐ。
一歩、一歩と近づくごとに威圧感を増すその姿は、囚われの王子を救わんとする勇者ではない。
どちらかと言えば────
「魔王……」
黒騎士の誰かがそう呟くと同時に、こちらでも蹂躙が開始された。
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