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第一章
王国貴族ディックの後悔
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ディック・ロォン・フィーブルは後悔していた。
ディックは貴族である。
フィリア王国にてフィーブル侯爵家という名家に生まれ、何不自由ない暮らしを送ってきた。
しかし、彼はそれに満足できなかった。
ディックは野心家であり、そして自信家でもあった。
自らの能力と現在の地位が釣り合っていないと考え、その思いは歳を経るごとに増大していった。
そんな彼に、転機が訪れた。
彼の領地に生まれた平民出身の兵士が、先の隣国との戦において物語の英雄もかくや、と言わんばかりの武勇を示したのだ。
ディックはその平民────ブローニーという男に、一代限りの爵位である騎士爵とファゴットの姓を与えると、自らの派閥に取り込んだ。
そして、武勇はあるが頭の弱いブローニーを少しずつ思考誘導し、彼が王家に対して不信感と敵意を募らせるよう仕向けたのだ。
ディックの思惑通り、ブローニーはほんの数年で、この国の全ての不幸がフィリア王家のせいであると思い込むようになった。
ブローニーは愚かだが、その武勇は並ぶ者が居ないほどの豪傑であり、民衆からの人気も高かった。
それこそ、酒色に溺れて政治を疎かにし、貴族たちの手綱を手放してしまった王家などよりも、よっぽど。
そして、英雄ブローニーを旗頭として、ついに虐げられた民衆は立ち上がった。
彼を支える善良な貴族の筆頭として、ディック・ロォン・フィーブル侯爵の名前が挙げられるのは当然のことであった。
王都を奇襲したブローニー革命騎士団は、一夜にして王城を陥落せしめ、速やかに王と王妃の首を刎ねた。
革命は成り、ブローニーは英雄王として湛えられ、ディックはその影で権力をほしいままにし、実質的に王国の支配者となる────はずであった。
祝勝の宴の後、ブローニーにケツを掘られるまでは。
ブローニーはホモであった。
バイとかそう言うのではなく、男にしか欲情しないガチホモであった。
ディックは数年前から、それこそブローニーを自らの派閥に取り込んだその時から、彼に目を付けられていたのだ。
ディックが虎視眈々と権力の座を狙って暗躍する中、ブローニーも虎視眈々とディックのケツを狙っていたのである。
ディックには怜悧な頭脳があった。
だが、物語の英雄の領域にまで踏み込んだ豪傑をはね除けられるような、腕力も胆力も備えてはいなかった。
このままではマズい。
ディックは自分の立場を理解していた。
ディックはブローニーが最も信頼する貴族であり、今や革命によって王座を手に入れた英雄王に、最も近しい側近だと思われていた。
そう思われるよう、他ならぬディック自身が情報操作を行ってきたのだ。
それが、仇となった。
今更ブローニーから離れるようなそぶりを見せれば、ブローニー自身の不興を買うだけではなく、彼を慕う民衆には不審に思われ、新しい王におもねる他の貴族たちには痛い腹を探られることになりかねない。
故に、ディックは頭が痛かった。
頭だけでなく、ケツも痛かった。
このままでは、王国を影から操る支配者どころではない。
ガチホモ英雄王ブローニーの情夫として、ケツ穴がガバガバになるまで使い込まれること請け合いである。
いったいどこで間違ったのか、これからどうすればいいのか。
鈍痛の響くケツを押さえながら、ディックは夜空に浮かぶ月を見上げていた。
────その時だ。
闇夜を切り裂く鋭い光が地上から立ち昇り、夜空で弾けてある紋章を描き出したのは。
その紋章は間違いなく、フィリア王家の家紋であった。
ふと、ディックの脳裏に、この世界に生きるものであれば誰もが知っている物語が思い出された。
それは、フィリア王国の始まりの物語。
神の巫女であるフィリアの祖先と、異世界から訪れた勇者の恋物語。
所詮は物語だと、誰もが思っていた。
フィリア王家の権威を高めるための、ただの作り話だと。
だが、そうではなかったのだ。
夜空に浮かんで消えたあの美しい光は、勇者の召喚を神に願う巫女の祈り。
そして物語が────いや、伝説が事実であるとするならば、次ぎに起こるのは……
直後、天から一筋の光が降り注いだ。
それこそは、神が作り出した光の道。
この世界へと勇者を誘う、次元を超越した光の架け橋であった。
ディックの目から、涙がこぼれ落ちた。
自分は、最初から間違っていたのだと思い知らされた。
フィリア王家は、侵してはいけない聖域であった。
例え腐敗して権威が地に落ちようとも、どれだけ民衆の命や生活が犠牲になろうとも、その貴い血を繋ぎ続けなければならなかったのだ。
幸いなことに、王女であるロリーナは未だに見つかっていない。
おそらくは王家の者しか知らぬ秘密の通路でも使って脱出したのだろう。
ディックは祈った。
どうか、王女が勇者を伴って王都に戻ってきますように、と。
そしてどうか、ガチホモ英雄王ブローニーを打ち倒して、彼から私と、私の尻を救い出してくれますように、と。
その為には、ただ祈っているだけではいられない。
