6 / 29
第一章
予期せぬ出会い
しおりを挟む
野ウサギの香草焼きを貪り喰った正男とロリーナは、正男が頑張って作った濾過装置によって浄水された泉の水で喉を潤し、人心地ついていた。
穏やかな風が吹き、優しい日の光が眠気を誘う。
もう、豪勢な暮らしとか、簒奪者への復讐なんてどうでもいい。
このまま静かに、森の中で暮らしていければ、それでいいんじゃないか。
……そんな風に思うのは、当然正男だけであった。
「さあ、さっさと王国を取り戻すのじゃ」
容赦なく、ビシバシと枝で正男を叩きながらロリーナが言う。
しかも枝を棒状のものから、よく撓る乗馬鞭っぽい枝に変えたせいで、地味に痛い。
それでも正男は笑顔で受け入れつつ、懇切丁寧にロリーナに説明した。
敵は強大である事。
打倒するには長い時間と沢山のお金と正確な情報、そして大勢の味方が必要であること。
まずはそういった準備をするため、ひとまずこの水場を住みやすく開発して拠点とし、街などで情報を集めることから始めるべきだということ。
「知らん」
正男の懇切丁寧な説明は、その一言で切って捨てられた。
「いいからなんとかせい」
そして無慈悲な宣告が告げられる。
仕方無いので、正男はなんとかすることにした。
と言ってももちろん、お城に突撃するわけではない。
さきほどロリーナに説明した通り、水場を開発するのである。
ロリーナが目覚める前に、正男は付近をグルリと探索してきたのだが、この辺りに人の痕跡はなかった。
おそらく、ここは街や街道などから外れた所にあり、滅多に人が入り込んでは来ないのだろう。
もしかしたら、王族が指定した禁足地のような場所なのかも知れない。
であるならば、ひとまずは安全と考えていいだろう。
もちろんロリーナに差し向けられた追っ手がここを探し当てる可能性はあるが、それでも彼女を連れて人目の多い場所を歩き回るよりはずっと安全なはずだった。
「何をしておるのじゃ」
正男が拠点開発に勤しんでいると、暇を持て余したロリーナが尋ねてきた。
その手には相変わらずよく撓る枝が握られており、当たり前のように正男をしばいてくる。
正男はむしろ枝でしばかれることに興奮を覚え始めていたが、なんとかそれを悟られぬよう平常心を装いつつ、自分は住居を作ろうとしているのだと答えた。
もちろん、立派なログハウスなんてものは流石の『サバイバル知識豊富な寝取りおじさん』の能力を使っても作れるはずがないので、木の間に蔓草で作ったロープを渡して、そこに葉の付いた枝や、虫の嫌う匂いを出す花などをを引っ掛けただけの簡素なものだが。
「ふむ」
とロリーナは頷いた後、
「ではベッドを作れ、ふかふかのやつじゃ」
などと宣ってきた。
相変わらずの無茶な注文である。
だが、正男に断るという選択肢はない。
正男は恭しく一礼すると、その要望に応えるべく作業を開始した。
こんな森の中では材料も、そして加工する為の道具もまるで足りていないが、そこはもちろん『サバイバル知識豊富な寝取りおじさん』の出番である。
現状でふかふかベッドを作るために必要な素材として手に入りそうなのは、よく乾燥した藁のような植物か、柔らかな体毛を持った動物の毛皮であろう。
しかし、わがままなお姫様が、植物の乾燥を待ってくれるはずもない。
となると、残るは動物の毛皮一択である。
気は進まないが、正男は狩りに出かけることにした。
一応、武器らしい物は持っている。
丈夫な太い枝に平たい石を蔓草で縛り付けた手斧と、真っ直ぐな枝に尖った石を縛り付けた槍だ。
原始人のような装備であるが、そもそも環境が原始的なのだから仕方が無い。
ロリーナに、森の中は危険だし、迷子になる可能性もあるから絶対に入らないよう注意すると、正男は木々を分け入って森に入っていった。
糞や足跡、折れた枝など頼りに、動物を探し回ること数十分。
突然、正男は動きを止めた。
正男の耳に、微かにではあるが、か細い音が聞こえてきたからだ。
そしてその音は、到底無視できるようなものではなかった。
────悲鳴だ。
それも、水場に残してきたロリーナの悲鳴であった。
なぜ、それなりに離れた位置にいる正男に、ロリーナの悲鳴が聞こえたのか。
それは、『エロ同人の竿役おじさん』の新たな能力が発動したからに他ならなかった。
今回、正男の脳裏に浮かび上がってきた映像は、『目は見えないが声だけで相手が美女かどうかを判断でき、わざと困っている振りをして声をかけてくれた女性を家に誘い込んではレ☆プし、それを脅迫の種として繰り返し肉体関係を要求するおじさん』の姿だった。
つまり、離れた場所にいるロリーナの悲鳴を聞き逃さなかったのも、声とも言えないような音をロリーナの悲鳴であると瞬時に判断できたのも、異常な聴覚を持つ『盲目のレ☆プおじさん』の能力だったわけである。
正男は走った。
悲鳴の聞こえた場所に向かって、迷うことなく一直線に走った。
森の中でも方向を見失うことなく、足場の悪さも気にせず、肥満体である事も忘れたかのように疾走した。
『サバイバル知識豊富な寝取りおじさん』と『盲目のレ☆プおじさん』の合わせ技である。
そして、たどり着いた先で正男が目にした光景は────
「ぬぉおおおおお、なんじゃ貴様、近寄るでないわ!」
尻尾を振りながらじゃれつこうとする白い犬を、よく撓る枝で追い払おうとするロリーナの姿であった。