ディックは尻の痛みを堪えながら、物音を立てぬようにブローニーの寝室を後にした。
王女がつつがなく王位に返り咲けるよう、すぐにでも暗躍を開始せねばならぬからだ。
ディックは貴族である。
フィリア王国にてフィーブル侯爵家という名家に生まれ、何不自由ない暮らしを送ってきた。
しかし、彼はそれに満足できなかった。
ディックは野心家であり、そして自信家でもあった。
自らの能力と現在の地位が釣り合っていないと考え、その思いは歳を経るごとに増大していった。
そんな彼に、転機が訪れた。
彼の領地に生まれた平民出身の兵士が、先の隣国との戦において物語の英雄もかくや、と言わんばかりの武勇を示したのだ。
ディックはその平民────ブローニーという男に、一代限りの爵位である騎士爵とファゴットの姓を与えると、自らの派閥に取り込んだ。
そして、武勇はあるが頭の弱いブローニーを少しずつ思考誘導し、彼が王家に対して不信感と敵意を募らせるよう仕向けたのだ。
ディックの思惑通り、ブローニーはほんの数年で、この国の全ての不幸がフィリア王家のせいであると思い込むようになった。
ブローニーは愚かだが、その武勇は並ぶ者が居ないほどの豪傑であり、民衆からの人気も高かった。
それこそ、酒色に溺れて政治を疎かにし、貴族たちの手綱を手放してしまった王家などよりも、よっぽど。
そして、英雄ブローニーを旗頭として、ついに虐げられた民衆は立ち上がった。
彼を支える善良な貴族の筆頭として、ディック・ロォン・フィーブル侯爵の名前が挙げられるのは当然のことであった。
王都を奇襲したブローニー革命騎士団は、一夜にして王城を陥落せしめ、速やかに王と王妃の首を刎ねた。
革命は成り、ブローニーは英雄王として湛えられ、ディックはその影で権力をほしいままにし、実質的に王国の支配者となる────はずであった。
祝勝の宴の後、ブローニーにケツを掘られるまでは。
ブローニーはホモであった。
バイとかそう言うのではなく、男にしか欲情しないガチホモであった。
ディックは数年前から、それこそブローニーを自らの派閥に取り込んだその時から、彼に目を付けられていたのだ。
ディックが虎視眈々と権力の座を狙って暗躍する中、ブローニーも虎視眈々とディックのケツを狙っていたのである。
ディックには怜悧な頭脳があった。
だが、物語の英雄の領域にまで踏み込んだ豪傑をはね除けられるような、腕力も胆力も備えてはいなかった。
このままではマズい。
ディックは自分の立場を理解していた。
ディックはブローニーが最も信頼する貴族であり、今や革命によって王座を手に入れた英雄王に、最も近しい側近だと思われていた。
そう思われるよう、他ならぬディック自身が情報操作を行ってきたのだ。
それが、仇となった。
今更ブローニーから離れるようなそぶりを見せれば、ブローニー自身の不興を買うだけではなく、彼を慕う民衆には不審に思われ、新しい王におもねる他の貴族たちには痛い腹を探られることになりかねない。
故に、ディックは頭が痛かった。
頭だけでなく、ケツも痛かった。
このままでは、王国を影から操る支配者どころではない。
ガチホモ英雄王ブローニーの情夫として、ケツ穴がガバガバになるまで使い込まれること請け合いである。
いったいどこで間違ったのか、これからどうすればいいのか。
鈍痛の響くケツを押さえながら、ディックは夜空に浮かぶ月を見上げていた。
────その時だ。
闇夜を切り裂く鋭い光が地上から立ち昇り、夜空で弾けてある紋章を描き出したのは。
その紋章は間違いなく、フィリア王家の家紋であった。
ふと、ディックの脳裏に、この世界に生きるものであれば誰もが知っている物語が思い出された。
それは、フィリア王国の始まりの物語。
神の巫女であるフィリアの祖先と、異世界から訪れた勇者の恋物語。
所詮は物語だと、誰もが思っていた。
フィリア王家の権威を高めるための、ただの作り話だと。
だが、そうではなかったのだ。
夜空に浮かんで消えたあの美しい光は、勇者の召喚を神に願う巫女の祈り。
そして物語が────いや、伝説が事実であるとするならば、次ぎに起こるのは……
直後、天から一筋の光が降り注いだ。
それこそは、神が作り出した光の道。
この世界へと勇者を誘う、次元を超越した光の架け橋であった。
ディックの目から、涙がこぼれ落ちた。
自分は、最初から間違っていたのだと思い知らされた。
フィリア王家は、侵してはいけない聖域であった。
例え腐敗して権威が地に落ちようとも、どれだけ民衆の命や生活が犠牲になろうとも、その貴い血を繋ぎ続けなければならなかったのだ。
幸いなことに、王女であるロリーナは未だに見つかっていない。
おそらくは王家の者しか知らぬ秘密の通路でも使って脱出したのだろう。
ディックは祈った。
どうか、王女が勇者を伴って王都に戻ってきますように、と。
そしてどうか、ガチホモ英雄王ブローニーを打ち倒して、彼から私と、私の尻を救い出してくれますように、と。
その為には、ただ祈っているだけではいられない。
ディックは尻の痛みを堪えながら、物音を立てぬようにブローニーの寝室を後にした。
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