穏やかな風が吹き、優しい日の光が眠気を誘う。
もう、豪勢な暮らしとか、簒奪者への復讐なんてどうでもいい。
このまま静かに、森の中で暮らしていければ、それでいいんじゃないか。
……そんな風に思うのは、当然正男だけであった。
「さあ、さっさと王国を取り戻すのじゃ」
容赦なく、ビシバシと枝で正男を叩きながらロリーナが言う。
しかも枝を棒状のものから、よく撓る乗馬鞭っぽい枝に変えたせいで、地味に痛い。
それでも正男は笑顔で受け入れつつ、懇切丁寧にロリーナに説明した。
敵は強大である事。
打倒するには長い時間と沢山のお金と正確な情報、そして大勢の味方が必要であること。
まずはそういった準備をするため、ひとまずこの水場を住みやすく開発して拠点とし、街などで情報を集めることから始めるべきだということ。
「知らん」
正男の懇切丁寧な説明は、その一言で切って捨てられた。
「いいからなんとかせい」
そして無慈悲な宣告が告げられる。
仕方無いので、正男はなんとかすることにした。
と言ってももちろん、お城に突撃するわけではない。
さきほどロリーナに説明した通り、水場を開発するのである。
ロリーナが目覚める前に、正男は付近をグルリと探索してきたのだが、この辺りに人の痕跡はなかった。
おそらく、ここは街や街道などから外れた所にあり、滅多に人が入り込んでは来ないのだろう。
もしかしたら、王族が指定した禁足地のような場所なのかも知れない。
であるならば、ひとまずは安全と考えていいだろう。
もちろんロリーナに差し向けられた追っ手がここを探し当てる可能性はあるが、それでも彼女を連れて人目の多い場所を歩き回るよりはずっと安全なはずだった。
「何をしておるのじゃ」
正男が拠点開発に勤しんでいると、暇を持て余したロリーナが尋ねてきた。
その手には相変わらずよく撓る枝が握られており、当たり前のように正男をしばいてくる。
正男はむしろ枝でしばかれることに興奮を覚え始めていたが、なんとかそれを悟られぬよう平常心を装いつつ、自分は住居を作ろうとしているのだと答えた。
もちろん、立派なログハウスなんてものは流石の『サバイバル知識豊富な寝取りおじさん』の能力を使っても作れるはずがないので、木の間に蔓草で作ったロープを渡して、そこに葉の付いた枝や、虫の嫌う匂いを出す花などをを引っ掛けただけの簡素なものだが。
「ふむ」
とロリーナは頷いた後、
「ではベッドを作れ、ふかふかのやつじゃ」
などと宣ってきた。
相変わらずの無茶な注文である。
だが、正男に断るという選択肢はない。
正男は恭しく一礼すると、その要望に応えるべく作業を開始した。
こんな森の中では材料も、そして加工する為の道具もまるで足りていないが、そこはもちろん『サバイバル知識豊富な寝取りおじさん』の出番である。
現状でふかふかベッドを作るために必要な素材として手に入りそうなのは、よく乾燥した藁のような植物か、柔らかな体毛を持った動物の毛皮であろう。
しかし、わがままなお姫様が、植物の乾燥を待ってくれるはずもない。
となると、残るは動物の毛皮一択である。
気は進まないが、正男は狩りに出かけることにした。
一応、武器らしい物は持っている。
丈夫な太い枝に平たい石を蔓草で縛り付けた手斧と、真っ直ぐな枝に尖った石を縛り付けた槍だ。
原始人のような装備であるが、そもそも環境が原始的なのだから仕方が無い。
ロリーナに、森の中は危険だし、迷子になる可能性もあるから絶対に入らないよう注意すると、正男は木々を分け入って森に入っていった。
糞や足跡、折れた枝など頼りに、動物を探し回ること数十分。
突然、正男は動きを止めた。
正男の耳に、微かにではあるが、か細い音が聞こえてきたからだ。
そしてその音は、到底無視できるようなものではなかった。
────悲鳴だ。
それも、水場に残してきたロリーナの悲鳴であった。
なぜ、それなりに離れた位置にいる正男に、ロリーナの悲鳴が聞こえたのか。
それは、『エロ同人の竿役おじさん』の新たな能力が発動したからに他ならなかった。
今回、正男の脳裏に浮かび上がってきた映像は、『目は見えないが声だけで相手が美女かどうかを判断でき、わざと困っている振りをして声をかけてくれた女性を家に誘い込んではレ☆プし、それを脅迫の種として繰り返し肉体関係を要求するおじさん』の姿だった。
つまり、離れた場所にいるロリーナの悲鳴を聞き逃さなかったのも、声とも言えないような音をロリーナの悲鳴であると瞬時に判断できたのも、異常な聴覚を持つ『盲目のレ☆プおじさん』の能力だったわけである。
正男は走った。
悲鳴の聞こえた場所に向かって、迷うことなく一直線に走った。
森の中でも方向を見失うことなく、足場の悪さも気にせず、肥満体である事も忘れたかのように疾走した。
『サバイバル知識豊富な寝取りおじさん』と『盲目のレ☆プおじさん』の合わせ技である。
そして、たどり着いた先で正男が目にした光景は────
「ぬぉおおおおお、なんじゃ貴様、近寄るでないわ!」
尻尾を振りながらじゃれつこうとする白い犬を、よく撓る枝で追い払おうとするロリーナの姿であった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
36
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる